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44話 幼馴染み

イシュタリアは暇を持て余していた。


皇后陛下の親衛隊の一員として皇后に付き従い、お忍びの旅では冒険者の立場で、今の様に公式な立場では親衛隊として最近はずっと皇后の近くに居たのだ


だが今は帝都に戻る皇后の一行に同道せず、ここクロスロードで留守番の班に割り当てられていた。


「まあ、今までずっと働いていたのですから休暇の様なモノですよ。」


と相棒の竜人、クリス=ノーランドがのんびり言うがここは国境紛争の動きがある危険地帯でもあり、休暇と言う程気を抜けないのだが。


平民のイシュタリアが帝室の親衛隊に入るなど、新設された皇后の親衛隊以外では考えられない事である。


クリスの父親は、悪龍と揶揄される有力な伯爵家に、その一族衆として仕えている騎士だ。


その伯爵家に代々使える使用人の一族の娘がイシュタリアであり、二人は身分差を気にしない家風の伯爵家の中で姉妹の様に育った。


その身に宿す魔力量への期待に反して魔法を使えないクリスは、それでも竜人由来の怪力と体躯で騎士としては将来を期待され騎士学校を卒業した。


丁度ソコに皇后の親衛隊が既存の親衛隊とは別の組織として新設されるということで、クリスもそこに入る事になった。


設立メンバーともなれば将来を期待される、というのもある。

魔法を使えないクリスを入れる事に体面が悪いと抵抗もあったが概ね伯爵家の誉れであると歓迎された。


だが新設された組織は皇后の意向により「冒険者のランクを一定以上に上げて初めて配属される」と発表され貴族達に衝撃が走る。


皇室の親衛隊など、実際に戦う事も無く式典向けに見目好い若者が採用されるモノであり、クリスも堂々たる体躯により採用されたと目されていた程なのだ。


平民へのセーフティネットと言われ、下水掃除等が主たる活動とまで言われる冒険者に貴族、しかも親衛隊に入る程の家格の者が強制されるなど誰も思わなかったのだ。


だが皇后は「だからこそである」と反発をとりあわず、新組織は事実上隊員ゼロでのスタートとなった。


「どの様な状況であろうと対応する選択肢を知っておけ、社会の裏は貴族達だけでなく平民にも裏はあるぞ。ソレを知らずに何が護衛か。知識と経験は礼儀作法で代用出来ぬわ」


と新入隊員達を谷底に突き落とし、上がってくる者から正規に隊員として遇する構えであった。


◇◇


クリスは途方に暮れていた。

実際問題として冒険者が何をするのか、どうすればランクが上がるのかすら知らない。

姉妹の様に育ったイシュタリアに相談するのは当然の流れであった。


「ねえタリア、私はどうしたらいいのかしら」

「護衛の仕事とか冒険者には多いって聞くし、そういう経験を積んで来いって事なんでしょ?だったらソレをやるしか無いだろうねえ。クリスなら何でも出来ると思うけどにゃあ」


冒険者という職に興味はあったが、伯爵家の仕様人として安定した将来を捨てて冒険者になる気はなかったイシュタリアであったが姉妹の様に育った幼馴染みの悩みを無視する事は出来なかった。


「仕方ないにゃ。私が居なきゃダメなんだよね」と茶化したタリアであったが


涙目で懇願するクリスはソレを否定せず、うんうんと頷くのであった。


「しょうがないにゃー、冒険者になって世界を救っちゃいますかにゃ」と幼馴染みの背中を叩いた。


冒険者になった彼女達のコンビの最初の依頼は世界の危機とは程遠い孤児院の子守と洗濯だったが。


◇◇


クリスは親衛隊候補として冒険者の活動をしていた。


タリアはソレを助ける為に冒険者になっただけで、自身が親衛隊になる気も無く、そもそもなろうとしても採用されるとも思っていなかった。


しかし、いくつも任務をこなし、ある任務で若い商人の娘の護衛をした時、彼女達コンビの身の上話で盛り上がった。


そして任務完了後しばらくして突然平民の出であるイシュタリアにも親衛隊への勧誘、というか事実上の入隊命令が来た。


事前に後見人になっている伯爵家へ話を通し、外堀を埋められておりタリアに拒否権は無かった。

もっとも、拒否する気も無かったが。


その商人の娘が皇后陛下その人であり、各地の候補生の様子を自分の目で見るためにお忍びで護衛させていたのは入隊時に皇后本人の前に出た時初めて知る事になる。


「久しいのう、なんだ其方達、余の顔見忘れたか?」


会心の悪戯っ子の顔をした皇后であった。


何から何まで破天荒な皇后だと、親衛隊の面々は入隊時から思い知らされ続けているのである。


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