表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/49

49話  モミジ

板額(はんがく)御前は吾妻鑑にも記載がある鎌倉時代初期の伝説的な女傑であり、今私の目の前でうなだれている女性の憧れの人である。


その威風堂々たる女性武者を意識して鬼の種族に転生し最初の百年程は鍛錬の成果もあり十分活躍出来た。


長く戦場に立つという事で負傷する事も積み重なり、ついに致命的な負傷として腕を斬り飛ばされる。


腕を斬られて以降は弓も引けず、鬱屈した生活で騙され、社会の裏側の組織の構成員となっていた。


ここでも結局は()()()()()事で負傷も増え、一時は逃げて人の領域の外側に隠れ住んだ事もあった。隠遁してしまえばあとは静かに過ごすだけだ、と


不老不死であるがゆえの永遠の牢獄に自ら入ったのだと、さらに百年程過ぎた辺りで気付いてしまったが。


そしてこの世界、個人の魔力が指紋の様に付きまとう。一度重大な犯罪者として追われる身になった以上、もはや永久に日の下を闊歩できなくなっていた。


長命種族も居る世界では時効など存在しないのだ。


何もかもが永遠に続く地獄であった。


「何も命を絶たずとも、身体を元に戻せばまたこの世界で生きられるだろう」との私の声に古傷の奥の目を丸くする板額。


ネメシスとワカヒメを示し、彼女達もまた転生でうっかり人ならざる者を望んでしまった者達だと紹介する。


「ドラゴンになったら、不便でさー。やっぱ私は人間なんだなーって実感したよー」とネメシスが頭を掻き


()が千五百年、ただ樹として在りし」とワカヒメがしみじみと言う



「せんご・・・」と板額が言葉に詰まる。自らの八百年の、ほぼ倍の期間、木として縛り付けられるのを想像したのだろう。


魔力も私の魔力で塗り替えられる、とクチナワとフジを示す


「妾もまたダンジョンに縛られ、出る事も出来ぬ数千年を過ごしたものじゃからのう。」とこちらもシミジミと言う


「正直、ワタシは何も考える事もせず侵入者を殺す事しか考えてなかったと思います。ダンジョンから出た今は本当に色々な知識にも触れられ、考える事が出来る様になりましたが」と腕を組み、自分でうんうんと頷くフジ


ダンジョンの・・・と驚く板額。彼女もダンジョンに入った事もあるのだろう。


最後にヒレンがどや顔をしながら一歩前に出る


ヒレンは・・・まあいいか。


「私の魔力で塗り替えてしまえばお尋ね者としての登録されている魔力も隠せるだろうしな、どうだろう、私に任せてみてくれないだろうか」と改めて提案する。


ヒレンが何か凄い顔をしてこちらを見ている。だってお前は転生者でもダンジョンボスでもないだろ。


「私もお父様のおかげで生まれ変わりましたもの、貴方も生まれ変わるべきです。そしてお父様の栄光の礎として粉骨砕身はたらもがご」


「あー、とりあえず、生まれ変わるのはお勧めだな。礎とかはともかく」ヒレンの口を押えて話を続ける


クチナワがふと思い出した様に

「そういえば八百年程前にも既に災厄と呼ばれる虫はおったかの?」と板額に尋ねる。


「災厄・・・」と少し考え込む板額


「巨大な黒い昆虫じゃが知らぬかのぅ」と促すクチナワ。


「ああ、おりましたな、(つわもの)達が太刀打ち出来ぬ巨大な御器噛り(ごきかぶり)が」


「ほうほう、ソレじゃ、姉さまはソレなのじゃ」


「・・・え?」と鳩が豆鉄砲といった顔をしつつクチナワとヒレンを交互に見ている。


ああ、ヒレンは神話の時代から居るとかいう話もあったな・・・本当に?


「まあ、私の眷属なら私が補完出来る。私の魔力で構築しなおす形で再生も出来る。」


どうだろう?と改めて提案する。


姿勢を正し、座り直し「乞ひ願わくば御計らいたまえ」と頭を下げる板額。


鎌倉武士だもんなあ・・・今風の言い回しを早く覚えて欲しいな


◇◇


私の魔力を注ぎ込む。そして五体満足な姿をイメージする事で八百年で失われた手足を補完する。


魔力を受け入れ、私の眷属として生成しなおすのをイメージする。


古傷も消え、気付いた時には角が目立つ大柄の力強い美女になっていた。本来は勝気な性格だったのだろう、力強い眉が目立つ顔立ちである。


失われて久しかったであろう両手を目の前で開いたり閉じたりして感動している。


と、改めて正座しなおし、手をつき頭を下げる。


「我が(あるじ)、我が(きみ)。かしこしかたじけなし。我が身我が君に(さぶらう)ゆえに如何様にもお使いくだされ、不死の身なればこそ久遠に仕え奉る」


土下座である。


「しかるに我が君、我が身生まれ変わりし候ゆえ、恐れ多きなれど名付けを乞い奉らん」


ああ、板額から改名したいのね。正直なとこ私としても今の時代の感覚では「ハンガク」は半額みたいだな、と思っていたし。


さて私もそういう事で半額シールからの改名は賛成だ。ではどうしよう。


彼女は鬼の種族だ。確かに額に大きな角もある。

鬼で有名なのは酒呑童子や茨木童子、温羅か。


女性なら鈴鹿御前や紅葉などか・・・どちらも鎌倉時代の彼女より後の時代に成立したお伽草紙だから本人の知らない物語の名をつけるのもなあ。


少し考え込む。


長い髪は赤い。紅葉(こうよう)した紅葉(もみじ)の様だ。


「あなたが転生した後の時代の物語に登場する、鬼女に紅葉(もみじ)という者がいる、残念ながら罪人として流刑にされた地でさらに討伐される鬼になってしまう美しい鬼女だ。あなたはこの地で罪人となってしまった。だが今生まれ変わった、その罪人の名を、罪人ではない新たな名として生かし、その名を正しい者の名として、私の仲間としてその手を貸してください」と言い聞かせる。


一呼吸入れ、宣言する。


「これからは私の仲間、名はモミジだ」


「はっ、あらたな生を賜りこの上なく恐悦至極。我が君の御為にこの不死の身を挺し我が君の道を打ち開いて御覧に入れましょう。我が名はモミジ、以降お見知りおきを」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ