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公爵令嬢は悲運の王子様を救いたい  作者: 田鶴


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27.没落令嬢

 ジークフリートがダニエラ・フォン・オーバーカンプの写真と似姿を見た翌週、辺境の領地にいる彼女は、立派な封蝋の手紙を受け取った。


「ダニエラ様! 郵便です!」

「ありがとう」


 そばかす顔のまだ少年と言っていい郵便配達人は、分厚い上質な紙でできた封筒をオーバーカンプ男爵家の令嬢ダニエラに渡してはにかんだ。男爵家の入口で掃き掃除をしていたダニエラは、箒を塀に立てかけてその手紙を受け取ると、どこかの貴族の家の封蝋を封筒に見つけて驚いた。


「あら、これ、どこの家の封蝋かしら?! ヴァッカーバート伯爵……?」


 封筒に差出人として書いてあったヴァッカーバート伯爵は、ルプレヒトの父のことだが、嫡子が王太子の側近である以外は中堅どころの貴族である。だから社交界にデビューしておらず、貴族の通う学校にも進学できなかったダニエラにピンと来なかったのも無理はない。


「立派な封蝋ですね。その伯爵様がダニエラ様を夜会かお茶会に招待するんでしょうか?」

「違うわよ。そんなわけがないわ。うちは貧乏な辺境の男爵家よ。デビュタントボールに行くお金もなかったから、私も弟も社交界デビューしてないし、私の覚えている限り、父も母も少なくとも10年は夜会にもお茶会にも出席していないはずよ」

「でもこれ、絶対招待状ですよ」

「そうかしら?」

「楽しみですね! 王都に行く時は僕も休みとりますから、連れて行って下さいね!」

「王都になんて行かないわよ。それより配達大丈夫なの?」

「あ! いけね! 局長にまた怒られる! ダニエラ様、じゃあ、またね!」


 郵便配達人の少年は、5歳も年上のダニエラを慕ってくれている。はっきりと告白されたわけではないが、ダニエラも彼の好意を感じていて満更でもない。でも少年は平民で稼ぎもよくない。


 ダニエラは、領地とこの家を救ってくれる男性と結婚しなければならないのだ。だから、持参金を必要とせずに支度金と援助をくれる男性がいるなら、後妻でも何でもいいとダニエラは再三両親に言ってきた。


 なのに両親は、ダニエラの美貌をお金に換えるような仕打ちをしたくないと言い、金銭的に条件のよい縁談をことごとく断ってきた。今や、彼女はこの国の貴族社会では行き遅れと言われてしまう22歳になっている。もはや持参金を払えない貧乏な男爵家の令嬢に縁談を持ち込んでくるのは、一癖も二癖もあって大して資産もない中高年の男性ばかりになってしまった。


 ◇ ◇ ◇


 ダニエラは、表の掃き掃除を早々に終わらせて自室に戻り、封筒を開けた。両親が先に手紙の中身を知ってしまえば、ダニエラに不利な決断をさせないに決まっているから、ダニエラは自分だけでまず読むことにした。


 よその貴族家からの書状は、個人的なものでない限り、通常は当主宛に来るものだ。だがこの手紙はダニエラ個人宛になっており、ダニエラが開封しても問題はない。ただ、ダニエラにはヴァッカーバート伯爵家に知人がいないので、ダニエラは腑に落ちなかった。


 大きめの封筒の中からは、ヴァッカーバート伯爵の手紙の他、王家の封蝋がついた別の手紙も入っており、ダニエラは目を丸くした。だが中身を読んだ時には、その驚きが更に大きくなった。なんと王太子ジークフリートが直々に一介の男爵令嬢のダニエラを王宮に招待するというのだ。


 王太子は、郵便配達人の少年と同じぐらいの年齢でダニエラの19歳の弟より年下である。平民男性ならまだしも、仮にも王太子が5歳も年上の女性と親密な関係になることを望んでいるとは思えないし、第一、彼には婚約者がいる。


 それにダニエラは社交界デビューもしていないから、見初められる機会もなかったし、ダニエラの家は貧乏な男爵家で彼女が王太子の後ろ盾になれるわけでもない。それぐらいはダニエラも分かるので、この召し出しには疑問しかなかった。でも家の苦境を助ける機会かもしれないと思い、ダニエラは両親と弟に黙ってこの招待を受けることにした。


 ◇ ◇ ◇


 5日後、ダニエラを迎えに近衛騎士達が立派な馬車を引き連れてオーバーカンプ男爵家にやって来た。


 当日の朝にダニエラが家族に招待のことを伝えると、隠し事をするほど信頼されていなかったのかと彼らは落胆した。騙されているのではと心配もしていたが、近衛騎士が身元と安全を保証したので、納得するしかなかった。


 ダニエラが出立したその日も、郵便配達人の少年が配達にやって来た。ダニエラは近衛騎士と共に王都に向かったと彼女の弟が伝えると、直に帰って来るはずと言っているのに、少年はなぜかむごく落胆していた。

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