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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第十二話



 円塔の地下室から出た彰玄と凛は、明葵と別れて兵部へと向かった。


「……これは、王弟殿下……!

 このようなむさ苦しい場所に、ご足労……」


「御託はいらん。

 それよりも、確認したいことがある。」


 兵部の中にある算官達の詰所。

 並べられた机の上には、たくさんの算木と木簡が散らばっている。


「己に分かることならば、何なりとお申し付けください」


 算官達の長に当たる官吏、徐 景文が彰玄の前に進み出た。


「では、問おう。

 大部隊中に二十人編成で六部隊、合計百二十人の兵士が七日間の演習を行うとする。

 その兵士一人当たり一日に肉乾を三枚、米を一斤配るとする。

 肉乾と米の総量は何枚と何斤だ?」


「は……?

 …………すぐに計算を致します」


 予想外の問い掛けに、景文は一瞬だけ目を丸くするものの、すぐに気を取り直して算木へと手を伸ばす。

 神経質そうな細い目をさらに細め、年齢を感じさせる皺のある口元を引き結ぶ。


「…………」


 無言で算木を動かす微かな音が室内に響き、彰玄に対応する景文に算官達の意識が集中する。


「…………お待たせ致しました。」


 次々に算木を動かす手元をジッと見詰める彰玄と凛の視線に負けることなく、景文は計算を終えきった。


「百二十人に対する七日間の米の総量は八百四十斤、肉乾の総量は二千五百二十枚となります。

 計算違いは無いかと存じます。」


 計算を終えた算木を前に顔を上げた景文が、明葵と同じ答えを彰玄と凛へと差し出した。


「……百八十人ならば?」


「…………しばし、お待ちください」


 目を細めた彰玄の二度目の問い掛けに、再び景文は算木へと手を伸ばす。

 追加された人数を出しているのか、景文はまた次々と算木を動かして行く。


「……出来ました。

 米は千二百六十斤、肉乾は三千七百八十枚となります」


 黙々と計算した景文が出した答えは、矢張り明葵が計算した答えと同じだった。


「凛」


「合っています!」

 

 何処か興奮した様子の凛が答え、彰玄も大きく頷く。


「景文、お前は今の計算を算木を使用せず瞬時に出来るか?」


「……瞬時……暗算ということならば、私めには出来ません。

 一桁同士、もしくは一桁と二桁の組み合わせならば出来ぬことも有りませぬが……三桁を超えますと……」


 彰玄の質問の意図がわからず、景文は困惑してしまう。


「では、算官の中で今の問いを暗算で瞬時に出来る者はいるか?」


『………………』


 室内に沈黙が落ちる。

 互いに困惑した顔を見合わせる者たち。

 彰玄と目が合わないように視線を逸らす者たちもいた。

 誰一人として手を挙げる者は居なかった。


「おらぬか。」


「申し訳御座いません、王弟殿下。

 しかしながら、先程の計算を算木無しで出来る者は早々おりませぬ。

 少なくとも、算官として三十年以上は勤めている己は出会ったことが有りません。」


 彰玄の不興を買ったか、と景文が頭を下げる。

 ただ、本当に景文は三桁の数字を含んだ暗算など瞬時には出来ない。

 若い算官達の能力に期待したいが……算官として長年勤めて来た景文より、優れた者は現時点ではいないのだ。

 

「凛……今回のみ景文を連れて行く」


「はい!」


 詳細を語ることなく彰玄は足早に移動を開始する。


「徐算官長、ご同行を」


「……はい」


 部下達を不安にさせないために、何か咎めれれるのかと戦々恐々な心中を景文は押し殺す。


「忠告しておきますが、これよりお見せするのは陛下より緘口令が敷かれている最重要項目です。

 …………安易に他者に漏らした場合、口を封じられると肝に銘じておくことです。」


「…………承知しました」


 兵部から移動し、彰玄を筆頭に円塔に向かって歩く三人。

 彰玄の背後で、凛が景文へと真顔で忠告する。


「(……仔細は分からぬが……死人に口無しとならぬように気を引き締めねば……!)」


 長年、王城に努めていれば……景文は、その暗部も知っていた。


 王族の不興を買った。


 権力闘争のすえ。


 貴族同士の派閥争い。


 それ以外にも、地位を得るために邪魔だったから、気に入らないから。


 そんな理由で消えた者達を何人も……景文は知っているのだ。


「(……何処に、行くおつもりか……?)」


 迷いなく歩く彰玄の行き先は、景文には分からない。


「(あれは確か……もう、使われなくなった円塔…………?

 だが……何だ、この異様な警備の近衛兵たちは……?)」

 

 兵部の敷地内というよりは、彰玄の住処の目と鼻の先にある北翼の廃墟、そこにある古びた円塔。

 円塔を警備する近衛兵達が次々に彰玄に向かって頭を下げ、脇に避けていく。


「………………何をしている」


 古びてはいるが、頑丈な扉が開いたその先。


「え……見てわかりませんか?」


 上から二番目の権力を持つ王弟に対し、真正面から言い返した上に、腕まくりをした奇妙な女に景文は度肝を抜かれたのだった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!


皆さまの応援を励みに、明葵たちの物語を最後まで描いていきます!!

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