「修さんとなら、楽しいので」
遊園地からの帰り道。
空はもう、すっかり夜だった。
駅前の明かりが、雨上がりの道路に反射している。
フィアナは、修の隣を歩きながら、まだ少し興奮していた。
「修さん」
「ん?」
「今日、すごかったです……!」
「何回目だそれ」
「だって!」
フィアナは両手を広げる。
「空を飛ぶ乗り物!」
「光るお城!」
「大きなぬいぐるみ!」
「あとチュロス!」
「最後だけ食い気だな」
フィアナは、えへへ、と笑った。
その笑顔が、本当に楽しそうで。
修は少しだけ胸があったかくなる。
電車へ乗る。
夜だからか、人は少なかった。
二人並んで座る。
電車が、ごとんごとんと揺れる。
しばらくして。
フィアナの声が、小さくなった。
「……修さん」
「んー?」
「少し、眠いです」
「いっぱい歩いたからな」
フィアナは、こくりと頷く。
そのまま。
ゆっくり。
修の肩へ寄りかかった。
「うおっ」
修の体が固まる。
フィアナは、完全に眠そうだった。
「すぅ……」
「寝るの早っ」
銀色の髪が、肩に触れる。
甘いシャンプーの匂いがした。
修は、変に意識してしまう。
心臓が落ち着かない。
でも。
フィアナは安心した顔で眠っていた。
修は、そっと窓の外を見る。
流れていく夜景。
昔の自分なら。
こんな日が来るなんて、思わなかった。
無職で。
一人で。
静かに歳を取っていくと思っていた。
でも今は。
隣で、異世界の姫が寝ている。
意味がわからない。
でも。
悪くなかった。
駅へ着く。
「フィアナ」
「……んぅ」
「起きろ、着いた」
フィアナは、ぼんやり目を開けた。
そして。
自分が修にもたれていたことに気づく。
数秒停止。
「…………」
みるみる顔が赤くなる。
「も、もたれてました!?!?」
「まぁ」
「す、すみません!!」
「いや別に」
フィアナは、あわあわしていた。
修は少し笑う。
「疲れてたんだろ」
「で、でも……!」
「気にしてないって」
フィアナは、まだ真っ赤だった。
アパートへ帰る。
部屋へ入った瞬間。
フィアナが、ぽすっと座り込んだ。
「た、楽しかったです……」
「満喫したなぁ」
修は苦笑しながら、上着を脱ぐ。
すると。
フィアナが、小さな声で言った。
「……修さん」
「ん?」
「また、一緒に行きたいです」
修は少し驚く。
フィアナは照れながら続けた。
「遊園地でも」
「スーパーでも」
「どこでも」
「修さんとなら、楽しいので」
部屋が少し静かになる。
修は、なんだか照れくさくなって。
頭をかいた。
「……そういうこと、さらっと言うよな」
「え?」
「いや、なんでもない」
フィアナは不思議そうだった。
でも。
そのあと、嬉しそうに笑った。
窓の外では。
春の夜風が、静かに吹いていた。




