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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく


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第四話



「我が家では、普通に皆作れるので大した違いは無いと思いますけど……」


 渋々と。


 困惑した表情のまま、肉乾作りについて説明を開始する明葵。


「構わん、話せ」


 不遜な態度を崩すことなく、彰玄が先を促す。


「……一応、お願いがあります」


「何だ?」


 少し逡巡した明葵は、おずおずと彰玄に対して口を開く。


「……私が説明した内容が、御二人が知る肉乾の作り方と同じで不満に思ったとき……」


 一度、言葉を区切り……覚悟を決める。


「もし……腹を立てて私を、腰の剣で斬り捨てるなら……後生ですから、苦しまぬように殺してください。」


 薄汚れた衣をギュッと握り締め、死ぬ覚悟を決めた明葵の言葉。


「っ……」


「………」


 彰玄と凛は目を見開く。


「鬱憤晴らしに甚振られて死ぬのは…………痛いのも、苦しいのも、嫌ですから」


 貴族なんて……特に、高位の貴族なんて、そんなものだ。


 彼らを不快にすれば、簡単に命など斬り捨てる。


「(殺されるだけなら、まだいい……)」


 瞳を伏せ、自嘲の笑みが浮かぶ。


「(……壊れた玩具のように甚振られて死ぬのは嫌だ。

 せめて…………一瞬で死んでしまいたい。)」


 この願いすら……目の前の男達の気分を損ねるだろうか?


 多少は、理性的に見える男達だから言ってみたが…………失敗だったかもしれない。


「……俺が、気に食わぬからとお前を殺すと思うのか?」


「気に触ったならば……申し訳ありません。」


 頭を下げてみたが……平伏した方が良いだろうか?


 平伏した程度で、痛み無く殺してもらえるならば安いものだ。


「……殺さぬ。

 他者を甚振るために、剣はあるのではない」


 貴族の気分を害した。


 何故、その程度の理由で他者を、この女を斬り捨てる必要がある?


「気分を害したなど……他者を傷付ける理由にはならぬ」


「……そう、ですか……申し訳ありません」


 ……何処までが本当なのやら。


 汚い平民風情が、と斬り捨てる高位貴族など幾らでも見てきた。


 一度安心させて、家来に甚振らせる奴もいた。


「……信じていないな?」


「滅相も御座いません」


「絶対に、信じていないだろう?」


「なぜ、断定できるのですか?」


「お前の顔がそう言っている。」


「言っていません。」


「言っている。」


「顔は喋りません。」


「…………」


「…………」


 無言。


「……肉乾について、ですが……」


「逃げたな。」


「逃げていません。

 面倒くさくなっ……さて、まず一番最初にすることですが……」


 ポロリと本音が漏れそうになった。


「(ははっ……彼女、素直すぎじゃん。

 彰玄様相手に、面倒だって言っちゃったよ!)」


 彰玄と明葵のやり取りに、凛は沈黙を貫くが……その口元は笑っていた。


「(……売り言葉に、買い言葉って怖い……)」


 恐らくは、だいじょう……ぶでは無いかもしれないが、もう自棄っぱちである。


「猪や鹿など、お好みの肉を狩って、薄く切って、塩漬けにした後に、燻す……以上です」


「いやいやいやいや!

 なんか、色々と省略したでしょっ!

 絶対に、面倒だって思って省略したよね、君っ!」


「…………説明は、しました」


 自棄っぱちゆえの大胆な所業。


「……もっと事細かに」


「…………」


「重箱の隅をつつくように、俺が問い掛けた方が良いか?」


「…………赤身の肉を用意します」


 ため息を付きたい気持ちを我慢して、再び口を開いた明葵。


「(……意地を張って細かく説明しなかったら……絶対に、夜まで居座る気だわ)」


 彰玄の本気を感じ取り、明葵は面倒なことになったと心底思う。


「肉に付いている脂身を出来うる限り除去します。」


「え、勿体ない……」


「勿体なくても、除去しないと肉が傷む原因になります。

 その後は、薄く切り分けて、塩漬け。

 塩漬けした液を綺麗に拭き取り、表面を風通しの良い場所で乾かす。

 そして……コレ、です」


 明葵が指差した先。


 大きな、大きな瓶。


 パタパタと明葵が風を送り込んでいた物だ。


「この工程は同じでしょう?

 桜や楢の木を細かく切って、少しだけ湿らす。

 火を燃やす用の細長の穴を掘る。

 この大きな瓶に入る程度の高さかつ、掘った穴を跨ぐ程度の竿を作って、肉を吊るして瓶を被せる。

 あとは、掘った穴の中で下から瓶の下で火を起こして、煙を瓶の中に充満させるだけです。」


「待て。

 煙は風味付け程度の筈だ。」


「え……それ、意味ありますか?

 燻煙は瓶の中で充満させてこそ、防虫だけでなく殺菌と防腐効果が最大になります。

 香りを付けても、腐ったり、虫が湧いたら不衛生です。」


 想像しただけで気持ち悪い。


「私は、虫の湧いた肉乾を食べる趣味は有りません。」


「……好き好んで、そんな物を食う者はいない。」


「そうだよ。

 戦場だとか、それ以外に飢えを満たせる物がないからしょうがなく食べるんだよ。」


 渋面を作る彰玄と凛。


「……そんな物を食べて病気になったら、保存食の意味がないでしょうに」


 首を傾げてしまう。


 何故だろう……明葵と彰玄達の間には、大きな溝がある気がした。


「私が言えることは唯一つ。

 保存食として衛生的に長持ちするように、普通に肉乾を作っただけですので……悪しからず。」


 誇ることも、見栄を張るでもなく。


 明葵は、ただ静かに微笑むのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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