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45話 密偵

はぐれエルフの吟遊詩人として冒険者ギルドの酒場や各地の都市の酒場を巡り、演奏し、少々の小銭をもらう生活を何年も続けていた。


酒場の仕事でうまく雰囲気を作る事が出来れば結構な金額が手に入る事もある。酒場の演奏は好きなのである。


彼は大陸最大の帝国の密偵でもあった。


正確には「帝国の密偵でもあるし他の国の密偵でもある」二重、三重の密偵であった。


国の(ろく)を直接受け取る立場なら即斬首モノであるが、彼の様に一定の顔の広さを持つ旅人は「密偵が使う情報屋」のポジションとして、グレーな二重三重の活動が黙認される。


一歩間違えれば簡単に「敵対国へ情報を渡さない為に」口封じに暗殺されるような立場でもあるが。


しかし、どこに行ってもそれなりの報酬がもらえるというのは大きく、彼はこの世界で旅をするのが好きであり、この綱渡り自体が好きだった。


そして彼の演奏する音楽は独創的で、行く先々で概ね好評であり、酒場ならではのレスポンスの良さもあり、彼はこの世界が好きだった。


彼、フォリナーは転生者である。


今から2~30年程前にこの世界にエルフとして転生した。


転生前の彼は駅前、駅地下道等ストリートで演奏するミュージシャン志望の若者だった。

共にメジャーを夢見た仲間達が次々と夢をあきらめ、現実の生活を目指し一般的な就職をする中、彼は夢を捨てきれなかった。しかし彼はついに開花しなかった。


バイト帰りにつけた深夜の音楽番組で、彼の隣に陣取って歌っていた者が煌めくステージで歌っているのを見た時、その才能の差を突きつけられた彼は認めたくない自分の醜さを恥じ、ついに一般的な就職を目指す。


だが夢を目指して粘りすぎた彼が夢を諦めた時、まさに氷河期となった。

繰り返されるお祈りの手紙、見下してすらいた同級生がギリギリその前に就職出来ていた事との対比、


夢を求めて頑張った結果がそのタイムロスでその結果就職出来なくなったと感じた彼はすべてに絶望した。

体調を崩した彼はその絶望の中、回復する事なく他界した。


そしてこの世界に来た。


「メジャーで無くていいから沢山の人に長く自分の演奏を聴いてもらえるといいな」と望んで。


◇◇


ここの酒場は雰囲気は良いが、それに合う静かな曲と指定され、歌は要らないと言われるので彼としては特に好きではなかったが、金払いは良いし演奏が終わった後餞別にもらえる酒が良いので嫌いでもなかった。


「そういえば前に買った世界樹の子供達の話だが、アレはなぜか消えたらしい」と演奏も終わり、閉店準備中のマスターがフォリナーに言う。


「マジかー。久々にデカイ情報だったし、顛末が気になってたんだがなあ、やっぱ領主が掘り返したのか?」

「マ・・?相変わらず異国の言葉はわからないぞ。忽然と消えたらしい、としか聞いていない」

と聞きなれない言葉を使うフォリナーの対処にも慣れたマスターはソコはスルーして会話を続ける。


「消える様なもんか?千年以上の大木だったらしいのに?座標を見失った訳でなく?」


「ああ、エルフが隠したのではないかと言われているが、大木が自分でどこかに歩いて行ったのではないかって程、忽然と消えているらしい。」


「あー俺もこの辺のエルフと仲良い訳じゃないから何かやったかは聞き出せないなあ・・・うーん、まあ俺は情報料貰えたし、世界樹教の信者でもないけどさ、というか行方を捜して欲しいのか?」


「いや、そういう指示は来ていないが、まあどこかでその大きな耳に入ったらでイイので情報が入れば教えて欲しい」とマスターがテーブルを拭きながら言う。


「わかった、見かけたらどこに散歩行ったかくらいはインタビューしとくわ」と餞別にもらったイイ酒を飲み干して商売道具を担いで立ち上がる。


「独り言だが、今はネイバリング王国には入るなよ?さすがに上に目をつけられかねん」とその背中に向けてマスターが声をかける。


「うわー、もうそんな事にまでなってんのな、わかった、気いつけるわ、サンキューな」と手を振りつつ酒場から出て行く。


「相変わらず独特な言葉を使う奴だ」と首を振りながらテーブルに椅子を上げ、モップを取り出すマスター。


あの吟遊詩人の様な「どこにでも情報を売る」男は長生きしないモノだが、フォリナーと名乗るあのエルフはこの酒場を拠点として開店する前から情報屋として定着して居り、数百年前から居たとも噂されている手広い情報屋である。


得難い存在なんだよな、と床掃除しながら彼の様な情報屋をもう少し増やしたいが、こちらに持ち込む様に他にも持ち出して行く彼等の様な存在は増えれば増えるだけ情報の漏洩にもなるしなあ、と自分の出世とリスクのバランスのとり方に苦労する密偵であった。



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