10話 勇者ダガー=ラインハルト=ダガー
勇者は
ダガー=ラインハルト=ダガーという名前。
細身ではあるが長身、鮮やかな長い髪を後ろでまとめた金髪に碧眼。
優雅な貴族といった雰囲気のイケメン。
というかダガーってもしかして記号の「†」では?
彼もまた転生者である。
◇◇
彼も氷河期直撃世代であるが、彼は氷河期を体験していない。
社会問題になっていた「引き篭もり」という奴だ。
よくある話だが、学校でイジメの標的にされ、不登校からの引きこもりコース。
ネットゲームにハマり部屋から出る事も無い、ヘビーな引きこもりだった。ほぼ家族とも顔を合わせず合わせば喧嘩、気付いたら手遅れになっていた病気による病死からの転生者。
家族を含む周囲すべての人に忌み嫌われていたと思っていた彼が望んだ望みは
「誰からも愛される勇者になりたい」
ダガー=ラインハルト=ダガーという勇者が5年程前、この世界に出現した。
◇◇
勇者を先頭にダンジョンに潜る。
ただ隔離するだけなら浅い場所に安全な場所を確保すればイイのだが、今回はマスカートの希望による「ダンジョンボスも眷属化出来るのか実験してくれ」によるダンジョンボスまできっちり攻略する方向の攻略である。
ペタン領にあるダンジョンはいくつかあるが、ダンジョンに無限に湧く魔物の素材が無制限に手に入るという性質もある為に、人気のある大きなダンジョンは残し、比較的人気の無い「美味しくない」ダンジョンが今回の標的である。
勇者は普段、勇者に心酔している者達とパーティを組み、難易度と魔獣の素材の価値のバランスが悪い、等で今回のダンジョンのように「有効利用」されないダンジョンを攻略して回っているそうだ。来たる封印解除の時間までに、ある程度数を減らす為に。
「今回は急いでいたから俺だけで来たが、正直俺だけで十分だ」
慢心は怖いと思うが、
実際にこの目で彼の戦い方を見ると、全部彼一人で十分じゃないかな、と納得すらしてしまう。
魔法なのか剣術なのか、剣を振るだけで離れた場所の魔物、モンスター、そういう類が吹っ飛ぶ。
以前の戦争で、この剣戟、というか剣から放たれる衝撃波で敵国の軍団まるまる吹き飛ばし、戦況を文字通り「一人で決めた」武勲により叙爵。
その後のダンジョン攻略の多さにより陞爵。
数年で騎士、男爵、と貴族階級上がるのも異例との事だが、そりゃコレなら納得だし、何ならもう少し上でも納得するだろう。
結局未だ魔力を見る事すら出来ないままなので彼のあの剣戟が魔力に寄るモノなのか別のモノなのかもわからないが。
「アレは勇者様のスキルにゃ。スキルは魔法とも違って魔力は使うけど個人の技の方なんだにゃ」
ネム陛下やマスカート卿が来れない代わりに来た親衛隊のイシュタリアが、説明してくれる。
なぜかドヤりつつ。
「まだまだ勇者様は本気出していませんからね、あのお方が本気を出したらダンジョンが崩れかねませんし」
だから私達が雑魚の相手をしますよ、と同じく親衛隊のクリスが勇者をうっとり見守りながら続ける。
タリアは細身の片手剣でスピードで翻弄する猫型獣人らしいスタイル、
クリスは幅広の重量で切るタイプの両手剣を片手で振り回すスタイル。こちらは龍系の獣人らしい。
角の数がそのまま本人の能力を表し、ビジュアルで能力の程度がわかってしまうのでシビアな種族らしい。そして角の本数が4対もあるので「一族で相当のレベル」だと思いっきり主張してしまっているらしい。
「能力があると言ってもソレを使いこなすのは別なんです」と寂しそうに笑う。
剣を振り回すパワーはあるが魔法として事象を発生させる事は「その角の数なら当然出来るハズなのに」出来ないらしい。
氷河期の時の圧迫面接や他の世代の目を思い出す嫌な話だ、その気持ち、よくわかり過ぎて私まで涙が出ちゃう。
そしてヒレン。
結局彼女も魔法も武器も満足に使えないままなので、武器として鉄の両手持ちメイス。
つまるところ金棒とか金砕棒とか言うアレ
技術ではなく力で振り回す、というか叩き潰すと言った形で振り回し、魔獣、魔物を叩き潰している。
時々面倒くさくなったのか手を伸ばして素手で引き裂いたり齧りついたりしてるが。
ああもう、そんなの、美味しくないでしょ、ペッしなさい、ペッ。
ほら、親衛隊の二人とか明らかにドン引きしてるから、止めなさい。
あ、でもダガー勇者の方は目がキラキラしてる。
「レア種族だ、レアキャラじゃないか。凄い!」
ちょっと評価ポイントが気になるが評価高いね。
そんな事をしつつダンジョンを順調に攻略していく。
自然の洞窟の様な、しかし人工物の様な、隙間なく並んだ多角柱で構成された洞窟。
人が丁度上に乗れる様な広さの石柱がこれまた丁度人が飛び上がれる程度の段差で隙間無く並ぶ。
壁も床も天井もすべてが角柱で構成された空間が続く洞窟。
自然の偶然の産物か、緻密に計算されて手を加えられたのか、悩む。
ほとんどのダンジョンがこういう「人の手か自然か」の微妙なラインで造形されているらしい。
もちろん、人型の魔物等により手を加えられた造形物も存在する。
扉がある、柵がある、
こういう生活感があるモノを見ると侵略者は我々なんだな、とすら思ってしまうが、感傷を感じるのはどうやら私だけの様だ。
元は同じ日本人で数年前に来たと聞く勇者ですら気にしていない様に見える。
割り切り、慣れ、そういうモノなのだろう。
そして
「魔力を見る」事が出来ないメンバーだらけで唯一見る事が出来る勇者がこのダンジョンに封じられているボスを見つけた。
巨大な白蛇。
立ち並ぶ石柱の奥の方の一際高い位置、そこに石柱に巻き付いている巨大な白い蛇が見える
魔力の纏い方が私に近く、本体が見えないくらいの濃度、だそうだ。
魔力が見えない私達には「普通に巨大な蛇」ではあるので、見えない方が恐怖とかは感じにくいかもしれない。
と言うあたりで気づく、
アーメル公が倒れたのは貧血じゃなく、私の魔力纏った見た目では?
かの親子は、普通に魔力を見えるらしいし
ネム陛下が評して「素直に魔力を見過ぎる」というレベルで。
悲しくなるから今は考えないでおこう。
ヒレンの様に「自分から積極的に取り込む」訳ではない相手に、どうやって魔力を塗り替えるか、ソコが問題ではある。
さてどうしよう、何か味付けでも出来たらイイのにな。




