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公爵令嬢は悲運の王子様を救いたい  作者: 田鶴


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26.王の愛妾候補

「殿下、陛下の愛妾候補を見つけました。辺境のオーバーカンプ男爵家のダニエラ・フォン・オーバーカンプ、22歳です」


 ルプレヒトはそう言ってジークフリートに遠くから写した女性の白黒写真を渡した。


「なんだこれ? もう少しましな写真はないのか?」

「なにせ隠し撮りですので、仕方ありません。彼女の家は貧しくて懇意にしている写真館がなく、横流しの写真を入手できません。遠くから写真を撮るしかありませんでした」


 写真では、質素なブラウスとロングスカートを着て街中を歩いている町娘といった感じだ。顔ははっきりと判別できないが、髪の毛の色は濃く、遠くから写した写真でも出る所が出ている身体をしているのが分かる。


「こっちがこっそり描かせた似姿です」

「そっちを先に見せればよかったのに」

「でも、似姿は画家の主観も入っていますから」

「まあ、それもそうだな」


 ジークフリートは、彼女の聡明そうな表情がはっきりと描かれている似姿をじっと見た。

 彩色によれば髪の毛はブルネットで瞳の色は緑色――ジークフリートの母ヘルミネと同じだ。純真そうな田舎娘といった感じはヘルミネと全く違うが、そのままでも美しい。化粧をしたらヘルミネにもっと似ているかもしれない。


「この似姿はどこまで信用していいんだ?」

「信頼のおける画家に現地まで行ってもらってこっそり描いてもらいました」

「似姿も盗撮みたいなものか」

「仕方ありません。先方に話を聞いてもらうまでは愛妾候補になっているのを知られてはなりませんから」


 なぜダニエラが愛妾候補に浮上したのか、ルプレヒトがジークフリートに説明した。


 オーバーカンプ男爵家は、王都から離れた辺境に小さな領地を持っているが、土地が痩せていて人口も少なく、これと言った産業がない。10年程前の飢饉の際に得た王国からの一律援助では到底足りず、ダニエラの両親はなけなしの蓄えを吐き出してしまった。


 金銭的に苦しくなったオーバーカンプ男爵家はダニエラと3歳下の彼女の弟の社交界デビューの準備すらできなかった。だから彼らの顔は社交界で全く知られておらず、貴族社会でしがらみがない。


 男爵家は使用人もほとんど解雇せざるを得なくなり、今や何でもやってくれる老齢の執事以外、使用人はいない。そんな状態になっても姉弟の両親は根っからの箱入り貴族のまま、風前の灯火の領地経営以外何もできず、姉弟と執事が家事や庭の手入れなどを分担している。


 そんな経済状態でも、季節の仕事を除き、姉弟は外へ働きに行っていない。ルプレヒトが見つけた男爵家の元使用人によれば、家から通える範囲では平民の営む勤め先しかなく、領主の子弟が領民の下で働いて金銭を得るなんて恥知らずなことをしてほしくないと男爵夫妻が大反対したたらしい。


 それでダニエラは、使用人達の多くが長期休暇を取る時期にだけ短期で隣の領地の領主の家で働いているが、領主の娘が貧乏男爵令嬢のダニエラを見下して辛く当たられているらしい。


 このままいけば、ダニエラは持参金を払えないが、両親が娘を売るような縁談を断っているので、生涯独身になるかもしれない。


「ふーむ……このままだとダニエラ嬢は生涯独身だろうから、父親程の年齢の男に愛人としてあてがってもいいだろうということか……私達は鬼だな。彼女の家族だってそんなことは望まないだろう?」

「私達は、この国を救う為に修羅になろうと決めましたよね。それに彼女にとってはそれ程悪い話じゃないかもしれません」

「どうしてだ?」

「彼女自身は家の為になる縁談を望んでいます。だから家族に無断で決断させればいいのです」

「でもこれは縁談じゃないぞ」

「やり方次第によっては未来の縁談ですよ」

「私達は鬼畜だな……」

「彼女の弟にもメリットがありますよ。彼女も両親も跡取り息子に学をつけさせてやれなかったことを残念がっています」

「弟は19歳か? 今から学校にやるのは無理でも、王宮で文官見習いをさせてやるぐらいはできるだろう。でも領地を一気に救う程の金は出せないぞ。そんな事をしたら、他の貴族が黙っていない」

「そんな大金を払わなくても、彼女には陛下の侍女、弟には文官見習いになってもらって給料を払う。それだけでもあの一家はかなり助かります」

「国王に普通は侍女を付けないだろう? それに父上には従僕が既にいる。私達が強引に侍女の配属先を決めたと王宮の使用人達の間で反発が起きないだろうか」


 ジークフリートは、腕を組んで考え込んだ。


「殿下、それにはご心配なく。私が根回しを済ませてあります」


 ダニエラが仕事を覚えた後、国王フレデリックの従僕はジークフリート専属に移動するとルプレヒトは従僕本人と話をつけていた。相談なしに決められてジークフリートは忸怩たる思いだったが、ダニエラのことを一任するとルプレヒトに言った以上、仕方ない。それにジークフリートの身の回りの世話はルプレヒトが主にしてきたが、諜報の仕事が増えて手が回らなくなってきているのはジークフリートも自覚していた。


「ダニエラ嬢には、純潔を捧げてもらうことになるかもしれないから、私の歳費から資金を十分に用意するつもりだ」

「それは当然ですね。それ以外にも、男爵家に領地経営をよく知る文官や家事をしてくれる使用人を殿下の個人歳費で派遣するといいでしょう」

「そこまで私の歳費で……?!」

「はい、愛妾計画は殿下のアイディアで陛下の個人的な幸福を満たす目的のものですから、王家の公的財産を使う訳には参りません。でも陛下がダニエラ嬢を気に入れば、陛下が個人歳費から払って下さるでしょうから大丈夫ですよ」

「何が大丈夫なんだかよく分からないな……」


 でもジークフリートは、修羅になって泥を被る覚悟を決めた。

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