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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第十三話



 腕まくりをして、女の軟腕では重そうな金具を持ち上げ、真剣な表情で作業を続ける女こと明葵。


 そんな足元で白猫の華乃がお行儀よく座り、彰玄達をチラリと見て興味なさげに鼻で嗤った。


「疑問に対して、疑問で返すな。

 わからないから聞いているんだ。」


 彰玄はツカツカと足早に明葵へと近付き、重そうな部品を取り上げる。


「王弟殿下、返してください……!

 私はただ分解されていた天球儀の部品を磨いて、組み立てているだけです……!」


 悪いことはしていませんよと主張する明葵に、彰玄は顔を顰める。


「一人で重たい部品を扱うな。

 怪我をしたらどうするつもりだ?」


「問題ありません。

 このくらいの作業は慣れています。」


「そういう問題ではない」


「では、どういう問題ですか?」


「お前が怪我をするか、どうかの問題だ」


「絶対に怪我をしないなんて保証は、普通に生活していても有りません」


「それは否定しない。

 だが、普通に生活をしているよりは怪我の可能性は上昇するだろう」


「怪我を心配していては何もできません」


「ならば、俺に事前に相談すればいい。

 一緒に作業をする。」


「お断りします」


「断るな」


「めんど……畏れ多くも王弟殿下の貴重なお時間を奪えません」


「面倒だと言いそうになったな?」


「なっていません」


「「………………」」


 無言で見詰め合う彰玄と明葵。


「…………」


 予想を遥かに超える彰玄と明葵の応酬を初めて見た景文は、顎が外れそうなほどに驚く。


「(……悪い夢でも見ているのか……?

 あの……王弟殿下と言い合える女人がいるなど……)」


 どんなに美しい女たちを前にしても、表情を動かすことのないと有名な王弟、彰玄。

 姉であり、皇帝である黎陽の命があれば、老若男女問わずに顔色すら変えずに弑する大将軍。


「彰玄様、明葵嬢、恒例の夫婦喧嘩……失礼、掛け合いは終わりましたか?」


「夏侯様っ?!」


 呆れたように溢れた凛の一言に、景文はギョッとする。


「夏侯さま。

 以前にもお伝えしましたが、夫婦ではないので夫婦喧嘩は成立しません」


「凛……まだ夫婦ではない」


 息ぴったり、同時に凛へと顔を向けた明葵と彰玄の返答。


「はい、分かりました。

 お二人が仲良しなことは、十二分に理解しております。」


「夏侯さま……!

 私は王弟殿下と仲良しではないです……!

 変な風評被害は困ります!」


「……何故、俺との関係は力一杯に否定する?」


「否定しなければ、主に風評被害を受けるのは王弟殿下です」


「風評被害など受けぬ。」


「受けます。

 王弟殿下にも、意中の女性や婚約者がいらっしゃるでしょう?」


「お前が相手ならば、風評被害を受けても問題ないということだ」


「……それは……私のような行き遅れは女の分類に入らない的な……」


「そのようなことは微塵も言ってない!」


 キッパリとした明葵の否定に、彰玄は微妙に萎れたかと思えば、再び始まる応酬。


「(……あの、王弟殿下が……女人と……?

 この女人は……何者だ?

 王弟殿下は……夫婦という言葉を"まだ"と否定しなかった……!)」


 景文は目玉が落ちそうな程に衝撃を受ける。


「徐算官長……ご理解を頂けましたね?」


「っ……」


「ご令嬢本人に自覚はありませんが、遠くない未来に王弟殿下の……ね?」


「……承知しました」


 それなりに長い年月を王城に勤める景文は、凛の言葉の先を理解した。

 そして、決して風変わりな令嬢の情報を他者に漏らさぬことを誓う。


「改めまして、彰玄さま、明葵嬢。

 戯れ合いは、その辺にしてくださいね。」


 パンパンと手を叩いた凛に注目が集まる。


「彰玄さま、此処に来た目的をお忘れですか?」


「……忘れてなどおらぬ」


 少しだけ拗ねたような彰玄の珍しい声音に、凛は苦笑する。


「目的、ですか……?」


 明葵の瞳が不安そうに揺れる。

 気が付かない内に何か粗相をしてしまっただろうか……?


「(地下室の探索も、一旦は取り止めているし……?

 この天球儀だって、我慢して改造せずに組み立て直しているだけですし……?

 まだ、あれはバレていないはず……?

 ……それに、見知らぬ人も連れて来てますから……)」


 明葵には、思い当たることが何一つとしてない……無いったら無い。


「白 明葵、お前に聞きたいことがある。」


「聞きたいこと、ですか?」


「お前は、暗算で何桁まで計算ができる?」


「っ?!」


 彰玄の問い掛けに、景文は目を瞬かせる。


「(……貴族の令嬢に暗算など出来るはずがない……!

 王弟殿下は、何故そのようなことを問われるのか……?)」


 瑞華国における基本的な貴族の教育に計算など無い。

 高位の貴族ならば兎も角、下級の貴族は当主や跡継ぎのみ基本的な計算を学ぶ程度なのだ。


「(……商人の家の娘の方が、まだ数字には強いだろうに……)」


 景文には、彰玄の意図がわからない。

 分からないからこそ、戸惑ってしまう。


「暗算……それは、足し算や引き算ですか?

 それとも、掛け算や割り算ですか?」


「……そんなに種類が有るのか?」


「えぇ……なに、それ?

 徐算官長は、分かりますか?」


「は……?

 いや、貴族の令嬢がわかるはず…………足し算や引き算は言葉の通りかと。

 掛け算や割り算は……聞いたことがありません……」

 

 戸惑った男たち三人の視線が明葵に集中する。


「えー……えっと……白家では、普通のこと……なん、ですけど……?」


 明葵や白家、それ以外との認識の差。

 初めて知った事実に、明葵は困惑してしまうのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!


皆さまの応援を励みに、明葵たちの物語を最後まで描いていきます!!

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