「風の匂いがしました」
昼過ぎ。
外は、ぽかぽかした春の陽気だった。
修は、ベランダで洗濯物を干していた。
タオル。
Tシャツ。
フィアナのワンピース。
風が気持ちいい。
すると。
後ろの窓が、がらっと開いた。
「修さん!」
「うおっ」
フィアナが勢いよく顔を出す。
「大変です!」
「今度は何」
フィアナは真剣な顔だった。
「洗濯機が止まりません」
「は?」
修は慌てて部屋へ戻る。
洗面所。
洗濯機が、がたがた震えていた。
ぶおおおおおっ。
「うわ、偏ってる」
「暴走してます!!」
「そこまでではない」
フィアナは少し離れた場所で怯えていた。
「魔道具が怒っています……」
「普通の洗濯機だよ」
修は中を開ける。
どうやら。
フィアナが洗剤を入れすぎたらしい。
泡がすごかった。
「わぁ……」
「入れすぎ」
「いっぱい入れた方が綺麗になるかと……」
「カレーじゃないんだから」
フィアナはしゅんとする。
修は苦笑しながら説明した。
「洗剤は適量」
「てきりょう……」
「なんでも“ちょうどいい”が大事」
フィアナは真剣な顔で聞いている。
まるで授業だった。
数分後。
洗濯機は落ち着いた。
「直りました……!」
「文明の勝利だな」
「現代文明、やはり強いです」
フィアナは悔しそうだった。
その後。
二人で洗濯物を干す。
フィアナはタオルを広げながら、不思議そうに空を見た。
「洗濯物って、気持ちいいですね」
「ん?」
「風の匂いがします」
修は少し驚く。
そんなこと考えたこともなかった。
「城では、全部やってもらってたので」
フィアナはタオルを揺らしながら笑う。
「だから、“干したての匂い”って初めてです」
修は、少しだけ黙った。
それから。
「……好きか?」
と聞く。
フィアナは、ぱあっと笑った。
「はい!」
その笑顔が、妙に眩しかった。
全部終わる頃には。
ベランダいっぱいに洗濯物が並んでいた。
風で、ゆらゆら揺れている。
フィアナは、それを満足そうに見上げる。
「達成感があります……!」
「大げさだなぁ」
「でも」
フィアナは、小さく笑った。
「魔法で一瞬で終わるより、好きかもしれません」
修は、少し驚く。
フィアナは続けた。
「だって」
「修さんと一緒ですから」
風が吹く。
白いシーツが揺れる。
修は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「……そういうこと、さらっと言うよな」
「え?」
「いや、なんでもない」
フィアナは不思議そうだった。
でも。
そのあと、嬉しそうに笑った。




