14話 異世界万歳
私は冒険者ウィルシール=シャムロック。
最初の仕事は人探しだった。
家出した貴族の娘を探せ、と。裏稼業とか情報屋とかそういうコネを持つ冒険者が受ける様な奴らしいが
クチナワが自身の眷属である普通サイズの蛇を駆使して数時間で終了。
事件とかでは無く、本当に家出だったので話も早い。
次の仕事は城壁修繕の資材搬入の手伝い。
ヒレンの怪力とクチナワも十分な力を持っているので力仕事は簡単だった。
その次は上水道設備の水道橋の修繕の為の高所作業員の手伝いとその資材搬入。
どちらもヒレンのパワーとクチナワの魔法で容易くクリア。
クロスロードに限らずこの世界の都市は上下水道完備で中世っぽい世界のわりに衛生観念や経済の構造が日本的で「馴染みやすい」構造をしている。
重機が無いが魔法があるのでむしろ石造りの癖に塔とかが平然と存在する。地震もほぼ無いらしい。
上下水道はあるが貴族以外は各家庭に引いている訳ではなく共同システムだが。
トイレも貴族以外は都市内の各エリアに共同。その代わり水洗で驚く。
風呂も平民にも共同浴場が親しまれ、普及している。
石鹸も平民にも手に入る価格で存在している。ここまで来れば過去の転生者の活動があったんだろう、と納得する。
誰でもソコに手をつけるだろうし。
そして食事面も、この世界はトンカツがある。白米もある。主流はパンだが。白いパンだ、十分である。
ジャガイモもトマトもある。この辺はクロスロードが交易都市だというのも大きいかもしれないが、平民もそれなりに食べられる価格帯で存在する。
逆に異世界知識の目新しい料理で調理人になれば成功が約束された世界。ではないとも言える。
馴染みの料理は他の転生者が既に通った轍だろう。
他の転生者の道とも交差する、そんな異世界。
冒険者に登録せず、貴族とも交流の無い転生者も意外と居るのだろうな。商人とかやると成功しそうだし。農業でもそれなりの知識があれば行けるだろう、私には農業の知識はロクに無いので無理な道だが。
そして一番驚くことはこの世界、空を飛ぶ飛行船が存在する。
魔法併用で飛び、温度差で浮力を得る訳でもなくガスのみで飛ぶ訳ではないのが異世界らしいところだが。
ただ、魔力を蓄える方法、魔力の結晶というものが存在せず、常に魔力を使う魔法使いが必要らしい。
一時的に魔力をため込む事はあるが、保存は出来ない、という事らしく、飛行船ともなると複数の魔力保持者が高度の維持等に従事するらしい。
冒険者ギルドにもその手の仕事があったが、どう考えても船にカンヅメでブラックだろ、と避けた。
魔法の使える冒険者からすると王都等、飛行船の目的地に移動する用があれば馬車の護衛よりワリの良いバイト仕事なので人気らしいが。
その飛行船の建造、補修資材に魔獣、魔物の素材が大量に使われる為に、クロスロードのダンジョンや周辺の地上での魔物素材収集等の依頼が稼げる人気の依頼になっているらしい。
そして私の次の仕事はソレだ。
駆け出し冒険者ではダンジョンには入れないが、地上の森や山での素材収集は「誰でも出来る」仕事だ。
ワイバーンの翼膜、魔物の毛皮、そういったモノが湯水のごとく大量に消費されている。
ダンジョン以外でも、意外と魔物は存在する。
クロスロードの周辺は都市に入りきらない隊商等の為の宿場町になっており、ソコから離れるにつれて、果樹園等が広がる。
雑食の魔物にとって果物等も「美味しい食べ物」であり、誘引してしまうので人間の活動エリアの内側に広がるのが基本なのであり、その外側が、野菜や穀類の田畑といった広い土地が必要な農地となる。
その辺りでまた街道沿いなら一定間隔で宿場、外れていけば里山といった類の人と魔物の行動範囲の重なるエリアになり、集落の周りに生姜やニンニク、唐辛子と言った御馴染みの薬味が多く植えられている。コレは魔物達にとって臭いのキツイ忌避剤の様な意味もあるらしい。
ここで安全の為に大量に生産され、ダブつくので安く出回り、料理が美味しいので一石二鳥だ。
そして今回はさらにその外側に、用がある。人の領域の外側。
白い巫女装束に白い髪を後ろで緩く束ねたクチナワは、まあ上空から目立つらしい。
ワイバーン等の空の魔物にとってイイ餌に見えるのだろう、
人のエリアを超えた辺りからそれはもう面白い様に襲われる。
魔力が人より多く、目立つ。襲われる要素が歩いてる。
縄張りというものがあるハズだが、一日に一回は確実、というレベルで襲撃される。
クチナワが魔法で叩き落とし、ヒレンが生きたまま解体する。
ヒレンは相変わらず自分の再生能力を前提に怪力で圧倒する戦い方だ。
クチナワに言わせれば「再生で魔力を無駄に消費する燃費の悪い戦い方」だそうだ
私が格闘技なりを習っていたら共有でも出来たかもしれないが、無いのだから戦闘の技術は素人だ。
地上もまた大型の魔物、魔獣等をクチナワが魔法で見つけ出し、狩る。
地上の魔獣の類いとヒレンが戦うと、どっちが魔獣かわからなくなる。
クチナワは武器に鉄扇を選んだ。優雅な舞の様に戦うのがお気に入りらしい。
ヒレンを意識して対極を選んだのだろう。
ほぼ魔法で吹き飛ばすので舞う事が無いが。
どこで鉄扇なんか覚えたんだろう。
ヒレンは、金棒がもはや絵本の鬼が持つような形になっている、壊れにくいってのを重視したらそうなったのだろう。
うん、私は何をすればいいのかな。
「主様はどっしりと構えて居れば良いのじゃ」とクチナワが言えば
「勝手に動かれると守る手間が増えます」とヒレンが言う。
もう少しこう、手心というか・・・
そして持てる量だけ狩り、またクロスロードに戻る。
ヒレンが漫画でしか見ない様なボリュームで背負い、クチナワが続き、私が申し訳程度に持つ。
いや、人の持てる量として適正なハズなんだけど。
数日かけて移動する事を考えても十分過ぎる稼ぎである。
毒草、薬草の採集などもあるらしいが、その辺は二人の眷属パワーを活かせないのでパス。
何度か繰り返していると自然とギルド職員やクロスロードを拠点にする他の冒険者と仲良くなる。
ギルドでは依頼を選んで手続き終わらせる頃にはほぼ間違いなくヒレンは他の冒険者のテーブルに誘われて何か食べさせてもらっている。
彼等にとって、実力のある冒険者は仲良くしておくのが困った時にお互い助けてもらえる保険なのである。
こういうのも冒険者って奴だな、と言うとクチナワが
「何か違うと思うんじゃがなあ」と溜息混じりに呟いている




