34話 ネイバリング王国
建設中の拠点まで来た。
ネメシスが見た城壁は建設途中で壁の無い場所の方が多い、その代替品の木の柵に囲まれて石造りや木造の建設中の宿舎、井戸等の生活施設等が整然と並んでいる。
という訳で完全に無人なのを確認して片っ端から火をつけて燃やし、壊せる建材は破壊して回る。
ふと思いついてネメシスに今の状態でブレスを出せるか、と確認してみると、元々ネメシスのブレスは魔力を圧縮して発射するので、自身の形状や肺活量に影響は受けない魔法寄りのモノだそうだ。
なのでネメシスが自前ので翼で飛び上がり、上空から盛大にブレスの雨を降らせて短時間で完膚なきまでに破壊した。基本的に平和主義の日本人の感覚ではよく頑張ったと思う。
「あーはっはっ!燃えろ燃えろー!自由に壊していいのってストレス発散楽しいいいい」
平和主義ではなかったらしい。
結果かなりの魔力を消費というか浪費したらしく、
「お姉さん疲れちゃったよ、少年、魔力頂戴」と私を抱き寄せてヒレンに引きはがされていた。
「ああん、いいじゃない、ちょっとくらいシェアしなさいよ」
私は。ピザか大袋のお菓子か。
気の抜けた事を言っているがネメシスのブレスを受けた石材が溶けかけていたりする。直撃を受ければタダじゃ済まないな、コレは。流石はドラゴン。
他には、クチナワの魔法で井戸を完全に埋めてしまったり、搬入に使うであろう道路を何か所か崩したり、と
復旧になるべく手間がかかる様にした。
「ドラゴンの動向の見張りくらいは残っててもおかしくはないと思いましたがね」とフジが周囲を警戒して言ったが、クチナワも魔法で周囲に誰も人は居ないのを確認している。
「逆にここまで徹底して下がるなら下がる、と中途半端に残さない決断が出来るここの指揮官は相当なやり手だと思います」とむしろ感心している。
◇◇
破壊された拠点を相手が放棄するか再建するかを確認するために定期的にペタン公配下の斥候兵が巡回するので我々も早々に撤収し、報告に登城する。
あの規模の拠点を建設する程なのだ、隣国は本気で軍を動かす気だよな。とマスカート卿がソファーに胡坐をかいて座り、膝の上に地図を広げて頭を抱えている。
お腹が目立って来たネム陛下が組んだ足を組み替えつつ頬杖ついて面白くなさそうに
「余がここに居るのに動くかのう?」
とマスカート卿に問う。
「事を大きくしたくないなら動かないけどな、だが逆に大きくしたい者も居るだろ」
「そういう者共には逆効果、か」とネム陛下が忌々しそうに呟く。
◇◇
隣国ネイバリング王国は帝国の大陸統一戦争当時から国境紛争を繰り返す中堅国だ。
元々はこのクロスロード周辺も領有していた為、奪還を目指している。
だが、奪われたまま奪還出来ない期間が長すぎ、大規模に行った前回の出費が大きく今は国内の貴族達も大半が奪還に消極的らしい。
その為、悲願とする一部貴族と興味を失った貴族達での温度差が激しい。そして現在の国王は失敗を繰り返す奪還にかかる無駄な経費を他に回す方が得である、と考えている。
むろんそこに帝国の正規、非正規両方の外交、工作活動もあるが。
奪還派は失敗続きで孤立している為に、問題を大きくし強制的に巻き込みたい過激派も多い。
そしてその奪還派にとって奪還を跳ね返し、蛇蝎のごとく嫌われているのがアーメルの父、前ペタン公シャルル=ペタンである。
◇◇
前回の大規模な奪還戦の時、帝国側でも大規模なクロスロード侵攻作戦の情報はかなり前から掴んでいた。
だが、帝国内でも皇帝派の力を削ぎたい消極的な貴族達も多く、思うように迎撃兵力を用意出来なかった。
元々王国側の土地であり、返すだけでイイのだから、と。
当事者のシャルル公は士気も低い寡兵で正面から激突するより、大規模だからこその弱点を突く事で撤退を余儀なくさせる作戦をとった。
後方の補給物資集積拠点となった都市をまるごと焼き討ちする作戦である。
無論、大規模に展開している敵軍を避けて後方都市まで侵攻する事は机上の空論レベルである。
そう思われていた。ソコを突いた。
各地から参集した各貴族達の兵のフリをし、少数の集団で注意深く迂回し、百に満たない兵数で後方で安全地帯だと思っていた都市を灰燼に帰した。
安全地帯だったハズの守備兵は訓練途中や徴兵されただけの数合わせだった女子供、かつ予備役だった老人達であり、都市内の要衝に立て籠り直接戦わず救援までの時間を稼ぐ構えを見せた。
伝令を阻止する兵力も無く、救援が来るまでの短時間で、集積された物資を残さず焼き尽くすために城下町ごとすべてを炎上させた。
その住民ごと。
だが、公爵本人だけでなく後継者も共に参加しないと他の者もついて来ないだろう、と強引に参加した長男は、元々そのつもりだったか、脱出時に追っ手を引き付ける為に派手に暴れ、見事父の脱出を成功させたが、生還出来た数名の側近が持ち帰ったひと房の遺髪のみの帰還となった。
二男もまた前線の大軍を攪乱、足止めし、後方からの脱出中の父を援護するために妹のアーメルと共に大軍に突撃し、大軍を引き付け釘付けにしたが重傷を負い、帰還する父を待てずに死去した。
クロスロードを守り切った英雄シャルル公は派閥争いに終始する国内貴族達の「非戦闘員を積極的に虐殺した」との批判を受け完全に利敵になるとわかっていながら虐殺の咎で隠居の沙汰となった。
当時の皇帝派閥はそれだけの勢力でしかなく、ソレが最大限の擁護だった。
ペタン公爵家は二人の後継者を失い、当主隠居となったが、領民には共に血を流す英雄であり恩人である。




