「おかえりがある部屋」
数日後。
昼。
修は、珍しく外で働いていた。
アパート近くの商店街。
知り合いの八百屋に頼まれて、
店先の荷物運びを手伝っていたのだ。
「修くーん、それ表出しといてー」
「はーい」
段ボールを運ぶ。
汗が落ちる。
修は体力がある方ではない。
でも。
「助かったよ、ありがとね」
そう言われると、
少しだけ嬉しかった。
その頃。
フィアナは、一人で留守番をしていた。
最初は、
のんびりテレビを見ていた。
でも。
時計を見る。
「……遅いです」
そわそわ。
また時計を見る。
落ち着かない。
「修さん……」
フィアナは、
自分でも不思議だった。
少し前までは、
一人の時間なんて普通だった。
お城では、
大きな部屋で、
いつも一人だったから。
でも今は。
修がいないだけで、
部屋が少し静かすぎる。
フィアナは、
気を紛らわせようと掃除を始めた。
ころころ。
ふきふき。
すると。
修の机の下から、
古いノートが出てきた。
「?」
表紙には、
『冒険設定メモ』
と書かれている。
フィアナは、
そっと開いてみる。
『伝説の聖なるほうき剣』
『闇のちりとり騎士団』
『最終奥義・高速床掃除斬り』
「…………」
フィアナは、
静かに閉じた。
「修さん、疲れてたんですね……」
その時。
ガチャ。
玄関が開く。
「ただいまー」
フィアナが、
ぱあっと顔を上げる。
「修さん!」
すごい勢いで駆け寄ってきた。
修がびっくりする。
「うおっ」
フィアナは、
そのままぴたっと止まる。
近い。
かなり近い。
修が固まる。
フィアナは、
嬉しそうに笑った。
「おかえりなさい!」
その笑顔が、
あまりにも真っ直ぐで。
修は、
一瞬言葉を失う。
それから。
少し照れながら笑った。
「……ただいま」
部屋の空気が、
ふわっと柔らかくなる。
フィアナは、
買い物袋を見つける。
「わぁ!」
「プリンですか!?」
「働いたからな」
「おお……!」
「あと半額のコロッケ」
「豪華です!!」
安い食卓。
古い部屋。
特別なものなんて何もない。
でも。
修は思う。
帰ってきて。
“おかえり”って言われるの、
こんなに嬉しいんだな、と。
そしてフィアナは、
こっそり決めていた。
次は。
自分が、
「お疲れさま」を言えるようになろう、と。




