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37話 帝都へ

クロスロードの城の中庭には世界樹の子供達の一本が根を下ろしている。


いや、凄い事になっているのである。


マスカート卿が、現れた大木を見上げながら

「先程の魔力、常人なら百人分、いや千人分かそれ以上はこの木に流れたのが見えたぞ。ワカヒメ殿の術も特別だが、ウィル殿以外には不可能な術だな」


「誰でも出来る訳ではないからこそ、今まで誰にも出来なかったのであろう?当然よ」と陛下がなぜかドヤる。


私を見出したのが陛下で、つまり私の功績は陛下の先見の明の結果という事なんだろう。


私としても下手に湧き続ける魔力が溜まり過ぎて爆発したくはないから大量に消費出来るのは願ったりかなったりでもある。


「して、コレは其方の魔力で維持されておるのか?以降は魔力が無くとも良いのか?」と真面目な顔をして陛下がワカヒメに問いかける


「はや()が理力と無縁にて、かげろうほども日あれば足る」


ネム陛下が困惑してマスカート卿の方を見る


「ワカヒメ殿の魔力とは関係なく、うすい日光の光で十分だそうだ」


「共通語・・・よな?」とネム陛下が確認し

「ああ、間違いなく共通語だな」とマスカート卿が頷く。


この世界に来て最初に、通訳で食っていけるな、と思ったのを思い出した。


同じ共通語なハズがこうまで伝わらない事もあるのか。


ワカヒメには現代の言い回しを覚えてもらわねば。


「コレを帝都の城にも出来ぬか?」


帝都の皇帝陛下の居城にも世界樹の子供達を植える事が出来れば、それだけで男爵、宗教的影響まで考慮すれば子爵は確実だろう、とネム陛下が言う。


「確かに実用性だけでなく宗教的にも大きな効果があるな」とマスカート卿も頷く。


「エルフ達が黙っていないかもしれぬがな」とネム陛下


「まあ別に世界樹で並木道を作る訳でもないのだから子供達の一本程度、大丈夫だとは思うがのう」と明るく言うがその目は笑っていない。


テンマ帝国の帝室はエルフの血が混じっている。エルフ達の根強い支持を受けるがその分彼等の発言力も大きく、無視は出来ない。


そして伝統的に森や木に対する決まり事や政治的、宗教的判断にはエルフの判断が大きく影響する。

どちらかと言えばエルフ達の独占分野である。


世界樹の子供達はほぼどれも発見時にはある程度の巨木となっており、時の為政者達がこぞって自分の城や勢力圏内に移植を試みたがほとんど成功せず失われている。


地脈等の関係で場所も重要なのだ、とも言われていた。


そういう曰くつきのモノを帝都の城に植える事が出来れば、それは確かに陞爵は間違いないだろうが



◇◇


親衛隊の飛行船に乗って帝都への空の旅を楽しむワカヒメを加えた我がシャムロック騎士団と竜人1名。


ネム陛下とマスカート子爵も飛行船ならば、と共を数名連れて乗り込んでいる。陛下は悪阻が酷く大半の時間を船室に引きこもっているが。


ペタン公は隣国の動きを伝える密偵や各種戦略物資の購入などの仕事で忙殺されてクロスロードから出歩けない。


最初はマスカート卿のみで十分だと言っていたが、世界樹を植える瞬間を皇帝陛下に見せてその顔を直接見てやる、とネム陛下も半ば強引に同行する事になった。


「余がおらぬとどこの馬の骨とも知れぬ其方達が陛下の御前に出られるものか」とはネム陛下


だがマスカート卿はネム陛下の冒険者時代からの友人であると同時に皇帝陛下その人とも当時からの馴染みでその貴族階級以上の待遇をされており、マスカート卿だけでも十分シャムロック騎士団を皇帝陛下の面前に連れていけたらしいが。


◇◇


ネメシスが自前の翼で空を気持ちよさそうに飛んでいる。

飛行船に並んで飛び、甲板上に出ている私達に手を振っている。


「空を飛べる獣人も珍しいが、この船に追従出来る奴は今まで見た事も無かったのう、あの者も其方の騎士団に組み込んでおくのだぞ」とネム陛下が楽しそうに言う。

つまり私に、管理下に置き、他国に流出させるなという事か。


元のドラゴンと同じ様にたった一人でも脅威になりうる存在でもあるんだよなあ。

彼女の日本人的な権力への弱さとかそういう感覚は理解出来ないだろうけど。


ネム陛下が「特に勇者に接触させるでないぞ」と甲板上の風に紛れて私に言う。

「今、勇者には南の海岸に向かわせておる故、帝都で出くわす事は無いだろうが、警戒しておけ」


常に私から離れず付き従っているヒレンが背後でわずかに身じろぎした。


ネメシスが勇者に魅了され取り込まれたら、確かにますます手が付けられない脅威になる。勇者と敵対するなら絶対それは避けねばならない。


今の風ならこの船なら数日で帝都だそうだ。


勇者が戻ってくる前に、再びクロスロードに戻る。失敗して勇者と出くわしてしまいネメシスが勇者側に取り込まれたら我々などが勇者に敵対するなど不可能だ。


その未来だけは回避せねば。

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