17話 異世界からの襲撃
ネム陛下に呼び出された新進気鋭の新人冒険者。という形で城に行き、中庭に通される。
城の主であるペタン公、マスカート卿、ネム陛下と錚々たる若い貴族達が座る中庭のテーブル。
お茶会である。
その手前で大人しく傅く。
と、ネム陛下が手招きする、もっと寄れ、と。
そんな距離で何を話せと言うのか。そこの木立の小鳥にまで聞かせる気か?と。
間者に聞かれるという事だろうし、聞かせたくない話をするぞ、と言う事か。
マスカート卿が何やら呟いて指をせわしなく動かす、何かの魔法を使ったなとは分かる。
おそらくは声を聞き取りにくくする魔法を周囲に巡らせたか。
そして本題に入る。
「おそらくここも襲撃されるぞ」
ネム陛下が明日の天気の様な感じで言う、ペタン公が頷く。
貴族達の情報網怖い。そして公爵、自分の城が襲撃される話なのにめっちゃ素。
と思ったが、クロスロード、結構な頻度で戦争の主戦場になってるらしいので、慣れてんだろうなあ。
百年程前に隣国から帝国の領土に変わった土地らしく、アッチからすれば父祖の地を取り戻すのが悲願になってるのだろうし、実際に生活している人にとっては祖父より前からずっと生活してる故郷だし、発展は自分達の頑張りの結果って誇りに思ってるだろうし泥沼な奴だ。
ともかく、隣国よりまず帝国内部の権力争いに起因する襲撃が来る。
「襲撃が失敗しても警告の意味がある、と傷のなめ合い出来る程度の規模だろうな」
それなりに周囲にも被害が出る規模だろう、とのこと。
襲撃が失敗した時点で失敗は失敗なのだが、こういう手合いは仲間内で主導権争いもやってるものだからな、と悪い顔して陛下が言う。
使用人達にもわざと被害を与えてくるだろうから、その辺の被害は避けたい。という事で信用の出来る冒険者や親衛隊などに入れ替えておこうという事らしい。
大人しく襲撃される気はない、だが事前に芽を摘んでも根まで届かぬ。皇族に弓引く事実を以て根を掘り返してやる。とネム陛下がさらに悪い顔をする。
命は軽いんだよな、この世界。
◇◇
その数日後、予告通り城に炎が上がった。
お迎えの準備は万端のハズだが、やはり城は混乱した。
使用人の数は減らされ、最低限の人数で相互監視も出来る規模であったが、やはり使用人に化けて暴れられると咄嗟に見分けが付きにくいのである。
だがこの世界、意外だが火薬が存在していない。
では私が作るか、と思ってもそもそも硝石の「作り方」がわからない。
自然に存在していても見分けがつかない。抽出方法もわからない。木炭や硫黄は馴染みのあるモノだが、混合比率も分からない。
あくまでソレは自分の話で、過去に居たらしい転生者達まで誰も手を出していないのは「何かがある」と思うべきだろう。
そんな世界なので城ごと爆破されるような心配は無いのが救いか。
襲撃側に勇者殿の様なひとまとめに剣戟で吹き飛ばすチート野郎でも居れば話は変わるが。今のところソレは無さそう。
とりあえず、自分達の持ち場に急ぐ。
「ペタン公、ペタン公はいずこ?」
どこかで公爵を探す声が聞こえてくる。
「ペタン公ー、ペッタン公ー」
「私は人並にはあります!」よく通る声が答えている。ガチトーン
うんアレはわざとだろうな。襲撃者を呼び寄せる気だろう。たぶん。
つまりネム陛下はあっちには居ない。と思う。
ネム陛下の居る階へ上がろうと階段に足をかけた時、轟音が響く。
階段の踊り場の窓から中庭が見える。
以前山賊の襲撃の時に見た大きな芋虫が中庭に居る。
その横に立つネム陛下と数名の人影。
一瞬幻影とかを疑うがクチナワと目が合うと頷く、
本物です。と言い直してくれる。
ありがとう、頷くだけだとどっちか伝わらなかった。
ヒレンが私を抱きかかえる。
そのまま窓を割り飛び出す。
痛い、
中庭に降りると私を下し、ヒレンが襲撃者らしい男達の背後から襲い掛かる。
クチナワが続いて降りて来た、城を見上げる、上層の、ネム陛下の居室あたりの壁にあの芋虫が開けたであろう大穴が開いており、ソコから数名の人影が見える。
と、矢が飛んでくる。
ソレをクチナワが叩き落としつつ何か呪文を唱えたと思えば土が大きくせり上がり矢を防ぐ盾になる。
その陰に入り、まあ観戦モードと言う奴だな。
ネム陛下がこちらを見て
「中も相当か」と呟いている。
うん、この傷、そこの窓にやられたんだ。
芋虫が体をくねらせると周囲の襲撃者が吹き飛ぶ。
相変わらず重量がそのまま攻撃力になる攻撃だ。
中庭の襲撃者は芋虫が圧倒した様だが、まだ城の中には襲撃者達が暴れているらしい。
このままだと城のどこからでも矢を撃ち込めるようなものなので、もう少し離れるか、と思っていると、
空に人影が居る事に気付く。
何も無い場所に立つ、人影。
アレはボスというか襲撃のリーダーじゃないかな。
クチナワが何か魔法を飛ばすが障壁の様な物が弾いた様だ。
ヒレンが手に持っていた金棒を投げつけた。
物理、重量がある物体が直接飛んで来た訳だが、さすがに魔法では弾けないらしい。
命中
いや、手で払ったか。
手を振っている。痛かったんだろう。
そして、降りて来た。
よく見ると羽が生えている。
人ではない。
「ごきげんよう、皇后陛下」
挨拶しつつ優雅に一礼する。
「こんな夜中に訪問されてごきげんに見えるか、痴れ者が」
と、ネム陛下が手を振り、芋虫がソレに応えて男に突っ込む。
礼から頭を上げたあたりで目の前に迫る芋虫。
だったが、何も言わず、男が目を向けただけで芋虫が止まる。
数秒の沈黙の後、ネム陛下の方へ振り向き、今度は陛下へ向けて突進する。
「魅了か洗脳か、いずれにせよ手間のかかる事を」と軽くかわして意外と楽しそうに言う陛下。
ご機嫌じゃないか。
「ウィル殿、もうコヤツはイイ、倒してしまって構わん」と芋虫を指し示しつつ陛下がこともなげに言う。
倒すも何も私では何か出来る気がしませんが、
眷属二人に任せよう。
他力本願、良い言葉だ。
何かを言う前にヒレンが素手で掴み、千切る。
「相変わらず・・・なかなかに・・」凄いな、と引き攣った顔で呟く陛下。
「一応、アレも皇室に伝わる国宝なのだがな」
と呟いたのは聞こえないことにする。
そして謎の男の方を振り向こうとしかけ、瞬間、バク転、
意外と身軽。身重なのに。
陛下の立っていた頭の位置を通過して人の背程の大きな黒い楔が刺さる。
魔力だけで物体を作る事は出来ないと聞いていたが明らかに魔力で作られた槍だ。
「魔界の住人か」と忌々しそうに言うネム陛下。
謎の男が少し驚いた様だ
「おや、よくご存じで」とゆるやかに拍手する。
そして男の周囲に先程の槍が形作られ、次々と陛下に向けて放たれる。
と思っていたらこっちにも数本来る。
私の前に出て鉄扇でソレを払うクチナワ。
ヒレンは、槍を無視して走り寄り殴りつける。
だが、男をすり抜け空を切る。
完全にすり抜け、振り向くヒレン。無視して刺さるに任せた大きな槍が邪魔そうだ。
さらに男が何か言いかけた時、ネム陛下が古代魔法語でよく通る声を上げる。
「洗脳でも魅了でも構わんがコレも操る事が出来るかの?」と言いつつネックレスを地面に叩きつける。
その位置に翼を持つ美女が現れる。
天使、という奴だ。
謎の男が驚いた顔をした、アレは素で驚いているな。
だが余裕を見せるためか、殊更驚いた様子を見せ、両手を広げておどけて見せた。
「確かにワタシではその天使の相手は務まりますまい」
素直に負けを認めるのか。




