26話 フジ
迷宮に入る。
地図を見ながら、前回は駆け抜けた場所も一応調べつつ。
勇者が受けた奇襲は何もないと思っていた背後からだったのはヒレンも気付いていた。
安全だと思っていたエリアも安全ではない、と我々は知っている。
だが前回ヒレンと出会った場所を過ぎ、地図の無いエリアに入っても特別厄介な魔物は居なかった。
魔力の濃度が高くなる方へ進む。
かなり進んだ頃には魔力が濃くなりすぎてクチナワに言わせると隣の私の魔力すら感じ取りにくくなる程だそうだ。
私ですらなんとなく立ち込める魔力を感じられる程だ。
そしてダンジョンの主が現れた。
主にとっては自分のフィールド、かつこの濃度で魔力を元にする探知等は役に立たない。
相手の土俵という奴だ。
牛頭の筋骨隆々の大男。
迷宮だもんな、と思うが黙っておく。
クチナワが「ミノタウロスじゃ」と教えてくれる。
この世界、ミノス王が居たのか?と思ったが
「ミノス王は知らぬがミノタウロスはミノタウロスじゃぞ?タウロスの一種じゃ」と不思議そうに答える。
なんとなく、眷属の共有でも伝わってくる。
うん、そういう名前なのは知ってる。魔界でもココでも、現代日本でも名前は同じなんだな。
ダンジョンの主は戦斧を振る、無造作に伸ばしたヒレンの右腕がちぎれ飛ぶ。
そのまま振り切って伸びた腕をヒレンが捕まえた。
右腕で
ダンジョンの主も混乱しているのか床に落ちた右腕と掴んだ右腕を交互に見ている。
再生速度が尋常じゃない。
と思ったらそのまま右手一本で相手を壁に投げつけた。
壁が崩れて向こう側の通路か部屋にミノタウロスの巨体が消える。
ヒレンが歩き、崩れた壁の穴に手を突っ込み、壁の穴からミノタウロスを引きずり出す。
倍以上の背丈がある大男なのにぬいぐるみか何かの様に軽々と。
そしてさらに反対側の壁に投げつけた。
ボールの様に。
ピンボールの玉みたいで正直同情する。
そこも崩れ、再び奥に消えるミノタウロス。
思わずクチナワと抱き合って震える私を横目にチラと見ながら再び穴に近寄り手を突っ込むが
今度は逃げられたのか何も持ってない自分の手を不思議そうに見るヒレン。
と、突然横の壁にその手を突き込む。壁に穴を開けた、と思ったら芋掘りの芋の様にずるずるとミノタウロスを壁から引きずり出す。
壁の向こうで逃げようとしていたのを壁越しに捕まえたのか。
魔力の探知がしにくい環境で、そもそも魔力の操作が私と同レベルのヒレンに、その位置を正確に見抜く力があることに驚く。
顔の前に垂れた髪の毛がふたすじ程、風になびく様に動いている。髪に見えるが触覚かアレは。
触覚で感知しているのか。
引きずり出したミノタウロスを床に転がし、巨大な体を足で踏みつけ、戦意喪失して怯えるミノタウロスの顔に自身の顔を近寄せ、囁く様に声をかける。
「あなたは見どころがあります、お父様の手伝いをさせてあげます」と
「よくぞ勇者の下僕を仕留めました。さあお父様をあの偽りの勇者を超える英雄にしてさしあげるのです」と嬉しそうに、うっとりと、宣言の様に言うヒレン。
抱き合ってお互い震えていたクチナワと思わず目を見合わせる。
恐ろしい野望が飛び出した。
「さあ、お父様、この者を仲間にしましょう」といざなわれる。
ヒレンの目がやたら高い湿度でうっとりとしている。私の役に立てる事を心底喜んでいるのが伝わってくる。
ヒレンの変化に驚き、いざなわれるままダンジョンの主のミノタウロスの前に来る。
立ち直ったクチナワが空気に耐えられず、おどけた様に
「タウロスは雄のみの種じゃ、主様はハーレムを作る気かと思っておったが、コヤツではそうはならんのう」と言う
ヒレンが「お父様には私が居ます」とムッっとした声で言う。
ちょっと怖い雰囲気。ガチ気味。
空気が怖いので取り急ぎ魔力ぶち込んでサクサク眷属にしてしまおう、と魔力を解放する。
◇◇
「お父様?」「主様?」
「「どういう事ですか?」」
と二人がハモって問い詰めて来る。
いや、私もわからないんですが。
筋骨隆々の「雄しかいない」タウロスのミノタウロスが眷属になったのだが。
筋骨隆々だった姿は、ムチムチと擬音が背景に見える様なむちむちの美女になった。
ヒレンよりさらに少し高い背
長い睫毛が目立つ垂れ気味な紫の目
艶やかな肉厚な唇
緩やかなウェーブがかかった薄紫の長い髪
安産を約束されたかの様な腰
そして
目を見張る大きさの乳房
さらには腰にぶらさがるでっかいムスコを隠す気無く堂々とブラブラさせている。
あれ?ムスコ?
腰つきや骨格は完全に女性だと思う。
でもムスコ
「どっちなんじゃ・・・」
隣のクチナワも混乱している
ヒレンも顎に手を当てて考え込んでいるようだ。
そもそもミノタウロス自身もまだ寝起きの様な状態だ。
今のところ姿が変わってすぐ話が出来たのはクチナワだけか。
そのクチナワ、
「うむむ、名前どうすればいいんじゃろう」
と悩んでいる。
言われてみれば確かに。
全裸のむちむち美女?かっこ仮を前に考え込む三人。
巨大と言って良いサイズのバスト、魅惑と言って良い大きな腰つき、
臭い立つ色気とか言うのがピッタリだ。
正直股間が体の年相応に固くなるのを感じる。
魔力の制御が出来る様になって大きすぎる魔力に影響を受けていた色々な事が正常化してきたのだろう。
でもぶらさがってんだよなあ・・・色気は凄いけどそういう趣味は無いんだがなあ
などと考えているとヒレンがこっちを凄い見ている。
クチナワも見ている。
ああ。伝わってんだな。眷属だし。
とりあえず名前を考えよう。と意識して思考を戻す。
とミノ子がこっちを見た。
「あなたがお父様ですね」と確認。
その瞬間ヒレンがミノ子の首を掴む
「お父様と呼んで良いのは私だけです」と凄いドスの効いた声。
そのまま地に押し倒す。
あわててクチナワと二人で宥める。
お父様の手伝いをしろと言われたんだから確認したんだろう、流石に理不尽だ。
首をおさえながら咳き込むミノ子、
全裸のまま大きく足を広げて股間が丸見えである。
髪と同じ色の毛の下、ブラブラのさらに下。
・・・・んんんん?
あ、コレはアレですね。
両方あるって奴ですね。
さすが異世界。
とりあえず名前を改めて考える。ミノタウロスの別名となるとアステリオスとかあるけど、外見が女性だからなあ。
ウシチチ凄いし。さすが哺乳類。
乳牛だ。むちむちで肉感凄い。
アレだな。
肉。
猪肉を牡丹とか、馬肉を桜とか言うアレ
牛肉は藤だから、フジだな。
これからよろしくな。
そして
フジの加入、ソレが、
勇者が逃げ出したダンジョンを私達が攻略した瞬間でもあった。




