47話 吟遊詩人
慌ただしく防衛の準備をするクロスロード。
冒険者ギルドでも、冒険者として活動していた半騎士達がいつでも命令に対応できるように遠出しなくなり、ギルドの酒場にたむろする人が増え、
さらに防衛設備の整備、ソレに必要な物資調達や搬入の作業員募集、周辺から稼ぎの臭いを嗅ぎつけてくる商人等の護衛。
と無限に仕事も増え、受付嬢達も疲労の色が濃くなっていた。
吟遊詩人が現れたのは流石の嗅覚か。
「なんか元気になる曲ね」と一息ついた受付嬢達が彼の演奏に耳を傾ける。
私と同じ境遇の半騎士達の先輩に実際の戦争が起きた時の手順、手続きの事等を聞きに来ていた私は思わず噴き出した。
日曜日の朝のヒーロー物の曲だコレ。
思わず曲を演奏する吟遊詩人を鑑定する。
転生者のエルフの男がリュートを使って普通の曲の様な顔してヒーローソングを歌っている。
厳つい冒険者達がヒーローソングを聞いている。
面白い風景だ。
演奏が一息ついたタイミングで声をかけてみる。
日本語で
◇◇
「いやーまさかここで日本人に会うとはラッキーだなあ」とお互い自己紹介した後、フォリナーが上機嫌でジョッキを空にしていく
「アニソンやヒーローソングは今のココの様な場所で演奏するとよくウケて稼げんのよ、異世界まで著作権は追ってこないしなー」と上機嫌である。
「しかしそうかーここに日本人が居るのかー、ココってもうすぐ戦争になるだろうってのは解ってるよな?ウィルは逃げないの?」と上機嫌のまま聞いてくるが目の奥は笑っていない。
「私もここの半騎士だからな、こうなると動けなくなる」と私は肩をすくめて答える。
「そっかー、うんうんそうだよなー、半騎士って凄い美味しいシステムだし騎士になっておけば冒険やる時の移動でも便利だもんねー」と一人納得しているフォリナー。
話題を変えたいのか私の横に立つヒレンとクチナワを見て「こちらのお姉さんは嫁?それともそっち?」と聞いてくる
ヒレンが明らかに動揺して一歩後ずさりまでして顔を真っ赤にしている。
ソコはぐいぐい来ないのね。ちょっと意外。
クチナワは「いんや、そんな関係では無いのう」としれっと否定した。
フォリナーは「ははーん?」とちょっと悪い顔をしてヒレンを見て、にやにやしている。
話を聞くだけのつもりのギルドに全員でゾロゾロ行くのもな、とヒレンとクチナワだけで来て正解だったかもしれない。
転生者なら鑑定もセットであるだろうから、彼に転生者であるワカヒメやネメシスを鑑定されると何かマズイ気がする
そもそも転生者にはギフトがある、勇者の件もあり、内容がわからない以上、コレが一番怖い。
フォリナーは上機嫌だが目の奥が笑っていない。何を考えているのかわからない相手はどうしても警戒してしまう。
ソレを見透かしたか、ジョッキを空にしたフォリナーは
「おっし、ここに日本人が居るのわかったから今度からちょくちょく顔出すわ、また色々話しよーぜ、でもウィルは戦争になっても無理なら逃げろよ?」と立ち上がった。
「逃げるならどこかお勧めはある?」と乗ってみる
んー、と意外と考え込むフォリナー。
「単純にこの帝国自体はまず安泰だからなあ、ここより安心出来る国は無いし宗教や人種差別もゆるいし。この帝国を出るのはお勧めできないかなあ、やっぱ逃げない方がイイな。」と一人で結論を出すフォリナー。
「だが、この都市からは離れた方がイイと思うけどなー」と言いつつ自分の酒代をテーブルに置く。
ソレを拾い、「また次に会う時に出してくれればいいから、今回はお近づきの印に私が払っておくさ」とその手に返す。
「お?イイねー、じゃあこの酒代分、いい事教えちゃう、戦争を大きくしたい連中が、頑張ってるから始まってしまうと一気に大きくなるぞ、始まる前に他の都市に行くことを勧めとくわ」と言いつつリュートを仕舞い、肩に担ぐ。
そしてリュートを背負いなおそうとしてよろける。
支えようとする私の肩に顔をぶつける。
「ペタン公暗殺計画が進行中」と囁く。
どこから見ても口元が見えない角度だ。
そして私にもたれかかった瞬間に殺気立った私の背後の二人をチラリと見、イイ護衛連れてんじゃん、優秀、優秀と小さく呟きながら笑う。
「サンキュー、イイ酒だったから飲み過ぎたわ。思ったより酔ったし今日は帰るわ」と明るく声を上げつつ出て行く。
さて、やはり一筋縄でいかない男であった。フジはともかく、ワカヒメやネメシスを会わせなくてよかったと心の底から思い、深く息を吐いた。
◇◇
ギルドから出たフォリナーは露店の並ぶ大通りを歩く、
月明りの薄暗い中で少し足元がおぼつかないか、多少千鳥足だ。
別に夜空を見上げる事は無い。
足元を見つつ路面に落ちる屋根の影を飛ぶ影を数える。
見上げる事は無い。
一つ・・・・二つ、かな。と小さく呟き、ご苦労様だなあ、とため息をつく。
このくらいの都市の屋根の上は意外と見通しが良い、ソコを動くなら潜伏している密偵ではなく、この都市の陣営の者だろう。
ましてエルフの感覚とは言え、自分程度に感知される腕ならソコまで大したモノでもなく、新兵だろう。
少し冷えるな、と言いながら手元の武器を自然な動きで確認する。
背後に気になる気配はあるが・・・情報屋としては既にある程度知られているのは自覚しているが口封じされる程ではないハズ。どの国でも組織の末端までしか接触をしない様にしているし。
まあ、わざわざ仕掛けては来ないでしょ、と呟いて宿に帰って行く。
彼はこの綱渡りが好きなのである。




