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22話 魂の毒

その話を聞いた時はまだ呑気に思っていた。


勇者のパーティがダンジョン攻略に失敗して撤退した、との話。


パーティのメンバーが何人か死んだ、と聞いた時も勇者パーティのメンバーってそういえば知らないなあ、どんな構成なんだろう、と呑気に思っていた。


だが、ヒレンも戻っていないと聞いてからは覚えていない。


とにかく迎えに行かねば、とか何かを呟いていたらしい。


クチナワが私の顔を両手で挟み、自らの顔と向き合わせ目を合わせて務めて落ち着いた声で言う

「主様、落ち着くのじゃ、あの姉さまがそこらのダンジョンごときでどうこうなる存在だと思うか?」と


さらに何かを言おうとする私を抱きしめ、何かを魔法語で呟いたのを聞きながら私は意識を失った。


次に目を覚ましたのは宿の部屋、クチナワがベットに腰掛け、何か歌を歌っているのを聞きながら目が覚めた。子守歌か、落ち着く歌だ。


目覚めたのに気付いたクチナワが歌を止めて私の顔を、目を見つめる。


「落ち着いたかの?」とやはり落ち着かせる声。


一刻も早く迎えに行きたい、だが、まずは情報だ。今回の話は公式な国の依頼であり、情報はそちらから来る。


冒険者ギルドから話を通してもらい、官庁である城に向かう。

本来の担当とか飛び越えて、ネム陛下が出て来た。


開口一番「すまぬ」と。まさかの謝罪。


まさかあの勇者が撤退せねばならぬ程の相手だとは思わなんだ、と続ける。

そして、何かを察したのか

「迎えに行くのか?」と答えはわかっているが一応、といった感で問いかける。


迎えに行きます、そのためのダンジョンの情報をください、とまっすぐ目を見て返す。

冷静であると信じさせなければ行かせてくれないかもしれない。


件のダンジョンはかなり大きく、魔物も多く存在する上に、迷宮の様になっているダンジョンだった。

ダンジョン近くの町を拠点に何度か往復し、数回に渡ってダンジョンに潜り、迷宮の地図を完成させながら進むという、今までの勇者にしては珍しい程の慎重な攻略だったらしい。


その途中、奇襲された。ダンジョンのボスが、既に踏破した場所で勇者パーティに奇襲をかけ、パーティメンバーが何人かその場で殺害された。

勇者はその場で撤退を決め、生き残った数名を伴いダンジョンを出た。


ヒレンにその場での足止めを命じて。


そしてそのまま任務からの撤退を宣言し帝都まで帰った。


目の前が真っ赤になった。意識をつなぎ留める。

頭が破裂しそうに感じる、今どのような顔をしているかわからない。


目の前の陛下が風を避けるように顔の前に手をかざした、私の魔力が漏れ出したのだろう。

背後に控えていた護衛達が立っていられないという感じに膝をついたり、かろうじて立っていても真っ青になっている。


勇者パーティは勇者のハーレムだった。

そのメンバーは上級貴族の娘や高ランク冒険者で固められ、特に今回の突入メンバーはその中でもかなりの()()()()()が含まれており、その者も命を落とした、と


上級貴族の娘の葬儀等もあるというのは理解する。

だが足止めを命じたまま撤退し、誰が迎えに行くのか。


確かにヒレンの戦闘力なら足止めは妥当だろう。だがなぜ迎えに行かない。


怒りに何も考えられない私の横でクチナワが

ここで迎えに行けば公式な依頼のフォローになるか、また失敗の責任はどこがとるのか、これをフォローすればどう評価されるのか、等、確認と交渉をしている。


耳から言葉は聞こえているが、その内容がまったく理解出来ない、混乱しているのは自覚している。


クチナワが冷静で良かった、と思い彼女を見て気付く。


膝の上で固く握りしめた手から血が出ている。


彼女も怒りを抑えている、冷静に()()()だけだ。


その日のうちにダンジョンに向けて旅立った。

旅の装備、ダンジョンに潜る装備はネム陛下自らの指示でギルドが用意した。


少しでも早く行きたいと夜も歩こうとする私をクチナワが諫め、私を抱きしめながら子守歌を歌って眠る。それが数日繰り返され、ダンジョンに到着した。


奇襲を受けた場所はわかっている。まっすぐ向かう。


近くなるにつれて異様な臭いがどんどん濃くなる。

最初の日、あのヒレンが引きちぎった山賊達を思い出す臭い。濃厚な血の臭いである。


通路の幅一杯に、天井までの半分程までうず高く積みあがった、原型をとどめて居ない、引きちぎられた魔物の死体の山。


その死体の山を越えた先に、ヒレンは居た。


黒い艶やかな髪は今は魔物の血であろうか、固まって赤黒い塊だ。その上に触覚が動いている。

買ってやった鎧がかろうじてひっかかっている背中、鎧の下から羽の様なモノが見える。

片手の肘から先は虫の足の様に見え、体の形がいびつに見える。

腰を落としたままこちらを振り向いた目が虚ろ、いや明らかに人間のモノではない。虫だ。

顔の形はまだ判別できる。間違える事はない、ヒレンだ。


魔力が尽き掛けておる、と絞り出す様なクチナワの声が聞こえる。


ふらりと立ち上がるヒレンを死体の山をかき分けながら泳ぐように走り寄り、抱きしめる。


喰え、食べろ、お前の好きな魔力だ、体ごと行け、と支離滅裂にわめきつつ顔に腕を押し当てる。


抱きしめながら魔力を流し込む様に解放する。とにかく今は戻ってこい、戻ってこいと唱えつつ。

最初こそ抵抗らしきものをしたヒレンもすぐ大人しくなる。


何か言いかけた様だが、口は動いたが声になっていない。空気が出入りする音だけだ。

接続が切れているという奴か、何か言いたそうだ、としか伝わってこない。


離れて立ち、周囲にも気を払いつつヒレンを注意深く見守っていたクチナワが何かに気付いたらしく息を飲んだ。


許せない、と呟きつつワナワナと震えている。怒りというより殺意すら届く。


主様、とにかく今は姉さまを連れて出ましょう、と怒りを抑えた声でクチナワが言う。

ダンジョンのボスが気付く前に一度出ましょう、と


拠点になっていた宿に私がヒレンを背負い、向かう。

コレはクチナワに任せたくなかった。


正直私より大きなヒレンは重い、しかし私が連れたかった。


道中クチナワが私に聞かせていた子守歌を歌っている。


ヒレンが落ち着いてきたのがわかる。背負っているヒレンに振り向くと目が元に戻っているのがわかる。


戻ってきている、それが嬉しかった。

ほら、肩から行け、などと声をかける。


少し齧られた。その痛みが涙が出る程嬉しく、泣きながら歩いた。


宿に着き、宿の主が一目で察した、ダンジョンからの生還だと。

ヒレンの異形な姿に目を見張ったが毛布をかけてくれる。


宿の一室に上がり、ベットにヒレンを寝かせる。

クチナワが深刻な顔をして口を開いた


「魂が勇者の毒に侵されておる」と


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