「一人で行かせるわけないだろ」
夜空が、
完全に異常だった。
青白い亀裂は、
もう“裂け目”なんて規模じゃない。
空そのものが、
剥がれ始めている。
赤い瞳。
無数。
亀裂の奥で、
蠢いていた。
街の人々は、
泣き叫びながら逃げている。
パトカー。
救急車。
サイレン。
全部が混ざって、
世界の終わりみたいだった。
修は、
フィアナの手を握る。
「止められるのか?」
フィアナは、
苦しそうに空を見上げた。
「……普通なら無理です」
修の顔が強張る。
「でも」
フィアナは、
震える声で続けた。
「“王家の封印術”なら、閉じられるかもしれません」
「ならやろう!」
フィアナは、
首を横に振った。
その表情を見た瞬間。
修の胸が冷える。
「……代償があるのか」
フィアナは、
何も言わない。
それが答えだった。
修は、
フィアナの肩を掴む。
「何だよ」
「ちゃんと言え」
フィアナは、
泣きそうな顔で笑った。
「ゲートの中心へ行かないといけません」
修が息を呑む。
空の裂け目。
あの魔獣の群れの中心。
どう見ても、
生きて帰れる場所じゃない。
フィアナは、
小さく言った。
「向こう側から閉じます」
修の頭が真っ白になる。
「……それって」
「成功すれば」
フィアナは、
無理やり笑った。
「世界は守れます」
「失敗したら?」
沈黙。
風だけが吹く。
修は、
理解してしまった。
フィアナは、
帰ってこられない可能性がある。
「ふざけんな……」
修の声が震える。
「やっと」
「やっと気持ち伝えたばっかだぞ……!」
フィアナの瞳から、
涙が零れる。
「わかってます……!」
「わたくしだって!」
初めてだった。
フィアナが、
こんな声を出したのは。
「もっと一緒にいたいです……!」
「もっと、普通の恋人みたいに」
「遊園地行って」
「映画見て」
「一緒に暮らして……!」
涙が止まらない。
「でも!」
空が轟く。
亀裂がさらに広がる。
赤い瞳が、
街を見下ろしていた。
フィアナは、
震えながら言う。
「わたくし、王女なんです……!」
その瞬間。
修の中で、
何かが決壊した。
修は、
フィアナを強く抱きしめる。
「だったら」
フィアナが目を見開く。
修は、
涙を堪えながら言った。
「一人で行かせるわけないだろ」




