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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第十九話



 霊山の麓にある明葵の作業場。


「…………泰山」


「何か?」


「この……巨大な渦はなんだ?」


「明葵曰く、"水流式洗濯機"だそうです。」


「「……水流式洗濯機……」」


 泰山に連れられて移動した明葵の作業場。


「明葵がよく言いますが、百分は一見にしかず……菖雲、桐峻」


「はい、父上」「…………」


 何時から待機していたのか?


 泰山が声を掛ければ、たくさんの服の山を抱えた長男と三男の姿があった。


「……旱魃の影響で使える水には限りがある。

 既に御存知かと思いますが、霊山から湧き出る水は全て泥水です。

 そんな水を飲める水にする方法が濾過であり、沸騰させること。

 しかし、生きていくためには飲水以外にも水は必要となる。」


 目配せをすれば、菖雲と桐峻が一斉に汚れた服の山を渦の中へと突入した。


「湧き出る水の沼のような水を、風車で汲み上げて濾過していく。

 そして、飲水と生活用水に分けて使用する。

 ……この水流式洗濯機は、霊山の高低差を利用し、流れ落ちて来る水の勢いで渦が出来る。」


 投入された汚れた服たちは勢いよく回り、汚れが落ちていく。


「人の手で大量の洗濯物を洗うよりも節水できる上に、使用人の負担も減る。」


「理屈は分かります。

 ですが、水を節約したいならば洗濯する頻度を減らせばいいのでは?」


 泰山の説明に、凛が不思議そうに問い掛ける。

 洗濯する頻度が減れば、そのぶん水は使わなくて済む。

 

「ふむ……では、夏侯殿は汗水流して鍛錬をした汗臭い身体で眠りたいですかな?」


「いや……それは……」


「個人差は有るかもしれませぬが、汚いよりは清潔な方が気持ちがいい。

 更に重ねるならば、身体や服を清潔にすることで病を防ぐことにもなります」


「待て。

 何故、そこで病に繋がる?」


 なんの気負いもなく語られた泰山の言葉を、彰玄が止める。


「……失礼ながら、王弟殿下は飢えたことがありますかな?」


 戦場だけの一過性の話では有りませぬ、と泰山が彰玄と凛を見詰める。


「分かりやすいように、極論で説明を致します。

 あくまで、極論と理解した上でお聞きください。」


「極論……?」


「はい……生き物は、飢えた状態が続くと身体が弱り、餓死する。

 その遺体は焼かねば腐り、蛆が湧き、病の源泉となる。

 遺体から流れ落ちた体液などに触れた手で食事をしたり、幼い子に触れれば病に罹り……死に至る場合も有る。」


「……それは、流行り病のことを言っているのか?」


 そうです……と、泰山は深く頷く。


「……我々、白一族は長年に渡り天候や気候、作物の収穫量、王都の様子を記録していました。

 その記録を通して、分かることもあった。」


「わかること……?」


「明葵曰く、確率もしくは統計と評したい、と。

 即ち、水面に落ちた小石が波紋を広げるように。

 一つの切っ掛けを起点として、次に起こりうる可能性を過去の記録の集計より推論する。

 それは、予言の類とは違って確実に起こることとは言いません。

 しかし、起こりうる可能性があると言う話となります。」


「「っ?!」」


 水流式洗濯機の話をしていたはずなのに、広がっていく話題に彰玄と凛は驚きを隠せない。


「泰山、何の話をしている?

 何故、水流式洗濯機の話題から未来の可能性の話しへと話題が広がる?」


「全ては、繋がっているからです」


 泰山は静かに告げ、その背後にはいつの間にか真顔の菖雲と桐峻も控えている。


「我ら一族は、この国が建国されたその時より"記録"する一族だった。

 その大役を任され、決して途切れることなく受け継いだ。

 …………王家が、その役割の重要性を忘れようとも。

 我ら一族との約束を……忘れようとも。」


 圧倒されそうになる。

 まるで戦場に立ち、歴戦の武将と相対しているような……凄まじい覇気。


 彰玄と凛は、生唾を飲み込む。

 凛に至っては、微かに震えた指先を隠すように握り締めた。

 

 腹にグッと力を込め、気圧されてなるものか、と彰玄は口元を引き結ぶ。


「…………我ら王家が、何を忘れていると言うのだ?」


「まずは調べることをお勧め致しましょう。

 ……我らが一方的に告げた所で、信じられるものでも有りませぬ。」


 取り付く島もない。

 しかし、彰玄には泰山が偽りを述べているようには見えなかった。


「王弟殿下……陛下も含め、価値があるのは娘だけだとお考えになった御様子。

 ですが、あの娘は我らが一族の下に生まれたからこそ、その価値を花開かせた。

 ……表面上の中途半端な価値しか知らぬ者に、あの娘は扱えませぬ。」


「……何が言いたい?」


 泰山の言葉は、まるで彰玄達では明葵を守れないと、明葵を苦しめると言われているようで……。

 

「確かに、私は白 明葵の価値を見出したにも関わらず、その身を危険に晒した。

 保護したかった件に関しても、彼女に誤解させて怯えさせてしまったと……理解した。

 だからこそ、彼女を危険から守れるように考えを巡らせている。」


「……守れるように、ですか……」


 守りたかった明葵の危うさを、目の前で見ておきながら……やはり、分かっていないと泰山は心の中でため息をつく。


「……王弟殿下、この話は王家が我らの一族との約束を見付けてからに致しましょう。」


「…………」


「……しかし、日陰者の一族の下へと、畏れ多くもお越しくださった王弟殿下に手土産の一つも持たせずに帰られせる訳には参りませぬ。」


「手土産……?」


 眉を寄せる彰玄に対し、堂々と臣下の礼をとった泰山は低い声で告げる。


「……近々、発生する可能性が高い疫病対策と致しまして、我が家が溜め込んでいた物資を献上致しまする」


 此方が目録で御座います、と控えていた菖雲が、驚愕に目を見開く彰玄へと差し出すのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!


皆さまの応援を励みに、明葵たちの物語を最後まで描いていきます!!

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