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4話 ヒレン

現代日本の車に慣れていた私には大きすぎる揺れと強い振動で中の人の年相応というレベルに腰が痛くなった頃、目的地が見えて来たらしい。


かなり乗り心地には気を使った造りの良い馬車だという話だが、比較が現代日本の車だとそれはもうどうしようもない。


そもそもなぜこの馬車に乗っているか


ピンクの子供、この団体の中心人物が我々を招いた。

襲撃を受け身ぐるみ剝がされたと見た彼女は手を差し伸べたつもりだろう。


なんだかんだで全裸眷属、最初こそほぼ無表情だったがその後は少し口数が少ない程度には会話が出来ている。

だが護衛との会話というものは、ほぼ無いみたいだ。


古代魔法語という言葉、護衛の者には通じない言語だから。


◇◇


あの後、当然身元確認された訳だが、こちとらこの世界に降り立ったばかり。

身元も無い。


「それで、お名前と差し支えなければ旅の目的地は?」

賊の被害者に尋問にならない様に気を使っているような素振りが見える。


名前はこの世界に降り立つ前に、元の世界の名前ではなく「この世界」での名を、と「存在」に問われ、

ネットゲームでよく使ってた名前を咄嗟に返していたのだった。

そういえば「存在」が身元保証する、的な事言ってた気がするが、どうだったかな。


「私はウィルシール=シャムロック。旅の目的はコレといっては無い物見遊山。田舎から出て来たばかりで世間には疎いので、その見分を広めるつもりです」


具体的な情報はほぼ無い私の説明を聞き、次は、と無表情眷属を見ながら「こちらは?」と私に聞く。

私に家名がある事で主従と見たのだろう、主従なら主人を通すのがスジだ。


さて、全裸眷属とか無表情眷属とか言ってたから名前なんか無かった。

うーん、


ゴキブ・・・はさすがに常識を疑われかねない。


他に呼び方は・・・

G。・・・は流石に「名前」じゃないし。


御器噛り


うーん、さすがに直球すぎるか。他に・・・と考えて思い出す。


確かゴキブリは別名で蜚蠊(ヒレン)という呼び方があったハズ

うん、Gとかよりはイイ、意外とイイな。


「こちらは私の配下の者で、ヒレンと言います」


たった今からお前はヒレンだ。


◇◇


そもそもこの世界に立った最初から財布も荷物も何も無かった訳だが

ソコはソレ、例の山賊襲撃で奪われた、と自然な形で処理された。

で、今着ている服などは哀れな被害者へのこの団体からの提供という訳だ。


この馬車の団体は、これもテンプレだが旧知の貴族の領に向かう商人の娘とその護衛。との事。

商人の娘の名は「ネムフェラーリ=ドーラック」家名を持つ程には大きな商会、ドーラック商会の娘だそうだ。何代か前の先祖が国家に貢献したとかで貴族の末席に連なるらしい。

必殺の簡易的な鑑定とやらで色々わかるかと思ったがコレでわかるのは種族や名前だけらしい、簡易すぎるだろ。

ヒレンの魔法生物や眷属といった特徴が無いと本当にただ「人間」としかわからない。


子供だと思っていたが実は成人していると知って驚いた。

「そう見える種族」でもなく、人間だ。

天然の合法ロリっ子だ。


我々の対応していた護衛の猫獣人が「イシュタリア」タリアと呼んでください、だそうだ。


長剣を振り回していた方は「クリス=ノーランド」こちらも家名持ち。


獣人の家名持ちもそれなりに居るとのこと。

迫害されてる訳ではない。

むしろ騎士階級、従騎士階級には多いらしい、獣人は体格的にも能力的にも戦闘で戦果を上げやすいとの事。


二人は幼馴染で他の護衛と一緒に冒険者をしているそうだ。


冒険者、やはりあるんだその職。


目的地の町に到着したら冒険者ギルドに案内してもらって新規に登録しようと話はついている。

やはり異世界転生したら冒険者は外せない。

登録が身元保証になるらしいのでコレもありがたい。


そして

先日の襲撃は金目の物狙いの賊の襲撃、とされるようだが

私達が最初に相手した賊、伏兵グループの方のリーダー格の男、彼がどうやらこの襲撃の実働部隊の指揮官、かつ後ろの黒幕との連絡役だと思われるそうだ、まあ死体相手なので聞き取りは出来なかったが、元々直接出て行く気はなかったのか何か致命的な黒幕の証拠を持ったままだったらしい。


「ただの賊ではないがただの賊として処理した方が都合が良い」とは自称商人の娘の言葉。


ええ、ただの商人がそんな事言う訳ないですよね。

何の都合って絶対何かの権力争いですよね。わかります。

というかそんなのを聞かせないでください、口封じは嫌です黙っておくので助けてください。



で、この権力闘争に偶然巻き込まれた私をこの自称商人、ネム嬢が気に入って今、帯同している訳だ。

手元で監視、が本音かもしれないが。


普通に考えて身ぐるみ剥がされた被害者だからと同じ馬車に乗せるか?


は、疑問だが、正直歩いて付いていくには体力の不安があるのでコレは助かる。


着の身着のままで放り出されるよりは保護下に入る方がマシだろうし。

町まで辿り着くのがまずは大事だし。



この辺は護衛の獣人二人が我々を指して話していたが

「あれは地方の領地持ち下級貴族の五男とかで間違いないにゃ」

「私は、従騎士階級あたりと思うけどなあ」

「騎士の家なら最低でも兵士として剣術を叩き込まれるけどどう見ても見様見真似で素人のアレは無いにゃ。

で、あの食事の中途半端なマナーとかは、上級貴族とか嫡男で叩き込まれてる程では無いけど一応教育は受けてそうだし、領地持ってて大した労働しないけど、使用人も足りないから身の回りは自分でやる、どっかの下級貴族の五男あたりで間違いないにゃ。」


という感じに世間知らずの中途半端貴族と思われてるので、馬車にも乗せてもらえてこちらとしては助かる。

現代日本の生活習慣、テーブルマナーは丁度「そう見える」のだろう。


そう思ってもらえる状況はありがたい。乗っかっておこう。


そして魔法だ。

発動の方法、手順を知らなくては。という事で凄腕の魔法使いらしいネム嬢に色々質問しているのだが

「魔法はこの世界に水や空気の様にすべての存在に浸透している魔力を動かす事で発動するんだけどね」


「火や水、風といった事象を起こす術はそれぞれ適正が無いと発動出来ないんだよね」



・・・・・なん、だと?


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