第六話
霊山の麓に屋敷を構える中級貴族、白家。
その屋敷の一部屋で、緊急家族会議が執り行われていた。
「……三日後……白家当主として王城へと参内することとなった。」
皇帝よりの書状を前にを前に、怖い顔をさらに顰めっ面にする男。
大柄な体躯を簡素な衣に包む白 泰山、白家当主である。
「おいたわしや……旦那様……。
霊山の管理などと後ろ指を指していた輩共が…………いつか、絶対に根絶やしにしてくれる。」
最愛の夫腕に縋り、誰にも聞こえないように殺意を溢れさせる女。
神楽舞いの名手と名高く、押しかけ女房もとい……情熱の愛の炎を燃やし泰山へ嫁いだ白家当主夫人、蘭花。
「……父上。
父上が呼ばれるのは……まだ分かる。」
泰山に負けぬ体躯の持ち主であり、外見も似通っている齢三十になるか、ならぬかくらいの外見。
代々の当主の役割である薬草園の管理を任されている次期白家当主、白 菖雲。
「何故、明葵も呼ばれるのでしょうか?
ふふ……クソ喧しい業突く張りの蛆虫共の仕業かな?」
優しげな微笑みを浮かべ、笑顔で毒を吐く甘い笑顔の持ち主。
薬草料理の名手であり、神楽舞いの名手でもある白家次男、白 梓苑。
「……明葵の知恵が……外に漏れた、か?」
父親や長男ほどの大柄な体躯ではないものの、筋肉がしっかりと付いた精悍な青年。
霊山巡回部隊の若き隊長であり、武人の白家三男、白 桐峻。
「…………」
五人の視線が明葵へと集中する。
「「「「「…………」」」」」
土汚れ一つない、簡素な女物の服に身を包んだ明葵が視線を彷徨わせる。
「……明葵、心当たりは?」
嘘を付けない娘。
すぐに表情に出るがゆえに、何か変わったことがあったのだと一目で分かってしまう。
「う……その……」
「明葵、僕は怒らないから教えてくれるかな?
父上や兄上が叱ったら、僕が背に庇うから……ね?」
「梓苑兄様……」
「「…………」」
泰山と菖雲は微妙な気持ちになる。
控えめで、大人しい。
行動力は有るが、優しく素直な自慢の娘。
可愛い末娘であり、兄妹唯一の妹を甘やかしたい気持ちは大いにあるのである。
「明葵、母も決して叱りません。
そなたを守るためにも、何か山で有ったのならば教えて欲しいわ」
「……明葵。
必要ならば、一族総出で旅に出れば良いだけのことだ。
別に、この国に恩も、未練も、有りはしない。」
「お母様、桐兄様……ありがとうございます……」
優しい蘭花の声と、桐峻のキッパリとした物言いに促されるように。
「実は……」
明葵は、数日前に出会った彰玄と凛について報告した。
「ふふ……どうやら春先の大きな虫が湧いて出たようだね。」
「……桐峻、霊山の巡回……いや、明葵の実験場周辺の警護を増やすべきではないか?」
「父上、自分もそのように考えています。
すぐにでも手を打ちましょう。」
「……旦那様」
明葵の話を聞いて、何やら思案していた蘭花が口を開く。
「旦那様、嫌な予感が致します。
私には"彰玄"という名が琴線に触れまする。」
「……言うな、蘭花。
分かっておる……此度の召還は、宮廷の蠱毒の虫どもを黙らせるためだけでは無いな。」
「……父上、やはり……」
苦虫を噛み潰したような表情の菖雲が泰山へ視線を向ける。
「…………しばらく前より、白家より霊山の管理の看板を取り上げろと騒ぐ輩がいたのは知っていた。
泥水しかない霊山の水を、民に配ったことが気に食わぬらしい。」
最も、強欲な貴族どもは泥水しかないはずの霊山の水が飲めると知り、その札を切り札にでもしたくなったのか。
「水不足に貴賤など無かろうに。
……人間の欲とは、面倒なものだ。」
目の前で小さな体を、さらに小さくしているたった一人の可愛い娘。
この娘の頭の中に詰まった叡智に、気が付かれてしまった。
「明葵よ、心配せずとも構わん。
……どのような結果になろうとも、必要ならば他国へ移り住めば良いだけのことだ。」
「父上、遥か南国には海の底が見えるほどに透明な海があるそうです。
それに、海の中にも薬草のような植物が有るかもしれませんね。」
「様々な土地を巡れば、その土地にしかない武術に巡り合うやもしれぬ。」
「まぁ!
とても楽しそうですわね!」
口々に旅行に行く気軽さで、貴族位を捨てて国を出る話をする家族たち。
「お父様、お母様、兄様たち……ありがとうございます……!」
要らぬ騒動を引き寄せてしまった明葵を邪険にすることなく。
西王母から教授された知識が有るからでもなく。
ただの明葵を大切に思ってくれる心に、明葵の胸は温かくなるのだった。
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