「お前がいる生活、俺は好きだ」
夕方。
スーパーの帰り道だった。
空は少し赤くなっている。
修は、安売りの袋をぶら下げながら歩いていた。
その隣で。
フィアナは、楽しそうに揺れている。
「今日はプリンあります!」
「一個な」
「はい!」
「ちゃんと守るんだな……」
フィアナは、えへへ、と笑った。
その時だった。
前から、
スーツ姿の男が歩いてくる。
修は特に気にしていなかった。
でも。
男が、フィアナを見た瞬間。
ぴたりと止まった。
「……え?」
修の背筋が冷える。
男は、フィアナをじっと見ていた。
銀色の髪。
青い瞳。
目立つ。
どう見ても普通じゃない。
フィアナは、きょとんとしている。
男は、慌ててスマホを取り出した。
画面を見る。
またフィアナを見る。
修は、すぐ理解した。
――まずい。
男が、一歩近づいてくる。
「あの……君」
その瞬間。
修は、とっさにフィアナの手を掴んだ。
「走るぞ」
「へっ?」
修は、そのまま走り出した。
「えっ!? 修さん!?!?」
後ろで男の声がする。
「ちょ、ちょっと待って!」
修は振り返らない。
商店街を抜ける。
角を曲がる。
フィアナは、必死についてくる。
「しゅ、修さん!」
「喋るな!」
「はいっ!」
息が切れる。
修は、人気の少ない細道へ飛び込んだ。
そして。
古い自販機の裏へ、フィアナを引っ張る。
「はぁ……っ」
「はぁ……っ」
二人で息を潜める。
しばらくして。
足音が遠ざかっていった。
静かになる。
修は、ようやく息を吐く。
「……行ったか」
フィアナは、まだ状況がわかっていなかった。
「修さん」
「ん」
「今の、鬼ごっこですか?」
「命がけのな」
フィアナは、目をぱちぱちさせる。
修は、壁にもたれた。
心臓がうるさい。
もし。
あの男が警察へ行ったら。
ネットへ書き込んだら。
フィアナの存在が広まったら。
この生活は終わるかもしれない。
修は、自分でも驚くくらい、
それが怖かった。
フィアナは、不安そうに修を見る。
「……すみません」
「なんでお前が謝るんだ」
「わたくしが、変だから」
修は、一瞬黙る。
それから。
少し強めに言った。
「変じゃない」
フィアナが、目を丸くする。
修は続ける。
「銀髪とか」
「魔法とか」
「世間知らずとか」
「まぁ普通じゃないけど」
「最後ちょっとひどいです」
「でも」
修は、まっすぐフィアナを見る。
「お前がいる生活、俺は好きだ」
フィアナの呼吸が止まる。
夕焼けの光が、
細い路地を赤く染めていた。
修は、自分で言ってから、
急に恥ずかしくなる。
「……あーもう」
顔を逸らす。
「勢いで言った」
フィアナは、しばらく固まっていた。
それから。
ふわっと笑う。
泣きそうなくらい、
嬉しそうに。
「……はい」
その返事だけで。
修の胸は、
また少し熱くなるのだった。




