第十八話
「は~い、良い子のみんな!
今日は、王城の偉い人たちが一緒に授業に参加します!
いつも以上に良い子で、元気に頑張ろうね!」
『はーい!玲師!』
元気な子供たちの声が室内に響く。
「では、昨日の復習からやっていくよ。」
木の板を漆で黒く塗り、大きな板へと寄せ集めた物に、白い石灰を固めた棒で玲が漢数字を書いていく。
「一組の七人は右端の足し算、二組の六人は真ん中の一桁の掛け算、三組の八人は左端の二桁と三桁の掛け算、割り算を時間が許す限り解いてね」
黒い板にミッチリと書かれた数字の数々の横で、素敵な笑顔を玲衣が浮かべる。
躊躇うことなく告げられた始めの言葉と同時に、砂時計をひっくり返された。
「「…………」」
「何というっっ?!
このように幼い子達がすでに算術を扱えるとっっ?!」
左に進んで行くほどに難解な数字の羅列に、彰玄と凛は言葉を失い、景文は興奮して鼻息を荒くする。
「あ、王弟殿下方は初めての算術でしょうし、無理に解かなくて大丈夫ですよ。
もし宜しければ……王弟殿下、僕が二人っきりでお話させて貰えれば……」
「断る」
「ふふ……王弟殿下は恥ずかしがり屋さんですね♡」
小首を傾げて甘く微笑む玲に、彰玄は鳥肌が立つ。
「おおっ?!
玲師!是非この私めにご指南を……」
「申し訳ありません、文官様。
僕は子供たち優先なもので……………………爺はお呼びじゃないんだよ」
「「っ?!」」
困ったような笑顔で景文の頼みを断った玲が、彰玄と凛にだけ聞こえるような声音で低く呟いた。
「(……彰玄様)」
「(……分かっている)」
……この男は、何かを企んでいる。
彰玄と凛が無言で視線で頷き合う姿を、チラリと玲が視線の端で拾って口角を微かに上げた。
「玲師ー!
わたし、さいごまで解けましたー!」
その時、元気な女の子の声が響いた。
「玉葉、見直しまで終わったかな?」
「はい!」
年の頃は十歳くらいだろうか。
満面の笑顔で玲へと木簡を見せる玉葉。
「……うん、流石だね。
全問正解だよ、玉葉。」
「ありがとうございます、玲師!
えへへ……姫姉さまが帰って来たら、喜んでくれるかなぁ……?」
嬉しそうに満面の笑顔を浮かべていた玉葉が、少しだけ寂しそうに下を向く。
「……ぼくも……ひめねえさまに、あいたい……」
「僕も……」
「あたしも、あいたいよぉ……」
玉葉の言葉を皮切りに、一番幼い子供が涙混じりの声で呟き、他の子供達も同じように寂しげに呟いていく。
「みんな……皆、元気を出して!
いつ帰ってくるかは僕にも分からないけれど……この王城の偉い人たちが皆の気持ちを姫様に届けてくれるからね!」
「「「…………」」」
本当?
姫姉様に伝えてくれるの?
……純粋な幼い子供達の眼差しに、明葵を円塔に閉じ込める切っ掛けを作った彰玄の胸がチクリと痛む。
「……善処、する」
「わぁ……!
ありがとうございます!」
「姫姉様が、すぐに帰ってくるかもっ!」
「やったぁ!」
キャッキャッと喜ぶ子供達に、彰玄と凛は目を逸らしてしまう。
「彰玄様……」
「……言うな」
明葵を待つ存在がいることを目の当たりにした彰玄と凛。
白家で明葵が愛されている存在であることを直に感じ取ってしまったのだ。
「……白 明葵は、子供達にも愛されてい……」
「なぜじゃぁぁぁぁっっ?!
儂にも叡智をぉぉぉぉぉっっ!!!」
自分よりも遥かに幼い玉葉が解けた算術を自分も解こうと悪戦苦闘する景文の叫びが木霊する。
「「…………」」
しんみりとした空気を破壊する景文の叫びに、彰玄と凛は途轍も無く疲れた気がした。
「王弟殿下……もし、宜しければ明葵の作業場にでも移動致しましょうか?」
「……頼む」
微妙に煤けてしまった彰玄に、静かに見守っていた泰山が声を掛けるのだった。
算術を習うという建前の元、置いていかれた景文の周囲に子供達の輪が出来る。
大袈裟な奇声や喜びの叫びを上げる景文は、ある意味では子供達の玩具のようになっていた。
「ねえ、玲師。
アレくらいで良かったの?」
一番最初に計算を終わらせた玉葉が、離れた場所で景文と子供達をニコニコと見守る玲に声を掛けた。
「んー?
アレくらいが丁度いいんだよ。
何事もやり過ぎは注意ってね。
…………馬鹿じゃなければ、僕がわざと誘惑しているって気が付くさ。」
「ソッチじゃないし!
あの仏頂面のオジサンが玲師に惚れようが、どーでも良いの。
私は、姫姉様に早く帰って来てほしーの!」
「オジサン……。
あのさ、王弟とかいうアイツは僕より年下なんだけど?」
「そんなこと知らないしー!
笑顔の一つも見せないヤローなんて、お呼びじゃないの!」
キッパリと言い切る玉葉に、玲は苦笑してしまう。
「人間としての感情の機微が多少なりとも有るなら、幼い子供達が涙を浮かべて寂しいって空気に当てられれば多少の罪悪感は湧くよ。
……そうしておけば、今後の姫様の処遇について考える度に罪悪感が働いて、姫様を守る助けになるさ。」
「ふーん……?
ちょっとでも、姫姉様を守る一助になるなら良いけど……」
頬杖を付いて唇を尖らせる玉葉に、玲は微笑む。
「……なるさ。
そして……絶対に連れ戻す」
「……玲師、悪役みたーい」
「悪役上等さ。
姫様は白家の宝なんだから。
白家にあるべき御人だよ」
玲はニイッと口角を上げて笑い、怒りの混じった炎を瞳の奥に燃え上がらせるのだった。
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明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!
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