「似合うって、言ってくれた」
夜。
アパートの部屋には、カレーの匂いが広がっていた。
ぐつぐつ煮える鍋。
古い換気扇の音。
テレビから流れる、よくわからないバラエティ番組。
そんな、いつもの夜。
でも。
フィアナは、どこかそわそわしていた。
「……修さん」
「んー?」
「ちょっと待っててください」
そう言うと。
フィアナは、買ったばかりの服が入った袋を持って、押し入れの方へ消えていった。
修は首を傾げる。
「なんだ?」
数分後。
カーテンが、そっと開く。
「……ど、どうでしょう」
フィアナが出てきた。
昼に買った、クリーム色のワンピース。
銀色の髪。
少し照れた顔。
まるで。
春みたいだった。
修は、一瞬言葉を失う。
「…………」
フィアナが不安そうになる。
「や、やっぱり変ですか……?」
「いや」
修は慌てて首を振った。
「その」
「すごい似合ってる」
フィアナが止まる。
修は、少し視線をそらしながら続けた。
「なんか、ちゃんと普通の女の子って感じで」
「……!」
「可愛いと思う」
言った瞬間。
修は「あっ」となった。
フィアナの顔が、一気に真っ赤になる。
「か、かわ……!?」
「いやその!変な意味じゃなく!」
「へ、変じゃないです……!」
二人とも動揺していた。
沈黙。
テレビだけが騒がしい。
芸人が大声で叫んでいる。
フィアナは、恥ずかしそうに裾を握った。
でも。
嬉しそうだった。
「……修さん」
「ん?」
「わたくし」
「こういう服、初めて着ました」
「そうなのか?」
「城では、もっと重たくて」
「きらきらしてて」
「苦しくて」
フィアナは、少し笑う。
「でもこれは、動きやすいです」
その場で、くるっと回る。
スカートがふわりと揺れた。
「軽いです」
「暖かいです」
「あと」
少し照れながら。
「修さんが選んでくれました」
修は、なんだか胸がむず痒くなる。
「……半分くらい、お前が選んだだろ」
「でも」
フィアナは、にこっと笑った。
「修さんが、“似合う”って言ってくれました」
その言葉に。
修は、少しだけ黙る。
それから。
ぽつりと言った。
「……お前さ」
「はい?」
「最近、よく笑うようになったな」
フィアナが、きょとんとする。
修はカレーを混ぜながら続けた。
「最初来た時は、なんか緊張してただろ」
「そうでしょうか」
「してた」
フィアナは少し考えて。
それから、小さく笑った。
「……だって、知らない世界でしたから」
「そりゃそうだ」
「でも今は」
フィアナは、部屋を見回した。
小さなテーブル。
古いカーテン。
安い食器。
決して綺麗じゃない部屋。
でも。
「ここ、好きです」
修は、少し照れくさそうに笑う。
「六畳一間だぞ?」
「はい」
フィアナは嬉しそうに頷いた。
「わたくしの、大好きな場所です」




