48話 板額御前
翌日早々に書類と格闘しているマスカート子爵にフォリナーから聞いた暗殺の話をしたのだが
「まあそういうのよくあるからなあ」と軽く流された。
情報を流してきたのが転生者だと伝えると、そっちの方がよほど興味を持ったほどだ、だが勇者の件がひっかかったらしい。
すぐ会ってみたいと思うも、勇者の魅了の様な何かしら影響を与えて来るギフトを持っているなら直接会うのは危険だからだ。
「勇者の毒と言ったか、まさに毒だな。今までの様に気軽に動けん、厄介な」と愚痴が出る。
とはいえ、暗殺の具体的な計画があるとなると把握しておかねばな。と机の上の呼び鈴を鳴らす子爵だった。
密偵の指揮官に情報収集を命じ、具体的な方法、人数は任せ、この件はマスカート子爵の興味を失っていた。今はソレ以上に王国軍の規模、配置等の把握に頭を痛めている。
宿に戻り、シャムロック騎士団としては、こういう場合の網を張るなら誰が良いだろう?とクチナワに相談してみる。
「そうさのう、妾の眷属も目にはなるが、常に警戒し続けるのは苦手じゃしのう。姉さまは・・・まあ、置いておいて。フジもまた得意とは言い難いのう。ネメシス殿も同じ、情報系は苦手じゃのう」
そこまで言ってふと手を叩く。
「ワカヒメ殿は適任やもしれませぬな、あの草木を眷属として使役する術、アレで帝都の時の様にすれば、面白いのでは?木に隠れる者など、マトモな者ではあり得ませぬからのう」
さっそくワカヒメに頼んで城の周囲の木に網を張っておく。
中央の世界樹は元々眷属の様な物なので、今さら何かせずともあの木に登る様な者が居ればすぐ判るそうだ。
ふと気になって、帝都の世界樹もわかるのか聞いたが、こっちは距離が遠すぎて、わからないそうだ。
ある程度の距離なら届くが、やはり無限に届く訳でもないらしい。
さて、シャムロック騎士団としてはこのくらいが現実的に打てる手と言ったところか。
具体的にどういう人間を探すか、わかっている訳でもないのでコレ以上は動けない。
この件を持ち込んできたフォリナーをこちらから探して詳しく聞いてみるか?と思ったがおそらく情報を流したとバレると彼の命が危ないだろう、こちらから探すのは今は止めておこう。
冒険者ギルドに居ればそのうちまた接触があるだろう。
◇◇
フォリナーを冒険者ギルドで待つが、既にクロスロードから出てしまったのか会えないまま数日が過ぎた。
何日目かの空振りの後、宿に帰った時、ワカヒメが待っていた
「汝れの尋む人、吾が掌中に居てあり」
つまり、私が探す様に頼んだ人を把握したと。
「然なり」
城門からは遠く城門を出入りする者達からは見えないが城壁に近い位置の木のようだ。
その城壁は確かに執務に追われるペタン公が気分転換に散歩を兼ねて歩く事が多い。
数日に一回あるかどうか、だが、間違いなく数日のうちに歩くであろう場所だ。
既にクチナワの眷属が付近に移動して彼女も確認したらしいが、大柄な鬼族の者で特殊なクロスボウを持っているらしい。
暗殺と聞くと以前の帝都の者達の様な小柄で短剣等を使うイメージだったが、狙撃の方だ
というか鬼族なんて種族も居るのか。とクチナワに聞いてしまう
「鬼もいくつか種類があるがあの者はオーガ族と言うモノじゃな、妾と同じくらいには強い力を持つ獣人の一種じゃな。キャラバンでの力仕事で働く者を何度か見かけたハズじゃがの?」
・・・獣人としか認識してなかったかもしれない。
既に暗くなっているが身柄確保すべきだな、と宿の者にマスカート子爵へ暗殺者の身柄を確保するべく動く事を伝える手紙を渡してくれるように頼み、騎士団全員で駆けつける。
結論から言えば戦闘らしい戦闘も無く身柄を確保出来た。
ヒレンが頭を射抜かれた程度だ。
全身隙間が無いのではないかという程古傷だらけで、左手は手首から先が無く、顔には深い傷が刻まれ人相が判らない程の酷い古傷だ。足も片足が不自由でその足にクロスボウを固定し木の枝で体を固定して狙撃するスタイルらしい。
正直ソコまで傷を負って、まだ暗殺者を続けるのは信念か、と思うがフジは「ここまで身体が不自由な者が暗殺者とは思わない」というのも利用しているのだろう。と見ている。
だがどうやらそうでもないらしい
鑑定してわかったが、彼女(!)は転生者だ。しかも八百年程前に転生して今まで生きている女性だ。
「八百年の傷か・・・」と思わずつぶやく。
古傷でわかりにくいが驚いた顔をしてこちらを見上げてくる。
おそらく鑑定をしたのだろう、「お主も・・・日ノ本の者じゃったか」と日本語で聞いてくる
「某は痴れ者よ・・惑者であったわ」と首を振る。
彼女は鎌倉時代の日本より転生し、望む物を聞かれた時に「不老不死」を望んでしまった。
ただ老いず、ただ死なないだけの存在になってしまった。
再生など無い不老不死である。
彼女は当時、流行りの姫武者を目指す者であった。静御前、巴御前、板額御前と三大御前などともてはやされ、幕府の執権、北条政子、などの女性の活躍が人気を博した時代であり、女性でありながら甲冑を着こみ、弓の名手と名高い板額御前に憧れ日々鍛錬に明け暮れていた。
だが現実は夢見る世界とは違い、討伐するハズの野盗との戦いにおいてあっけなく敗れ、その身を捕らわれ、野盗達にひたすら乱暴され、絶望の内に命を奪われたのだった。
この世界でも憧れのまま板額と名乗り、百年程は鍛錬の成果もあり確かにそれなりに活躍出来た。しかし結局、同じ様に、この世界でも名の様にはいかず、腕を斬られ、弓を引く事も出来なくなり、騙され、いつの間にか暗殺者として永久に日陰に生きる者になっていた。
「板額御前などと恐れ多い名であったわ。叶うならもうこの命を絶って欲しい」との呟きは本心であろう。




