38話 飛行船の船室にて
帝都目前まで順調に飛行してきた皇后陛下の親衛隊の大型飛行船.
風も問題ない、機体も問題なく、水食糧なども当然問題ない。計画通りに飛行している
しかし船旅に慣れて無い乗客にとって揺れる船内での就寝は難しい問題だ。
酷いと船酔いになる。
そうでなくてもどうしても眠りが浅く、短時間になる。
飛行船や海上の船での旅ではソレがよく問題になる。
そして私は今まさにこの問題に悩まされている。
◇◇
揺れる船内での食事も慣れたもの、むしろ朝昼夜、不足なく提供される事に驚く。
流石は大陸最大の帝国の、皇后陛下の親衛隊の船だと感心する。
私達は客として乗船しており、船の運航に関わる役割は与えられていない。
強いて言えばネメシスが船の周りを好きに飛ぶ事で空の魔獣達に対する牽制として機能して、結果的に護衛となっている事か
私は与えられた個室で昼寝を決め込んでいる。
眠りが浅く、どうにも悪夢ばかり見る。
今も眠る私の横に誰かが立ち、顔を覗き込んでいる様な感覚に襲われている。
目を開いても誰も居ないのに、目を閉じるとソコに居る感覚だ。
この世界にも幽霊とか存在しているのだろうか。
子供の頃、夏休みのテレビで見た番組を思い出す。だが魔法が存在するこの世界では霊魂も現実の話なんだろうか、などと考えつつ天井を見上げている。
のどの渇きを感じ、ひとまず起き、水でも飲んでくるか、と部屋を出る。
扉を開こうとして、ソコに人が居る様な錯覚を覚える。
扉を開いても当然誰も居ない
騎士団の眷属達も与えられた部屋で各々休息しているハズで、誰かが居る事は無い、と頭ではわかっていても、何らかの気配を感じてしまう。
疲れが取れていないんだな。と頭を振りながら食堂で水を一杯もらい、部屋に戻ろうと狭い通路を歩く。
ふと背後に人の気配を感じて振り向くが、やはり誰も居ない。
やはり疲れが取れなていないな、と一人苦笑いをし、部屋に戻り、ベッドに潜る。
狭い船内で決して広くはないがそれなりの個室を与えられる事に感謝しつつ無理にでも眠りにつこうと目を閉じる。
◇◇
呼吸が睡眠時のソレになり、定期的な呼吸音を確認してヒレンがベッドの下から出て来る。
ベッドで眠る主人の顔を覗き込み、呼吸を確かめている。
「クチナワ、もう少し強い魔法は出来ませんか?」扉に向かい声をかける。
扉が開き、自らの眷属の蛇を手に巻いたクチナワがそっと入り、ヒレンの横に立ち同じく呼吸を確認する。
「魔法も万能ではないからのぅ、目覚めた時に必要以上に眠気が残るのも不味かろう?」
「しかし、睡眠が浅いのは明らか、どうしたものですか」と主人の顔を見下ろしながら考え込む。
「やはり、船内では運動も出来ず気が張ったままじゃからのぅ、ある程度の運動も睡眠の元じゃからのぅ」とクチナワが自分の考えをまとめる独り言のように口にする。
「運動・・・ですか。ベッドで・・・」とヒレンが同じく独り言の様に呟く、途中から明らかに何かを思いついているようで涎をぬぐっている。
クチナワがジトっとヒレンを睨む
「姉さま、おそらく今思っておる運動は駄目な運動じゃと思うんじゃが?」
眠る主人へ限界まで顔を近寄せ、まるで寝息を吸い込む様な動きをしていたヒレンが背を伸ばし振り向く。
「・・・何の事ですか、私はお父様の体の為を思ってですね、魔力が必要以上に溜まらない様に抜く必要がありますし・・・」
「はいはい、とりあえず、魔法で眠りを補助しますからソコどいてくだされ」
呆れた声をヒレンにかけながらクチナワが深い眠りに誘う魔法を使う。
「嗚呼・・・お父様、嗚呼、おいたわしい。私がしっかり見張っております、誰にも近寄らせません、ごゆっくりお休みください。ええ。誰にも」
扉の前で立っていたフジが中を思わずのぞき込むくらいには怪しげな気配を放ちながら、ヒレンが眠る主人の顔に自らの顔を近寄せていた。頬ずりしかねない程うっとりと。
クチナワの魔法で、簡単には起きない程の深い睡眠に入っているのを確認し、そっとその顔を舐め始めたのを見て流石に声をかけようとして、しかし思い直して、扉の前での歩哨に戻る
クチナワが首を振りながら
「姉様、一線を超えれば流石に目覚めるからの?怒られたくは無いじゃろ?」と念押ししつつ主人の部屋から出る
「・・・ソレが原因じゃと思うんじゃがなあ」と呟き、盛大にため息をついた。




