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18話 切り札

しかし、と男が続ける。

「今を逃せばこの国の王になる機会を逃しますからね、もう少しばかり付き合ってもらわねば」と


ここで皇后陛下やその子を殺したとしても王にはなれないだろ、とツッコミ入れたいと思ったら、クチナワがソレを察してこちらに向く。

眷属って便利。


「主様、かの者は妾と違い、封印されておらぬ魔界の住人。今申しておるのは、子に憑依するという話じゃな」


「この世界の獣人の成り立ちにかかわり、獣人への迫害につながる話故、帝国では一部の者しか知らぬ話だがな」といつの間にか横に来たネム陛下。


「最初の獣人、アレはコヤツ達の様な魔界の住人が人の腹の子に憑依した事で始まったのよ」と続ける。


魔界の男は自信があるのか、余裕を見せ、こちらの話に横から参加してくる。

「あの頃、この世界への転生が流行りましてね。結構な数の者達がこの世界にそうやって転生したのですよ」と。


で、今回、そろそろ解放される各地のダンジョンから出てくるクチナワの様な者達を出迎えるために権力者に転生しようと、今回の襲撃に便乗したのがこの男という事らしい。


首謀者ではないが、敵対派閥の貴族と共闘した、という事か。


「そこの者達もあの時、我々と一緒にこの世界に転生したのですがね」と忌々しそうに天使を見ながら言う。


クチナワが「その時の者達の子孫が魔力を持つ人間なのです」と続ける。



この世界、色んな世界から転生受け入れてるクロスロードな世界なのか。




じりじりと間合いを図りつつひりついた談笑を続ける。


ネム陛下の天使が少し前に出れば同じだけ魔界の男は下がって距離を維持する。


そして、この襲撃を主導した貴族の名前を知りたくはないですか?と問いかけてくるが、

ネム陛下は首を振る。


時間稼ぎはもう十分だ、やれ、と天使に指示を出す。


天使がどこから取り出したのか槍を投げつける。


男は回避しつつ黒い楔を何個も呼び出し天使に向けてぶつける。

天使はそのうちの一つを片手で掴む、と先程投げた槍に代わった、と思う間もなくコレも投げつける。

投げつける動作のまま手を男に向けて伸ばした、その手から電撃の様なモノが男に向けて飛ぶ。

地上に降りた、いや落ちたと言うべきか、そんな状態で泥だらけになりながら転がってさらなる攻撃を回避する。

天使が飛び上がり空中から地上の男に向けて再び投げつけるべく槍を構える。


その時、男が何かを叫ぶ。発音の出来ない言葉。


今だ、放て。と言ったのは理解出来る。魔界の言葉だ。魔力が混じる言葉なので音より遥かに遠くまで届く言葉だ。


刹那、天使の半身が弾けた。


掲げたハズの右腕が右半身毎消し飛んだ。

正確には魔力の塊の様な光線が走り、半身を吹き飛ばした。


おかしくてたまらない、といった風な男が笑う。


「このヴぁぇるぎが討ち取ったぞ、何が天敵だ、カビのコケの生えた伝説が存在が」と興奮して騒ぐ。

単語は理解出来るが名前らしい部分や文法等がまったく理解できない言葉、これが異世界の言葉という奴だろう。


天使は何が起きたかわからない。といった風で空中に立っていたが、ネム陛下が自身が投げたネックレスを拾い、何かを呟くと消えた。

「戻した」という事らしい。


そしていつの間にか城下町の上空まで来ていた飛行船を見上げる


先程天使の半身を吹き飛ばした光線を撃ち出した船だ。


魔界の男に向けて「これを待っていたのか」と声をかける。


心底オカシイといった体で男が答える


「ええ、喜びなさい。もはやカビの生えた伝説など、貴方達、人間の技術の進歩の前には無力だと、そう証明出来ました、まだ未熟ですが。ワタシは彼等人間が好きなのです。」


さあ、あの船にはあなた方を上回る人間が乗っています。もう逃げられませんよ。と改めて余裕を見せる。


ネム陛下が顔を上げる。


見た事もない程、明らかに「悪い顔」だ。

「そうだな、人間の技術の進歩はまさに日進月歩よな」

と、賛同しつつ右手を上げ、すぐそこまで来た飛行船に向けて手を振り下ろす。


侵入してきた飛行船に先程の光線と同じ様な魔力の束が二本、三本と突き刺さる。


城下町の彼方、クロスロード市街地の外、森の上に双胴の黒い飛行船が見える。


後で知ったが、複数の魔法使いが協力して魔力を込め、圧縮された魔力を撃ち出す大砲の様なモノらしい。かなりの数の魔法使いが必要だし、発射の都度込めねばならない事と、

現世の大砲と違い、弾道が直進するだけである程度の距離で減衰して消えてしまう。


直進する性質上地上からは使いにくく、目標を直接照準出来る様にするために山や丘から撃つしかないのに、距離が遠くなると減衰が激しいので使い物にならない、と。


その為、飛行船に乗せて使うとなると、重量が大きく、そもそもそれだけの数の魔法使いが居るならそのまま使った方が余程融通が利く、と様々な理由でまだまだ欠陥兵器といった評価。


今この瞬間までは。


ともかく、

激しく炎上しつつ、よろめき高度を下げ、船体を崩壊させながら、城の壁面に衝突する飛行船の炎をバックに、


「ほんに、人間の技術の進歩は面白いものよのう」と悪辣に笑いかける陛下。


そして男に向き直り「で、其方の次の切り札は何ぞ?」と問う。


完全に敵側のボスである。


何かを異界の言葉で呟いていた男が、しかしまた余裕を見せる。

魔界の言葉の叫びが届く者もあの船には居たという事だが。


「もう少し役に立つと思っていましたが、彼等が役に立たなかっただけです。天使はもう力を失っているでしょう。ワタシを止められないのなら結局は何も変わりませんよ?」と


頑張って立ち直ったな。


クチナワが油断なく構えながら

「胎児への憑依は母体も生きて居らねばならぬ故、殺される事はありますまい」と気休めを言う。

最初の攻撃とか完全に殺しに来てた気がするけど、アレも脅しだったのかな。


結局のところ、この男自体が厄介な存在なのは変わった訳ではない。


最初にヒレンが投げつけた金棒、アレは一応はダメージがあったようだし、おそらくは奇襲になり対応出来なかった場合はダメージが与えられるのだろうが、痛がる程度という事か。


魔法には対応したのは魔界の住人は魔力の攻撃の方が効果的、といったところか。


物質界の人間だった私など、感じとれない魔力で殴られても効果を感じないだろうし、逆に岩で殴られるとどうやっても痛いもんな。


どうしたものかと思案していると


ネム陛下がこちらに向けて

「其方の魔力をアレに向けてぶつけてみろ、面白いかもしれぬぞ」とニヤリと笑う。


眷属化を狙えと言う事か。

しかし、結構な時間動かず魔力を注ぎ続ける必要があるし、相手が拒否したら出来ない可能性の方が高いと思うのだが、

まあ、モノは試しだ、やってみるか。


と、自分から相手に向けて全力で魔力を解放するのをイメージする。


「な。何ですかソレはまるでぉゅぎゅぇいむ」と後半は理解出来ない異界の言葉になる。

少なくとも動揺はしているらしい。


遠く、飛行船が浮いている森で鳥が一斉に飛び立った。


クチナワがこちらを目を丸くして見ている


「主様、なんですかその量は・・・」と呟く。魔力の感覚を掴んだので、ある程度意識して出力を調節できるようになった気がするので、()()()()()()()()、と比べると当然一度に多く出力出来ているハズ。


ネム陛下に至っては完全にドン引きの顔だ。

自分でやれと言ってその顔ですか。酷い。


そのまま男にぶつけるのをイメージする。


「なんだコレは、こんな、圧がある魔力、魔界でも無いぞ」といった意味の異界の言語で男が驚愕している声が聞こえる。


魔力を見る事が出来ない私でも霧の様な何かが見える。

魔力であろうその霧が男を包み、男がもがく。


へしゃげた。


男が潰れた。


あれ?


私、何かやっちゃいました?





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