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28話 毒の滲み

マスカート卿の言葉はむしろネム陛下が食いついた。


「どうしてか、卿、説明せよ。ウィル殿を陞爵させるに足る功績を与えるのに簡単で良いと話したばかりではないか」


マスカート卿が頭を抱えながら

「魔力が尽きた時、人の姿を維持できなくなった、と言ったな?」


と念押しの確認をしてくる。


黙って頷く私を見て大きくため息をつく。


「ウィル殿が死ぬ事が問題なのです」


ああ、別に今の話ではない、害する話ではない、と私の眷属達が明らかに殺気を出したのを見てパタパタと手を振る。


つまり、人は何十年か先には必ず死ぬ、その時、眷属への魔力供給が途絶え、人の姿を維持できなくなった眷属が野に放たれる事になる、と


「もう何個かだけダンジョンを攻略してハクをつけるのは駄目か?」


陛下が食い下がるが、マスカート卿は今度は眷属の三人に問う。


「君達はウィル殿が死んだ時、殉死する気はあるか?」

「当然です」とヒレンが食い気味に答えるが


「うーむ、出来れば遠慮したいのぅ」とクチナワがしれっと応える


フジに至ってはヒレンの方をチラ見してヒレンに睨まれて小さくハイとは答えたが、アレは本心ではないな。


どちらにせよ、手綱を握る人間が居ないとな、とマスカート卿が首を振っている。


それと、とさらに深刻な顔をして続ける。


「俺でもこれだけ個性的で強い配下を増やす奴が出てきたら、その出自を調べる。その時、眷属までは辿り着かずともダンジョンに関わる者と噂が広がった時、魔王とみなす者が出ないとも限らない」


魔王?私が?ありえないでしょ。


「魔王とは別に自分で宣言しなくても、他人が勝手にそう呼べばその瞬間から、お前は魔王になるんだよ」と頭を抱えるマスカート卿


勇者に対抗しようとは思っているが魔王になるのは流石に考えてもみなかったな。


ふと考え込む。そういうのもアリなのかもしれない。


ダンジョンのボスを片っ端から眷属化していけばダンジョンの数だけ軍団が膨れ上がっていく訳だ。


ダンジョンに居る他の魔物も眷属にしていけば頭数は無限に増える。


勇者がどんなに強くても無数に存在するダンジョンの数だけ軍団を増やせば・・・


と、乾いた音が響く。


腕を組んで悩んでいたネム陛下が手を叩いたのだ。


「よし、決めた、今後一切ウィル殿のダンジョン攻略は凍結だ」


と宣言した。

数秒だけだったな魔王ルートの可能性。


こうなると勝手にやったらこの帝国が敵に回る。


私はこの世界では居場所がココ以外には無いし寂しがりなんだ。


せっかくの自分の居場所まで敵に回したくはない。


◇◇


そして本題に入る。


ヒレンが魔力が尽きるまで踏みとどまった理由。


「勇者は魅了を使います」


そしてマスカート卿に向き「私も魅了されていました」と伝える。


全員がハッとする。


ペタン公は帝都で一度挨拶を交わした程度。前回私のために来た時は結局会えなかったのが幸運だった訳だ。


陛下は言わずもがな。派閥に組み込み庇護下に置くために何度も親しく会話している。


マスカート卿も同じ異世界人として何度も親しく会話している。


ペタン公は公式の場で会っただけで、前回会いたがっていた勇者は緊急の用事で戻った。


陛下は立場が違うのでそもそも口説かれて居ない。「皇帝の逆鱗」は伊達じゃない。


マスカート卿も中身が男性なのでそういう事は意識もしていなかった。


だが

魅了と聞いた時、三人共、考え込んだ。


確かに。


と思う記憶のひっかかりがある。感情が批判的にならない不自然さを感じた。


皆、魔法のある世界で貴族をやっている、当然その手の魔法に対処する方策をとっている。


ソレでも、確かに不自然さを感じた。


特にネム陛下がショックを受けているようだった。

帝室に代々伝わる保護魔法が突破されている、というのは衝撃だ。


思考誘導系は完全に弾かねばならない。にもかかわらず、確かに影響を感じる。


「正直、ダガーがハーレム程度で満足する奴で良かったよ」


とマスカート卿がテーブルに肘をつき頭を抱えたまま呟く。


「彼奴のハーレムの娘には悪いが、良い生贄よ。彼奴が意識して魅了をバラ撒いておったら必ず尻尾を掴んでやったが、無意識にばら撒いておる様だし、ソコで満足してくれておるのは僥倖よ」


とネム陛下が腕を組み、空を見上げたまま口惜しそうに同意する。


「勇者が男爵で良かった。陞爵させておったらアーメルが狙われ、余が乗せられて推しておったであろうな」

ペタン公が公爵位を受けておらず、ただの公爵の娘、であったらダガーとパーティを組んでおっただろうしな、と怒りすら目に浮かべて続ける。


ペタン公は真っ青になっている。もう少し何かがズレて歯車がかみ合っていたら、自分も勇者の元に居たかもしれないと気づいたのだろう。


そしてその嫌悪感すら霧散していく不自然さを実感しているのだろう。


「この影響は既に計り知れん、下手に表沙汰に出来ぬ、しかして勇者をどうにか出来る状況でもない。

とにかく、この事は我々の胸の内に収めておけ。こちらで対処する」

とネム陛下が指示を下す。


解毒はどういたす?とクチナワが問う。


「余の防壁を突破しておる事実を侍医に見せて対処させる故、今はこのままに。侍医が匙を投げたら頼む、その折はギルドに使いを出す」

と忌々しそうにネム陛下が答える。


本当に、奴がハーレムごときで満足しておる間に何とかせぬとな、と続けつつ。


マスカート卿もペタン公もその侍医に示す症例として今は残すらしい。


「この程度なら意識しておけばすぐにどうにかなることもなかろう」との事。

直接対面しないようにせねばな。とも


そしてふと柔らかな表情を浮かべ、周囲を見渡す


「やはり、クロスロードに来て正解であったな。この事ひとつでも気付かぬままであったら国が傾いておったやもしれぬ。持つべきものはこの都市の名の様に交差する縁よな」と最後は本当に柔らかく笑った。


私もその道の一つになれたのかな。


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