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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第十話



「巨大な……炉……?」


「これが、炉だって?

 こんなに大きい炉なんて、王城内にだって無いよ!

 それに煙道って……なに?」


 驚きに満ちた彰玄と凛。

 二人の知る限り、こんなにも大きな炉は初めて見る代物だった。


「そうですね……確かに、大きさ的には私も疑問を抱いています。

 ただ……この下にもまだ地下室があることを考えれば、他の役割も担っていてもおかしくはない……。

 まだ更に下の地下室の探索までは終えていない以上は、はっきりと断言できませんし……。

 個人的には、煙道を使用した暖房機能はオマケだった可能性すらあるのではないかと……」


「白 明葵?」


 訝しげな彰玄の声が明葵の名を呼ぶ。


「……すみません、こちらの話です」


「今……更に地下が有ると言わなかったか?」


「え、ああ……はい、有りますよ」


「待て。

 当然のように言うのは可笑しいと思うが?」


「え……でも、有るものは有るのでしょうがないかと。」


「違う、有るか無いかの話ではない。」


「論点がわかりません。

 更に地下室は続いている、それが事実です。」


「事実云々が論点ではない。

 危険な真似をしていないかを確認している」


「危険な真似……地下室などの探索に関してならば問題がないと思うのですが……」


「お前の問題がないは疑わしい」


「それを言われてしまえば、如何しようもないと思います」


「「……………」」


「……明葵嬢、先に煙道についての説明を良いかな?」


 無言となる明葵と彰玄に、凛が胃の辺りを抑えつつ口を挟んだ。


「……煙道と言うのは、この円塔の壁の中を走っている青銅の管のことです。」


 凛の言葉に気を取り直した明葵が、巨大な炉へと近寄る。

 彰玄もまた、これ以上は話の腰を折らないように口を閉じた。


「元々、この円塔は外壁と中壁の二重構造となっているみたいです」


「二重構造?」


「はい。

 この巨大な炉から出た青銅の管が壁の中へと入っていってますよね?

 その青銅の管は円塔全体に張り巡らされ、天辺から煙が逃げるようになっています。」


「あ……あの時の煙!

 それが、この炉から出た煙だったんだ!」


 明葵の説明に凛が納得したように手を叩く。

 昨日の彰玄と凛が、円塔が火事だと勘違いした煙は、この巨大な炉からの物だったのだと合点がいった。


「炉から出た煙と熱が煙道を通って円塔の上から出る。

 その過程で円塔内部に張り巡らせた管の中を通ることで、暖房効果を発揮する。」


 巨大な炉を見上げた明葵は、この円塔の過去に思いを馳せる。


「真夏でも、真冬でも……天文学者たちは、ずっと空を眺め続けていた。」


 高い円塔の天辺に吹く風は、夏は涼しかったのだろうか?


 寒い冬は、余計に凍えるように冷たい風が吹いたのだろうか?


 夜空で静かに瞬く星々の輝き。

 天文学者たちが眺めた夜空は、きっと今も変わらない。


「真夏の夜は、高い塔の天辺には風が吹くでしょう。

 でも、真冬の凍える寒さや風は、防寒着だけで凌げたでしょうか……?」


 だからこそ……きっと、この巨大な炉が作られた。

 少なくとも、理由の一つは真冬でも夜空を観測する天文学者達を寒さから守るため。


「とても、不思議ですね……。

 天に瞬く星々を学者たちが観測していた天文台で、私もまた天を仰ぐ。」


 運命なんて言葉を使う気はないけれど…………縁を感じてしまう。

 

「ふふ……ドキドキすると思いませんか?

 今と昔が交わって、知らない何かに出会えるかもしれない……!

 とても浪漫があると思いませんか?」


 人々の記憶から消えてしまった天文台……この円塔。

 同じように地下の暗闇に忘れ去られた巨大な炉。

 そして……更に地下へと続く暗闇の先には、何があるのか?


「っ…………」


 巨大な炉を見上げていた明葵が振り向く。

 その瞳は、好奇心と知性に溢れて輝いている。


「(……心臓が……!)」


 巨大な炉を見上げていた横顔。


 振り向いた明葵の興奮して赤く染まった頬。


 楽しくて仕方がないと言わんばかりの微笑み。


「(心臓が煩い……!)」


 彰玄は思わず胸元を押さえる。

 熱を帯びていく身体と微かに赤く染まる頬に彰玄自身も戸惑ってしまう。


 視界が狭くなり、明葵しか見えない……!


「…………っ」



 激情に突き動かされるように、彰玄は明葵を引き寄せて抱き締めようと一歩足を踏み出そうとすれば……


「…………彰玄様」


「っ……?!」


 冷静な凛の声が、彰玄の足を止めた。


「……衝動で動くと失敗しますよ」


 明葵に見惚れ、誘われるように衝動のままに動こうとした彰玄。

 立ち位置的にも、心理的にも、一歩引いて見守っていた凛が彰玄を制した。

 

「…………何の話だ?」


「いえ……彰玄様は、立場的には明葵嬢を簡単に囲って奪うことは出来るでしょうけど、彼女の性格的にはお勧め出来ないな、と。

 彼女、変に誤解させて拗らせると面倒そうな気配を感じます」


「………………」


 詳細を伝えずに王城へ呼び出した一件を忘れたんですか?とジトッと見詰める凛から、彰玄は視線を逸らす。


「……………………気を付ける」


「その方が宜しいかと」


 不承不承といった雰囲気の彰玄に、凛は苦笑してしまう。


「それで、明葵嬢……煙道については分かったけれど、このまま更に地下へと降りる予定かな?」


「いえ……まだ此処から先は私も足を踏み入れていなくて……。

 だから、後日改めての方が宜しいかと。

 ……本気で安全を確保した上で行動しないと危険な気がするんですよね……」


 何となく。

 そう……根拠は無いのだ。

 ……無いのだが、此処から先の地下へと降りるならば、彰玄と凛と一緒では不味い気がする。


「(あくまでも私の勘だけど……この先には、何か大きな驚きが眠っている気がする……)」


 更に言うならば、この円塔自体に……もっと大きな秘密が隠されている気がするのだ。

 だからこそ、さらなる地下という未知の領域に踏み込むならば、華乃や小鬼たちとの方が安全に進めると明葵は考えていたのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!


皆さまの応援を励みに、明葵たちの物語を最後まで描いていきます!!

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