30話 ドラゴン
討伐の手続きを終わらせ、ギルドを出る。
街道を通る訳ではないので日数もかかりちょっとした旅になる。
その準備の買い物もしておかねばならない。
「服の着替えも買っておかねばならんのぅ」とクチナワが巫女服の裾を気にしながら言う。
「まさか、旅先で新しいのに着替えるつもりなの?」と親衛隊のタリアが驚く。
冒険者は街道から外れる旅の時は水も貴重で洗濯もなかなか出来ない旅をするもの、というのが常識だ。
下着だけは変えを用意する女性は居るが着替えはまず贅沢なモノである。
逆に鎧を着ず服で過ごす我が騎士団は、鎧という嵩張るモノが無いためにそもそもの前提が違うのであるが。
「いや、旅するなら普通はその服を変えない?」とタリアが引き攣った顔をしているが。
ひらひらの巫女服。
屋敷の中、せいぜい都市内で近所の買い物しか想定していないメイド服。
さらには着崩した和服。
どう見ても「街道を外れた旅」には程遠い、せいぜいピクニックの団体だよな。
服もだが、水食糧もまた大事な装備だ。
特に街道から外れる場合、何日分を持つべきかは正解の無い問題として冒険者達の頭を悩ませる。
少なすぎると当然飢えるが、多すぎても無駄に体力を奪うだけでタブーとされる。
補給はどの時代でも悩みの種である。
ただ、私はまず水程度で腹を壊すなり病気になることなり、は無い便利なギフトを授かっている。
気分の問題で清涼な水が良いとは思うので積極的に飲む事は無いが。
「お父様の御口に入るのですから」とやたらヒレンが吟味しているし。
今まで無頓着に何でも口に入れてたのに。最近は私には、やけにこだわる。
店の主人も顔馴染みで、どう見ても親子が逆転して見える私とヒレンの関係も気にしていない。
貴族はそういう奇妙奇天烈な家系図も、良くある話なのでそういうモノだと思っているらしい。
家名、家格が優先される養子縁組で、産まれたばかりの親、年老いた子供。キリがないのである。
次は装備だが、私は軽い片手剣を腰に下げている。柄が少し長めで場合によっては剣道の様に両手を添えて持てる剣でお気に入りである。
学校の授業で少しやっただけだが、構えだけはソレっぽく見えるだろう。
ハッタリには十分だ。
鎧は必要最低限といった鎧で固く加工した革の、基本的には重くなく、楽な服装だ。
ヒレン由来の超回復前提ではあるが十分である。
ともかく
冒険者らしく準備をした。コレも冒険者っぽくて、楽しいのだ。
◇◇
旅装束の親衛隊二人と「いつもの」装備のシャムロック騎士団での旅は順調だった。
ドラゴンの縄張りに向けて街道を外れる道は麦畑の中を進む、のどかな道だったが、
山に入るにつれてワイバーンの等の襲撃が増える、今回は素材の回収はあきらめ、手早く撃退しつつ旅を続ける。
時々ヒレンが齧ってるが。
最近のヒレンのお上品な行動が気になってたので今まで通りの行動は安心してしまう。
何日か繰り返した頃、空の彼方に本命のドラゴンをついに見かける。
「主様、魔力を解放させるとおそらく寄ってくるがどうするかの?」
とクチナワが提案してきた。
縄張り内で巨大な魔力を見せたらあの距離でも確認に来るだろう、と言うのだ。
メンバーを見渡す
ヒレンはいつもの様に、お父様にお任せします。と頷く。
クチナワは、提案した程だし、いそいそと背負っていた荷物を下して準備している。
フジは周囲の木の高さ、足場等を確認している。
親衛隊二人は、この距離だと姿が見えるだけでマトモに接触できるのは巣に近づく数日後かなーと呑気にしている。
親衛隊二人はともかく、ココで始めて問題無さそうだな、と抑えていた魔力を少し解放させる。
遠く小さく見えていたドラゴンが急旋回して明らかにこちらに向かって来るのが見える。
親衛隊二人があたふたと背負っていた荷物を下し武器を構える。
そうこうしている内にドラゴンが頭上に来た。
いや、まだ降りて来るな。どんどん大きく見えてくる。
大きい。
聞いていたサイズより遥かに大きい。
クロスロードに駐留している親衛隊の双胴飛行船より大きいかもしれない。
「面白い魔力だな。小さきモノよ」
あ、喋るタイプのドラゴンですね。伝説の存在とか言ってた奴ですね。
古代魔法語って伝説の存在が使うとカッコイイ言葉なんだな。
横でイシュタリアとクリスが親衛隊二人で抱き合って泣いている、無理だーって。
さて、依頼は討伐だが、話が出来るとなると少し変わってくるよなあ。




