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36話 稚媛

世界樹の子供達の、樹齢千年を超える大木に有り余る魔力を注入し続けた結果、


長い黒髪の絶世の美女と言って良い美女に変化した。

歳の頃は20程か、足元まである長い黒髪、目は閉じている


「お父様、服を着せるまでは見てはなりません」とヒレンが私の頭を抱えて横向きにし

「おお、これはまた美しいのう」とクチナワが見とれ

「まだワタシの方が・・・」とフジが自らの乳房を持ち上げながら見比べる


とりあえず首が折れるのでヒレンをどかす。


目を閉じて立つ女性は鑑定で稚媛(ワカヒメ)と分かっている。


日本書紀に名前がある歴史上の大物だ。

本物か、そう名乗っただけなのかはわからないが。


そして静かに目を開き


「あなやああああああ!いみじぅ!まなこが!まなこがああああ!いたしぃいいい!まばゆしいいい」


のたうちまわった。


◇◇


世界樹の子供達が変化した美女は記憶が無かった。


鑑定でわかったが千五百年は樹齢がある大木だった。つまり千五百年程前に転生していた訳で


クチナワに言わせると「魂が擦り切れておる」という状況らしく、また木に代わってしまって動く事も出来ず、千五百年封印されていた様なものだったのではないだろうか。


今はクチナワが急遽用意した魔法の術式を込めた布で顔を覆い、日の光などの刺激を避けている。

とにかく目を開くと光の刺激でのたうち回ったのだ。


どうやら木になっていた時に目などの感覚が時間をかけて失われ、千五百年ぶりに光を見てしまったのでは。とクチナワが診断した。


今となっては、転生時にどう望んだのかは誰にもわからないが、木にでもなって平和に過ごしたいとでも言ったのかもしれない。


ネメシスは眷属にならなかったがこの女性は魂そのものが薄まってしまっていた為に抵抗も無く眷属になってしまった。


虫としての本能しかなかったヒレンが眷属になった時の様なものか。


今は会話もままならないがヒレンの時と同じように時間が経てば自我も強くなるだろう、と思う。


眷属とはいえ、鑑定でわかっているワカヒメという名、コレを薄まってしまった魂に配慮してそのまま呼ぶ事にする。


◇◇


クロスロードまで戻る間にワカヒメは自我を取り戻したのか新たに作ったのかはわからないが、ヒレンと同じ様に自我を持った。


()が木になりし縁は暗きなれど()れの理力にて顕現せしは(さと)る」


うん、共通語で喋ろうね。その日本語、もうほとんど伝わらないね。

木になった経緯は思い出せないって事と私の魔力で人の姿に戻ったのは理解しているって事ね。


どうやら目に頼らない代わりに自然に存在する魔力をソナーの様に感知して周囲のモノを認識しているらしく、普通に歩けるし階段も登れる、さらにテーブルに置いている食器も迷わず手に取れる。


クチナワが作った布で目隠しをしている為に見えないハズなのに困る様子も無くドアも開け、階段を上り下りする姿を見て宿の主人等は驚いている。


そしてクロスロードに戻り、ネム陛下に紹介したが、額に手を当て陛下は盛大に天を仰いだ。


マスカート卿は大喜びでワカヒメに色々質問している。彼女の言葉は上代日本語、古代日本語の様なモノで生でソレを聞けるのを無茶苦茶喜んでいる。


残念ながら生前の記憶はほとんど残っていない様だが。


「日本書紀に記述がある伝説上の存在だぞ。彼女を巡って古代に吉備と朝廷の大乱が起きた程の文字通り傾国の美女だ」と大喜びである。サインでもねだりそうな勢いだ。


ペタン公は持ち帰った提出分の葉や根を錬金術師や薬師達に分配する書類を作成中だ。


陛下がやっと天井から顔を戻し「なんでこう、其方はとんでもない事ばかり繰り返すのかのう」と恨み言を言った。


書類の束と格闘するペタン公を見ながら

「だがな。世界樹の葉や樹液、根といった素材は貴重品だ、ソレの入手手段を絶ったのも事実じゃからの、なんとも評価しにくい事をしでかしおったのう」


私が返答に困っているとワカヒメが声をかけてきた。


()が身を隠せし木の、()れの求め願ふなら献じ奉るな」


ワカヒメに質問し続けていたマスカート卿が共通語で伝え直した。


「ワカヒメ嬢が変化していた木を求めるなら献上しよう、との事です」


()が夫が主の望みなれば叶えるが妻の(ささ)ふなりぞ」


陛下が「さっそく献上せよ」と目を輝かせた。


◇◇


何処か良い場所の木を示せとワカヒメが言うのでペタン公が城の中庭のいつものお茶会テーブルの近くの木を示した。


ワカヒメがその前に立ち、歌の様な祝詞を唱えはじめる。


クチナワが「我々の魔法とは体系が違う魔法じゃのう、ほうほうそこをそう致すのか」と盛んに頷いている。


ヒレンが今ごろになって「はっ、あの時夫とか言ってましたよね」と思い出してワカヒメに詰め寄ろうとしてフジに止められている。私からも「やめておけ」と言って止めさせる。


そんな騒ぎをよそに庭の木が光に包まれた。

光が強くなったと思ったら私の魔力がかなり大量にワカヒメを通して木に流れたのを感じた。


と思ったら木が突然成長を始め世界樹の特徴のある大木に変わった。


()が夫の願ひばや吾が叶えしな」


いつものお茶会が世界樹の木陰のお茶会、ととんでもなくグレードアップした。

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