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40話 帝都

テンマ帝国の帝都中心に鎮座するアルカザール城


その広大な中庭に巨大な世界樹が一夜にして出現した。


まあ正確にはお昼だったが。


城下からも見える程の巨木である、人の口に戸は立てられぬ。

噂は一気に広まり、誰が、どうやって、その憶測は留まるところを知らず、恰好の酒の肴になった。


皇后親衛隊の船が城に到着してすぐ出現した、コレは空を飛んで来たので目撃者も多く、自然とネム陛下が絡む、というのが前提の噂ばかりになったが。


そしてその日の夜にはネム陛下が他の大陸から連れてきたエルフの一族の門外不出の秘術で出現した、というのが最も人気の説となる。


噂の収束としては異常に早い、当然ながら事前に配置した密偵達の暗躍がある。


帝国での植物にかかわる祭事を一手に握るエルフ達が絡む、というのは自然と受け入れられる話だし、

元々冒険者、かつ有数の大きな商会の娘であるという皇后陛下なら他の大陸から人を連れて来てもまったく違和感がない、というのが受け入れられる最大の土壌だが。


皇帝のスケジュールの関係上、世界樹が出現した後に会談出来たのは夜になってからだ、


城に突然巨木が出現したのだ、上へ下への大混乱だった。ソレがある程度収束し、ほとんどの会談や謁見を先送りにしても夜までかかったのだ。


それでも食事を共にする形式での会談である。そこしかねじ込む隙間が無かったのはよくわかる。


食事を運んで来た使用人が下座とはいえ客席に座っているメイド服のヒレンを見てぎょっとしたが、すぐ自分達の制服ではない「そういう服の客人」と理解した。貴族ばかりの宮殿で礼服ではなくメイド服を着る者等居ないだろうし、少し同情する。


運ばれてくる食事はどれも手間がかかっている高級な料理だとわかる。

盛り付けも気を使った美術品の様な料理であり食器もどれもミスリル等を使った見事なモノだ。


ヒレンが柔らかく煮込まれた肉の料理をパリパリ言わせて食べている。食べているのはおそらくそのミスリルの食器だ


あとで請求されたりしないか少し不安になる。


「そういう訳でな。其方達にはすまぬ事だが、其方達は異大陸の出身となってもらう」と一息ついたところでネム陛下。


遅くとも数日のうちに噂をソコに着地させる、と続ける。


「まあ冒険者ギルドの時と同じ、俺と同郷と言う話で行くわ」マスカート卿が手をひらひらと振りながら言う。


大陸間の交易もあるにはあるが、航海には時間がかかり、危険が大きい為に細々と交易がある程度で、他の大陸の事はほとんど伝わっていない。

そして確認に行く人間もほぼ居ない。


隠れ蓑にはもってこいなのである。


エルフの仲間は居ないが、ソコはソレ、別の大陸のエルフの司祭は秘術と希少な魔道具を使い、親愛の印を置いて既に帰還した、と架空の司祭を作ったらしい。


「同じエルフという事にしてやったのに、あの連中、異大陸の司祭の技を受け入れたのかと早速抗議してきおったわ」と笑うレンブナント皇帝。


まだ「噂」の話なのにな?と悪戯っ子の表情で。


「既に司祭は居ない、としておかねば無理をしてでも捕らえ、自分の手元に置こうとする輩が出て来るからな、ソコは架空の者を作り上げてしまった方が(なんじ)等も今後も自由に動きやすかろう。」


皇帝も元は冒険者をしていた事もあり、政治的判断で動きが束縛される事の面倒さをよく理解している。


また、ここに在るのは世界中でまれに発見される世界樹の子供達と呼ばれる魔力的にも格下の存在のひとつ、というのも大きい。


自動的に本家の世界樹とその管理する者達の面子は維持される。


それでも世界樹は世界樹である。ソレもまた大きなポイントである。


世界樹に見守られる城と帝都。その宗教的価値は計り知れない。


その祭事を取りまとめる司祭は世界樹を守るエルフの一族からこちらに派遣させる事になったらしい。


「ここで其方に就任させるのが一番良いのだがの、エルフ達の面子が面倒でのう、下手に新しい宗教でも起こされても困るというとこじゃな」とはネム陛下。


「我が帝都に居る幕閣のエルフ達は世界樹の一族からは世界樹から見放された一族、とすら呼ばれておるからな、子供とは言え、世界樹がここに在れば、その者達も見放されてはいないと面子が保たれると言うものよ」とレンブナント陛下が補足する。


「一度ソコまで蔑んだ手前、この帝都に暮らす事に抵抗があるエルフ達も、世界樹のある都市なら出向きやすくなるであろう?世界樹の連中との距離も近くなるというモノよ」


とネム陛下の肩を抱き寄せ物理的に距離を近寄らせながら皇帝陛下が笑う


「まったく、皆の面前でよくもまあ」と言いつつむしろ体を預ける皇后陛下。


ヒレンが何か言いたげにこちらをじっと見ているが気付かないフリをする。


「本当に面白い者達を拾ったものよ、流石は皇后よ」と妻の耳元で囁く。

「余を拾っていただいたお方には勝てぬ、勝てぬ」とネム陛下も悪戯っ子の様な笑顔で返す。


「しかし、確かに貴族陞爵となると隠すべきモノが多すぎて厄介な連中だな」とおそらく愛妻が戻って以降初めて彼女の前で難しい顔をした皇帝陛下であった。




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