「焦げたパンの朝」
朝。
カーテンの隙間から、柔らかい光が入ってくる。
台所では、修がフライパンを振っていた。
じゅう、とベーコンが焼ける音。
眠そうな顔で、卵を割る。
「……よし」
その時。
ぱたぱたと足音が聞こえた。
「おはようございます!」
フィアナだった。
昨日買ったクリーム色のワンピースを着ている。
修は少し目を丸くした。
「またそれ着てるのか」
「はい!」
フィアナは嬉しそうに、その場でくるっと回る。
「お気に入りです!」
「そっか」
修は、なんだか少し笑ってしまった。
フィアナは、そのまま台所へ近づく。
「今日は、わたくしも朝ご飯を作ります!」
「おっ」
「任せてください!」
その顔が自信満々すぎて。
修は逆に不安になった。
十分後。
「修さん」
「ん?」
「パンが黒いです」
「焦げてるな」
トースターの中で、食パンが炭になっていた。
さらに。
「卵が床に逃げました」
「逃げないんだよ普通」
べちゃっ。
床に落ちた卵を見て、フィアナが固まる。
「…………」
修は吹き出した。
「ふっ……」
「わ、笑わないでください!」
「いや無理だろこれ」
フィアナは真っ赤になる。
「料理って難しいです……!」
「魔法より難しい?」
「たぶんです……」
修は笑いながら、新しい卵を取り出した。
「ほら、貸してみ」
「……はい」
修は隣に立つ。
近い。
フィアナが少し緊張した。
「卵はこう」
こんこん。
ぱかっ。
綺麗に割れる。
「おお……!」
「で、フライパンは慌てない」
修はゆっくり教える。
フィアナは真剣に見ていた。
「……修さん」
「ん?」
「先生みたいです」
「そんな立派じゃない」
「でも、優しいです」
修は少し黙る。
それから。
照れ隠しみたいにベーコンをひっくり返した。
「……朝から恥ずかしいこと言うな」
フィアナは、えへへ、と笑う。
その笑顔を見て。
修は思う。
最初は。
異世界の姫なんて、
絶対面倒な存在だと思っていた。
でも今は。
この騒がしい朝が。
卵を落として騒ぐ声が。
嫌じゃない。
むしろ。
少し楽しい。
朝ご飯が完成する。
焦げたパン。
ちょっと崩れた目玉焼き。
でも。
二人で作った朝食だった。
「いただきます」
フィアナは、ぱくっと食べる。
そして。
「……!」
目を輝かせた。
「おいしいです!」
「そりゃよかった」
「修さん!」
「ん?」
「毎日これがいいです!」
「ハードル高いなぁ」
フィアナは笑った。
窓の外では。
春の風が、静かに吹いていた。




