「恋人置いて逃げるわけないだろ」
夜空が揺れる。
青白い亀裂。
咆哮する魔獣。
その前に立つフィアナは、
まるで別人みたいだった。
光の装束。
風に舞う銀髪。
巨大な魔法陣。
綺麗だった。
でも。
修は、
胸が苦しかった。
「フィアナ!!」
叫ぶ。
でも。
フィアナは振り返らない。
空へ向けて、
さらに魔力を解放する。
青白い鎖が、
魔獣の腕へ巻き付いた。
ギギギギッ――!!
魔獣が暴れる。
街灯が砕ける。
窓ガラスが震える。
人々が逃げ惑う中。
フィアナだけが、
前へ出る。
「封鎖術式、第二段階――!」
巨大な光の輪が、
空の亀裂を囲む。
魔獣の動きが止まった。
でも次の瞬間。
――バキィッ!!
鎖が砕けた。
フィアナの目が見開かれる。
「そんな……!」
黒い腕が、
一気に振り下ろされる。
修の心臓が止まりそうになる。
「危ない!!」
咄嗟に。
修は走っていた。
フィアナの方へ。
「修さん!?」
次の瞬間。
轟音。
魔獣の腕が、
道路を叩き砕く。
アスファルトが爆発した。
修は、
フィアナを抱き寄せたまま転がる。
熱。
衝撃。
耳鳴り。
視界が揺れる。
でも。
フィアナの体温だけは、
ちゃんと感じた。
フィアナが、
震える声を出す。
「どうして……!」
修は、
息を切らしながら言う。
「恋人置いて逃げるわけないだろ……!」
フィアナの瞳が揺れる。
その時。
空の亀裂の奥から、
さらに巨大な影が動いた。
修の顔色が変わる。
「……まだいるのかよ」
フィアナも、
青ざめていた。
「まずいです……」
「ゲートが完全に開き始めてる……!」
夜空の亀裂が、
ゆっくり広がっていく。
街全体が、
青白い光に包まれ始めた。
そして。
亀裂の奥から。
無数の赤い瞳が、
こちらを見ていた。
修の背筋が凍る。
フィアナは、
唇を噛み締める。
「このままじゃ……」
「名古屋が飲み込まれます」




