「まだ、終わってほしくない」
次の日。
雨はすっかり止んでいた。
窓から入る朝日が、部屋を明るく照らしている。
修は、のんびり味噌汁を作っていた。
ぐつぐつ。
湯気が立つ。
その横で。
フィアナは、真剣な顔でスマホを見ていた。
「……修さん」
「んー?」
「この世界の人は、“動画”で生きてるんですか?」
「極端だな」
フィアナは、昨日からスマホに興味津々だった。
遊園地の写真。
猫動画。
料理動画。
ずっと見ている。
「この猫、丸いです」
「太ってるな」
「あと、この犬」
「うん」
「踊ってます」
「文明だな」
フィアナは、本気で感動していた。
修は味噌汁をよそいながら苦笑する。
「慣れたなぁ、スマホ」
「最初は魔導書だと思ってました」
「言ってたな」
フィアナは、少し得意そうに胸を張る。
「今では、“すまほますたー”です」
「絶対違う」
その時。
ぴこん。
スマホが鳴った。
フィアナが、びくっとする。
「敵ですか!?」
「通知」
画面を見る。
ニュースアプリだった。
『行方不明者情報』
フィアナは、不思議そうに首を傾げる。
修は、なんとなく画面を見て。
少しだけ表情が止まる。
そこには。
『銀髪の外国人少女を探しています』
という文字。
フィアナによく似た、
ぼやけた後ろ姿の写真まで載っていた。
修の背中に、冷たいものが走る。
フィアナは、まだ気づいていない。
「修さん?」
「……あー」
修は慌ててスマホを閉じた。
「朝飯冷めるぞ」
「おおっ」
フィアナは、すぐ食べ物へ意識が向く。
「今日は味噌汁です!」
「うん」
「日本の汁物、好きです!」
修は、笑いながら返事をする。
でも。
胸の奥は、少しざわついていた。
もし。
フィアナの存在が、
この世界で騒ぎになったら。
もし。
誰かに見つかったら。
この生活は、
壊れてしまうのかもしれない。
フィアナは、そんな修の不安も知らず。
味噌汁を飲んで、
ほっとした顔をしていた。
「……あったかいです」
修は、その顔を見る。
そして思う。
……まだ。
まだ、終わってほしくないな、と。




