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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第十五話



「っ……これっ、これは……!」


 わなわなと体を震わせ、目を剥き、汗をかきながら言葉を捻り出そうとする景文。


「……そう言えば……あの、この方は何方様でしょうか……?」


 彰玄との言い合いに意識を取られ、明葵にとって見知らぬ人物である景文とまだ自己紹介をしていなかったことに気が付く。


「あ……紹介していなかったね、彼は……」


 明葵の言葉に、凛が景文を紹介しようとしたその時。


「…………ご令嬢っっ!!」


「み゛っっ?!」


 俯いてブツブツと呟き、震えていた景文が、勢いよく顔を上げた。


「私は算官長の徐 景文と申す者です……!」


 一足飛びの要領で明葵の足元へと景文は平伏する。

 その素早さは、武官である彰玄や凛が止める暇もなかった。


「どうかっ!

 どうか、この私めに神仙の叡智の如き算術をお授け下さいっっ!!」


「え゛?

 いや、え……ちょっ?!

 頭を上げてくださいっっ!!」


「我が師よ!

 貴女様が頷いて下さるまで頭を上げませぬっっ!!」


「いやいやいやっっ!!

 なんで"我が師"と呼ぶのですかっ?!

 私は弟子を取るような身分ではありません!!」


「そこをなんとかぁぁぁぁっっ!!!

 我が師よぉぉぉっっ!!

 弟子と認めて下さるまで、私は帰りませぬぞぉぉぉぉぉっっ!!!」


「い゛っやぁぁぁぁっっ!!

 足に縋りつかないでぇぇぇぇっっ!!!」


 大惨事である。


 必死の形相で明葵に縋り付く色々な物を、主に誇り的なものを捨て去った景文。


 父親か、それ以上の年代の男に必死の形相で縋り付かれて半泣きの明葵。


「景文、離れろ」


「お断り致しまするっっ!」


「……命令だ」


「嫌でござりまするぅぅぅぅ!!」


 半泣きの明葵を助けようとしたものの、鬼気迫った形相の景文が彰玄の命令をキッパリと拒絶した。


「はっ?!

 ちょっと待てっ!

 王弟殿下に対して無礼な……」


「無礼もクソもありませぬっっ!

 お二人にはっ!

 この算術の歴史を塗り替え!

 革命を起こす神の御業を持つ女神の前に!

 たかが王族に対する無礼など知りませぬぅぅぅぅっっっ!!!」


「アンタ!そんな性格だったのかっっ?!」


 狂ったように明葵を褒め称える景文を前に、彰玄は頬を引き攣らせ、凛は頭を抱えてしまうのだった。





 しばらく大騒ぎをした後に、冷静さを取り戻した四人。


「その……御無礼を働き、大変申し訳ございませんでした……」


「…………冷静さを取り戻してくれて良かったけど、さ……」


 体を小さく縮こまらせる景文の顔には、三本線の引っかき傷がくっきりと残っていた。


「かの、ちゃぁぁぁんっっ!!」


「みゃあ〜」


 怖かった、と明葵は猫の華乃を抱き締める。

 涙目になっている明葵の頬を、華乃が優しく舐めて慰めた。


「みゃあ」


「…………」


 そんな明葵と華乃を、何か言いたげに無言で見詰める彰玄。

 その瞳には、明葵が一番に頼る相手が猫であることに複雑な感情が宿っていた。


「にゃんっ!」


「っ……!」


 無言の彰玄の視線に気が付いた華乃が、猫の姿なのにニヤリと嗤って鼻で嗤った。


「……彰玄様……大変申し訳ないのですが、明葵嬢の飼い猫を相手に歴戦の因縁の相手と垣間見えたような顔はやめてください」


「っ……そんな顔は、していない……!」


「そうですね。

 ……で、徐算官長の無礼打ちは無しで宜しいですか?」


「っ……構わん」


 ため息交じりの凛の言葉に、拗ねたような雰囲気を纏った彰玄がそっぽを向いた。


「…………」


 なんとか首と胴が離れずに済んだことに、景文は安堵の表情を浮かべる。


「それで、白 明葵よ。

 先ほどの算術に関して、お前だけでなく白一族すべてが同じように暗算できると考えて良いのか?」


 場を仕切り直すように、彰玄は明葵へと改めて問い掛けた。


「…………同じように、と言われましても……個人差がありますので……」


「そうか。

 幾らなんでも、皆が皆、暗算の速度が同じではないのだな」


 彰玄の問い掛けに困った表情の明葵の言葉に、凛と景文も思わず頷いてしまう。

 

「そうだよね、明葵嬢。

 早々、暗算をみんなが同じ速度で出来るはずがないよね」


「はい。

 どちらかと言えば、私は兄妹の中では三番手です。

 一番上の兄が暗算が得意ですし、暗算が一番早い子は我が家の金庫番をしてくれているます。

 その子は、暗算で三桁同士……四桁もいけるかも……?

 そもそも、その子に私は暗算の早さや正確性で勝ったことが有りませんし……」


「「「……は?」」」


 私なんてまだまだです、と控えめに微笑む明葵に男たちは絶句する。


「ああ、でも……何年前だったかしら……?

 その子の能力は、変人奇人と言われる我が家には勿体ないから、国試を受けるように勧めたことが有りました。

 ただ、国試を受けに行って散々馬鹿にされたから二度と御免だと帰ってきちゃったんですよねぇ……」


 白家が推薦したことで馬鹿にされたらしくて……と、明葵は苦笑する。


「…………誰ですか?

 算術の女神を超える神の如き御方に無礼を働いた輩はっ……!!」


 怒髪天を衝くといった様子で怒りに震える景文が、親の敵とばかりにぎりぎりと歯を鳴らす。


「……一度、国試を担当する官吏を締め上げるべきか?」


「彰玄様、いけません。

 そこは、担当だけではなくて部署全体を締め上げるべきかと。」


 表情が消え去った彰玄の言葉に、微笑みを浮かべた凛が訂正を加える。


「あの……え……私、何か悪いことを言ったかしら……?」


「(……バカな人間がバカをやらかして。

 今になって逃がした魚の大きさに、バカを野放しにした奴らが歯噛みするなんて……ほんっと!

 人間ってバカよねぇ……!)」


 困惑して首を傾げる明葵の腕の中で、猫の姿の華乃が三人の男たちに向かって鼻で嗤うのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!


皆さまの応援を励みに、明葵たちの物語を最後まで描いていきます!!

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