表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/65

「ちゃんと帰ってきますから」

悲鳴。


車の急ブレーキ。


逃げ惑う人々。


夜の商店街は、

一瞬で地獄みたいになった。


空の裂け目から現れた黒い腕は、

ゆっくり街へ伸びてくる。


アスファルトが、

めきめき割れる。


修は、

フィアナの手を掴んだ。


「逃げるぞ!」


でも。


フィアナは動かなかった。


その青い瞳は、

空の亀裂を見つめている。


震えていた。


怖いからじゃない。


知っているからだ。


あれが、

どれほど危険なのか。


フィアナは、

ぎゅっと拳を握る。


「……修さん」


「ん?」


「逃げてください」


修が固まる。


フィアナは、

空を見上げたまま言う。


「魔獣は、人間では倒せません」


「だったら尚更――」


「わたくしが行きます」


修の胸が、

冷たくなる。


フィアナは、

ゆっくり振り返った。


その顔は。


いつもの、

コロッケで喜ぶ女の子じゃなかった。


王女だった。


強くて。


覚悟を持った顔。


「フィアナ……」


「本当は」


フィアナは、

少し寂しそうに笑った。


「もう少しだけ」


「普通の女の子でいたかったです」


修の心臓が痛む。


フィアナは、

そっと修の手を離した。


その瞬間。


淡い光が、

彼女の体を包む。


銀色の髪が、

風に舞う。


白いワンピースが、

魔力の光へ変わっていく。


青白い光の粒が、

夜空へ散った。


そして。


現れたのは。


純白の装束を纏った、

異世界の王女。


胸元には、

蒼い宝石。


背中には、

光の紋章。


商店街の人々が、

息を呑む。


修も、

言葉を失っていた。


フィアナは、

ゆっくり前へ出る。


その姿は、

綺麗で。


でも。


少し遠く感じた。


フィアナは、

空の魔獣を見上げる。


その瞬間。


空気が変わる。


優しい彼女から、

“王女”へ切り替わった。


フィアナが、

静かに詠唱する。


すると。


夜空に、

巨大な魔法陣が広がった。


青い光。


複雑な紋様。


街中が、

幻想的な光に包まれる。


逃げていた人々が、

思わず足を止める。


修だけが、

苦しそうな顔をしていた。


綺麗だった。


でも。


その姿は、

自分の知らないフィアナみたいだった。


フィアナは、

小さく呟く。


「境界固定術式――起動」


次の瞬間。


轟音。


空の亀裂へ、

巨大な光の鎖が撃ち込まれる。


魔獣が咆哮した。


夜空が震える。


そして。


フィアナは、

振り返らないまま言った。


「修さん」


声は、

少しだけ震えていた。


「……わたくし」


「ちゃんと、帰ってきますから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ