7話 アーメル=ペタン
私の名はアーメル=ペタン。
男性名と思うでしょうが、苦情は父上に回しなさい。
このペタン家の家長、現ペタン公爵位を拝領している。女公爵ですわ。
武威を以て国境を守る公爵家において、一角の魔法剣士としてそれなりに名も通っていると自負しております。
とは言え、この歳の小娘が公爵位を持つのは自然な話ではなく、
前公爵が隠居を命じられた結果、私が引き継ぐ事となりましたの。
経緯はまたの機会にお話ししますが、父上や我が家の名誉の為にも、命じた者も本意でなく、胸を張って隠居した、とは言っておきますわ。
前公爵の父上が健在のまま私が引き継いだ事で、面倒な交渉事、実務等は実際にはそのまま父上が取り仕切れます。書面のサインのみ私が行いますが、
父が顔を出す事を禁じられた社交界、帝都の祭礼等を中心に担当する様な形で、まだまだお飾りの立場。
実質的に責務を背負ってもらえている形。むしろ今はまだ父に甘えていきたいところですわ。
色々学ばねば領地経営もままならない。私はまだまだ世間知らずなのです。
公爵家に生を受けた以上、領主として領民を守らねばなりません。
しかし領民、平民の暮らしも知らないまま領主となってしまえば、領地経営もままならない。そんな理由・・・は、おそらくは父にとって建前ですが、
冒険者として一定期間活動する事を父は他の兄達にも科していました。
そもそも父は若い頃自分から率先して冒険者になっていたらしいのですが。
ソコで見識を広げ、深め、それこそが領主の必要な経験だ。と常々申しております。
冒険者にはランク認定制度があり、そのランクを一定以上に上げるのが科された使命。
まあ、確かに冒険者として旅をし、ダンジョンに潜る日々は楽しかったですし、ソコで交流があった冒険者達は今でも手助けしてくれる関係です。
そして何よりも皇后陛下との出会いもまたこの時の事。
その皇后陛下がお忍びでこのペタン領に行幸してくる、となってからは目の回る忙しさでした。
過去にも何度もあった事ではありますが、今回は特殊な事情がありまして。
その事情もまた別の機会に。
◇◇
ネム=ドーラックと名乗っていた当時の陛下は冒険者としての右も左もわからない私を目にかけてくれ、パーティを組み、共に様々な冒険をこなしておりました。
その過程で私が取り組んでいた「ペタン式冒険者教育」とでもいうこのシステムを甚くお気に召し、今の陛下の親衛隊はこのシステムで鍛えられていると、以前、陛下が面白そうに仰っておりました。
元々皇室親衛隊は高位貴族で構成されます、その皇室親衛隊とは別の組織の皇后様個人の親衛隊を新設、ということでこちらは平民からも採用し、身分に関係なく冒険者をさせ、様々な経験を積ませる、等の我が儘を通したと聞きます。
面白い事で利になる事であれば、中央突破する、そういうお人ですから。
根は商人だ、とは仰られてますが。
そんな中央突破する事の多い皇后陛下ですが今回の行幸はさすがに私も賛成しかねています。
この国は決して平和安泰でもなく、油断すれば足元を掬われかねない、そんな中でこの「守るに難く、攻めるに易い」クロスロードに行幸するのはそれなりの理由も理解しますが、それでもまだ他に候補地はあったのでは?と思わないでもありません。
等と思っていたのですが、まさかその道すがら、さらに「面白い人間」を拾ったのでそちらで預かってくれと仰られるとは思いませんでした。
しかも行程の半ば過ぎたあたりでの急な連絡。
何してくれてんの、とハシタナイ冒険者言葉も使いたくなります。
ともかく連絡を受けて詳しく聞くと、魔力の異質さが一際目立つ年頃の男性だと。
ソレを聞いて父が面白がって「魔力の高い者を婿に迎えて血を入れれば今後のペタン家も安泰だな」等と言い出したものだから、さらに大変な事に・・・
面白くて利になる事なら中央突破。な皇后陛下がこの話に乗らないハズもなく。
「そなた等、余の派閥に属する家が大きくなる事は喜ばしい事」とか何とか言って、また物凄い悪巧み顔してるのが目に浮かぶようです。
ただまあ、私もまだ心に決めた殿方も居ないですし、何より皇后陛下の「人を見る目」の確かさは間違いない話。冒険者時代に何度も私自身も彼女のおかげで騙されかけたのを救ってもらいましたし。依頼人の見極めの確かさは折り紙付きです。
まして、その目で上り詰め、今や皇后陛下でございますから。これ以上の証明は無いでしょう。
まずはどのような方か見てやりましょう。と
未婚の子女だとわかる白いドレスで出迎えることに。
あくまで見極めて差し上げます、というだけですが。
で、陛下のお忍び旅で見慣れた馬車を迎えた訳ですが。
見慣れたハズの馬車が冒険者時代にも見たことの無い、異様な魔力を立ち昇らせ、まったく別物。
国家規模の危機にも豪胆に対処してきた父も隣で冷や汗をたらしているのがわかります、当然私はもう立っているのがやっとですコレは。
立ち昇る魔力が風とすら感じる、このような魔力は今まで冒険者をしていた時も見た事がありません。
これは人間ではない、と感覚が警告します。
人間がこんな魔力出せる訳がありません。
で、普段と何も変わらない様子で降りて来た陛下にかろうじて挨拶をした後
陛下が招いて、
降りて来た。
魔力が個体になったかのような渦、
魔力が濃すぎて何も見えない、渦の中心に「何か」が居るとはわかるだけの存在が降りて来た。
人の形を成していないモノ。
「ソレ」に続いてもう一体、
衝撃が走りました。
「ソレ」の魔力と同じ魔力の影にかろうじて存在している魔力、見間違えるハズも無い、
過去に帝国各地に何度も出現し、このペタン領でも幾度も煮え湯を飲まされ、私も戦い、まるで歯が立たなかった化け物。
奴で間違いない。
帝国領内で記録にあるだけでも
ある鉱山では潤沢なミスリル鉱脈をすべて食い尽くし、
ある森では資源そのものの森を食い尽くし、
戦場で突然乱入し両軍の兵を分け隔てなく食い漁り、
大規模な国家事業として建造された要塞を食い荒らし悠々と何処かへ去って行った。
ありとあらゆる場所に神出鬼没に現れ、そして大損害を与えた後、悠々とまた何処かへ去っていく、災厄。
もはや「災厄」とだけ呼ばれ、誰も討伐も封印も出来なかった、神話の時代から存在するとまで言われている巨大な昆虫。
あの災厄で間違いない。
いやいやいやいや何ソレ、何してくれてんの?
陛下とはいえ流石にやり過ぎですよね?ね?
なんでこんな魔物二体も連れて来てんの?
オカシイって。いやいや、本当に何なんですの?
何でつれてきたの?
婚姻とか頭オカシイでしょ、なんで私は白いドレス着ちゃったの。
ムリムリ無理むりカタツムリですわ。
混乱していると渦が一歩こちらに動いた。
立っているだけでやっとだった私はここで視界が暗くなりました。
マジで何連れて来てんの?ネム?ちょっとそこに座りなさいよ?




