「この世界へ来て、よかったです」
休日。
朝から、フィアナは落ち着かなかった。
そわそわ。
部屋の中を行ったり来たりしている。
修は、コーヒーを飲みながらその様子を見ていた。
「……遠足前の子どもか」
「だ、だって」
フィアナは、ぱっと振り向く。
「本当に行くんですよね?」
「行く行く」
「遊園地に……!」
その言葉だけで、目がきらきらしていた。
昨日。
テレビで特集を見たのだ。
絶叫マシン。
観覧車。
メリーゴーランド。
フィアナは終始、
「わぁ……」
「夢の国です……」
と感動していた。
そして。
「行きたいです」
と、小さな声で言った。
修は少し財布を見て悩んだが。
「まぁ、一回くらいなら」
と答えた。
その瞬間のフィアナの笑顔が、すごかった。
そして現在。
駅。
フィアナは、修の袖をぎゅっと掴んでいた。
人が多いからだ。
「だ、大丈夫か?」
「この世界、人が多すぎます……」
「休日だからな」
電車が来る。
ごおおおっ。
「ひゃっ!?」
フィアナが修の後ろへ隠れた。
「魔物ですか!?」
「電車」
「速いです!!」
「文明だな」
遊園地に着く。
入口には、大きなゲート。
カラフルな旗。
聞こえてくる楽しそうな音楽。
フィアナは、完全に固まっていた。
「……」
「どうした?」
「……夢の国です」
「二回目だなそれ」
中へ入る。
フィアナは、何を見ても大騒ぎだった。
「修さん!」
「ん?」
「回ってます!!」
「コーヒーカップだからな」
「修さん!」
「今度はなんだ」
「空を飛んでます!!」
「ブランコだな」
「この世界、楽しそうすぎます……!」
修は少し笑った。
こんなに喜ばれると、
連れてきた甲斐がある。
そして。
二人は観覧車へ乗った。
ゆっくり上がっていく景色。
街が小さく見える。
フィアナは窓に顔を近づけていた。
「わぁ……」
「高いな」
「すごいです……」
フィアナは、本当に嬉しそうだった。
しばらくして。
ぽつりと言う。
「城の塔より、好きかもしれません」
修は少し驚く。
「そうなのか?」
「はい」
フィアナは、小さく笑った。
「だって」
「ここには、“楽しい”があります」
風が揺れる。
観覧車は、ゆっくり回る。
フィアナは、窓の外を見つめたまま続けた。
「城では」
「毎日、“姫”をしなきゃいけませんでした」
「失敗しないように」
「綺麗に笑うように」
「ちゃんとするように」
修は静かに聞いていた。
「でも今は」
フィアナは振り返る。
「卵を落としても怒られません」
「まぁな」
「洗濯機を泡だらけにしても」
「ちょっと焦った」
フィアナは、くすっと笑う。
「でも、修さんは笑ってくれます」
その言葉に。
修は少し照れくさくなる。
観覧車は、頂上へ着いた。
街が、夕焼け色に染まっている。
フィアナは、その景色を見ながら。
小さな声で言った。
「……わたくし」
「この世界へ来て、よかったです」
修は、少し黙った。
それから。
静かに笑う。
「……俺も」
フィアナが振り向く。
修は、窓の外を見たまま言った。
「お前が来てから、毎日ちょっと楽しい」
フィアナは、一瞬ぽかんとした。
そして。
顔を真っ赤にした。
「しゅ、修さんは急にそういうこと言います……!」
「え、なんか変だったか!?」




