32話 下山
ネメシスは2~3か月前にこの世界に転生して来た。
私と大きな差は無いが私の方が転生歴は長い先輩だ。
討伐対象が飛来したのは異世界からだった訳だ。
転生後、最初から感覚的に魔法を理解し、魔法を使った空の飛び方、ブレスの吐き方等は体の方が覚えていたので苦労は少なかった。
自分の強大な魔力に耐える術式等も最初から知っていたような感覚であった。
最初こそ空を飛べ、誰にも負けないパワーを持つ巨体を誇るドラゴンに喜んだ。
だが直接殺して食べる食事やトイレ事情、寝床等が人間の感性とドラゴンの体との差異が大きく、すぐ後悔したらしいが。
「この辺の魔獣を捕まえて食べると、生肉なのに美味しいのよねえ、さすドラ」
とはネメシス。
少し離れた場所にある湖が水浴び出来る場所で、山裾にある巨大な洞穴がネメシスの巨体でも雨風を避ける寝室だった。
かろうじて生活のサイクルは完成したが、いかんせん会話が出来ない。
何度か町に行ってみようかと空高く遠くから覗いては居たらしいが。
「だから討伐依頼が出るんですよ」
「ソレが原因じゃのう」
「何やってんですか・・・」
もう少し、こう、手心というか。
ほら泣きそう。
私とは日本語で通じるが眷属の者達が参加できないので古代魔法語での会話になっていたが、
親衛隊の二人は理解出来ない、
では、と共通語で話そうとしたが
ドラゴンの口では共通語は難しい言語だった。
日本語も、私が言語の理解で解読出来るだけと言う側面が強い。
言語の理解はあるのだから人の体型になれば十分人との会話も出来るのになあ、とネメシスが言う。
「人型になる手段はある」
と教えるとやはりというか当然食いついてきた。
◇◇
転生者にも眷属化が効くかは不明ではあったが、どうやら「人型」にはなれたらしい。
ネメシスは親衛隊のクリスとよく似た角を6本持ち、身長も同じ程度、クリスと違い背中の羽と尻尾が目立つ竜の獣人になった。
クリスに言わせると「伝説の始祖様に近い御姿です」と感動していた。
肩より長いストレートの黒髪、日本人の面影があるのは本人の記憶が影響したのだろう。
整った顔立ちではあるが少し口が大きいか。口を開くと見える牙はドラゴンの名残か。
見た目の歳は20代前半か、意外と若い。
目が金色なのは日本人とは程遠いがこれはドラゴンの瞳だろう。
変化した、だが私には理解出来たが、眷属ではない。
私の魔力を受けて変化こそしたが、私のイメージではなく完全に本人のイメージでの変化だ。
転生者のギフトが私の眷属化は拒否したが本人がソレを受け入れ、魔力だけ利用して変化した、とでも言えば良いか。そういう変化である。
私の魔力が切れた場合は維持出来ないと思うが。あくまで本人の意思による変化だ。
背中の羽や尻尾、手足をひょこひょこ上げて見ながら満足はしているようだ。
変化したら相変わらず裸だったが、直後に悲鳴を上げて座り込んで、クリスが使っていた旅用のマントを借りて羽織っている。
変化直後に喋れたのは二人目か。本人の魔力量で変わるっぽいな。
ヒレンも吹き飛んだ服を着替えてこちらも裸ではない。
うん、やはりこれはハーレムだな。
そして気付けばマントを邪魔していた羽がいつの間にか小さくなっていた。尻尾も目立たなくなった。
「邪魔だったし、術式は理解したから少し小さくした」
自分で調節出来る程に魔法に詳しい転生者が増えた。
「ドラゴンは一々呪文を唱えず魔法を使うからのう」とはクチナワ。
言われてみればそういうものかもしれない。
龍魔法とでもいうのかな。他の人間には再現出来ない。残念だ。
ともかく、人の姿になり、
「よーし、町までお姉さんを案内しなさい」とご満悦である
私は確かに外見は若いが中の魂は氷河期世代のおっさんであり、私の方が魂は年上、むしろ親とすら言える年齢なのだがな
だから頭を撫でないで欲しいのだが。
さらに裸の上にマントのみで抱きつかないで欲しい。
マントの合わせが甘いので胸と先端がコンニチワしてくる。
魔力を制御できるようになってからは、いたって普通に健全な男子である。
ほら、ヒレンがあからさまに殺気を放ってるし。
◇◇
ひとしきり騒いだあと、ネメシスを連れて町を目指して、来た道を戻る。
最短で街道に出た後、宿に泊まったり、宿での食事のたびに毎回感動すらしていた。
「あったかい布団もあったかいご飯も、全部もう無理だと思ってたあああ」と涙すら流して。
宿場町で服を購入する時も
「こんな服もう着れないと思ってたあああ」
と泣いて店員を困らせていたし
また、道中では
「タリアちゃんは魔力大きいけどどんな魔法が使えるの?」とクリスに聞いて
「イシュタリアはアタシ!魔法使えるそっちはクリス」とタリアに訂正されていたが、これは道中何度目かの繰り返しである。
打率5割程か、二分の一で言ってるだろう、たぶん。
やっとクロスロードの城壁が見えて来たところで、さらに爆弾発言が飛び出した
「おー、大きな城壁だねえ、あ、あの山の反対側にも新しいの作ってたねえ」
と、隣の家の事の様に言うのでシャムロック騎士団の面々は気にしなかったが親衛隊の二人は顔色が変わった。
山の向こうは隣国であり、こちら側と同じ様に道なき道の未開発地域のハズなのである。




