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31話 ネメシス

上空からこちらを見下ろすドラゴン。

黒い鱗に禍々しい角、巨体に応じて大きいが、現代の感覚では浮力が不足してそうな翼。

額に何かの紋章の様なモノが見える。

魔法を併用して飛んでいるのだろう。


会話が出来るのなら眷属化とか交渉をしてみるべきだよなあ。


「生憎、魔力だけで魔法の方はからっきしだけどな」と古代魔法語で返す


「それだけの魔力、多すぎて術式の方が耐えられぬな」と面白そうに笑うドラゴン。


そうか、そういう事もありうるのか。魔力を絞るのがもう少し出来る様になったら私も魔法が使えるかも。


「主様の場合、適正がネックじゃからソレ以前なんじゃがの」

とクチナワが希望を打ち砕く。


「どれ、少し話をしようか」とドラゴンが降りて来る。


すっかり戦意喪失している親衛隊の二人はともかく、

余裕で討伐出来るつもりの三人に大人しくしておくように指示を出しておく。


地上に降りるとその大きさが実感される。


話に聞いていたドラゴンのサイズよりかなり大きい。

会話が出来るドラゴンという時点で十分ヤバイ存在だとはわかるが。


「我が名はネメシス、して、ここには何用じゃ?お主達の領域に入らぬ様、十分離れておると思うのじゃがな」


周囲を見渡しながらネメシスと名乗ったドラゴンが問いかける。


名前を名乗るくらいだし、討伐に来たとか言うとヤバイよな、とこちらも自己紹介しなきゃなとか、何か適当な言い訳を思いめぐらせている間にヒレンが

「お父様のために討伐に来たのですよ」


勝手に答えてしまった。

ああ、もう先手必勝だ。やるしかない。と伝わったのかクチナワもフジも同時に仕掛けた。


ヒレンがいつもの様に正面から殴りかかる。

クチナワが何か唱えるとドラゴンの足を地面から伸びた土の腕がガッチリ拘束した。

フジが使い慣れていると言っていた巨大な戦斧でドラゴンを斬りつける。


とりあえず仁王立ちしておこう、私。


ドラゴンが口を大きく開き、正面のヒレンに向けてブレスを吐いた。

駆け寄るヒレンを正面からとらえたブレスは炎と言うより、魔道砲と呼ばれた大砲のビームの様だ。

魔力を圧縮してビーム状にして撃つブレスだ


正面からマトモに当たったヒレンが2~3歩歩いて倒れた。

上半身が吹き飛んでいるので歩いたと言うのが正しいかは謎だが。


え、大丈夫?本当に?


クチナワの拘束を蹴り振り払いながらフジを尻尾で吹き飛ばすドラゴン。


吹き飛ばされたフジが立ち上がろうとして腕が変な角度になっている。


眷属の負傷はヒレンの様な自己再生は無くても私の魔力の充填で「健康体になる」感覚で治せるのでアレくらいは大丈夫。


しかし、ドラゴンの強さは圧倒的だ。


「もうやだ、せっかく人と話が出来ると思ったのに、思わず殺しちゃったじゃない、初めての殺人じゃない」


とネメシス。


なんかキャラ変わった?そっちが素?と言うか今のは日本語か?


こちらを睨みつけるネメシスに、足元のヒレンの残骸が立ち上がり足を掴む。


あ、もう再生してる。


「えええええええ!?ちょっと!何アンタ!どういう事!?なんで生きてるの?というか何で平気なの?」


ネメシスが驚いて叫ぶ

やはり日本語だ


咄嗟に「ヒレン、止まれ」と命じる私。


抗議の眼差しを送ってくる上半身裸のヒレンを手で制し、ネメシスに向けて改めて問う。


「えっと、日本人ですか?」


我ながら間抜けな質問だが、私も日本語で問う。


「ええええええええ!マジ!?日本語?!待って待って、うわー、うわー懐かしい!おうふごへほほ」


ドラゴンが可愛く両手を合わせて左右に振っている

かすっただけで私には致命傷になりそうだし地響き凄い。

最後は咽て咳き込んだ。足元に魔力の塊のビームが飛ぶ。危険が危ない。


「えっと、とりあえず休戦だ、皆下がって私に任せてくれ」と頼んだ。


◇◇


彼女、と言えばいいのかはわからないが、このドラゴンは転生者である。


彼女は日本の平均的な家庭に育った平均的な容姿の女性だった。


小学校の時、目が少し離れた印象と口が少し大きい印象がある子供だった為に「カエル」と呼ばれ、いじめられていたが。


成長に伴って印象も消え、本人のメイク技術も上がり誰もその呼び名を思い出さなくなっていたが、当人の心には傷が残った。

そして社会人として何年か過ぎた頃、賃貸の自室に爬虫類を飼育する水槽を複数並べ蛇等を愛でる「爬虫類女子」になっていた。


ただ、彼女の場合は餌にカエルを与える種のみの飼育であったが。


蛇等を飼育するのが目的なのか、カエルを餌として食べさせるのが目的なのか、当人もよくわからなかった。

ただ美味しそうに食べるのを見るのは好きだった。


生活は順調だった。仕事も恋愛も順調で、結婚を見据え、彼の懇願で部屋の大型の爬虫類は処分することとなった。

爬虫類を愛してはいたが依存まではしていなかった彼女は、彼の願いに従い、ネット上の同好の友人知人を里親として頼り、無償で飼育セットごと譲り、処分した


長年大切にしていた家族同然のペット達を手放した彼女に対し、彼はネットで売れば十分な結婚資金になったのに、とサイトの値段を示しながら罵倒した。


彼女の心と、彼との関係は簡単に壊れた。


恋人と別れ、依存先も無くなっていた彼女は通勤の満員電車でもらってきた感染症であっさりと病死した。


そして自分の心も体も弱かった、と思っていた彼女は


「強い子に、もうドラゴンにでもなりたい」と願った。



それが2~3か月程前だった。


◇◇


「この世界に来てずっと人と話してなかったのよ、やっと人と話が出来ると思ったのよぉ」


古代魔法語を使っていた時のキャラを脱ぎ捨て素で話す目の前の巨大なドラゴンが器用にペタンコ座りでさめざめと泣いていた。


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