第九話
「元々、地下室を見付けるに至った切っ掛けは、この円塔を建てた目的を考えたことでした。」
円塔の一階。
彰玄達を隠された地下室へと案内しつつ、明葵は口を開いた。
「目的……この円塔は、天文台だったと聞いている。
だが、当時の王の命令で天文学者たちは任を解かれ、この円塔も忘れ去られていった。」
「あとは、壊すにしろお金が掛かりますから。
何かに使えないかと言うことで、壊されることなく今に至ると言いますか……。
詳しいことは知りませんけど、実際に天文台として使われていたのは百年近く前だったはずです」
明葵の言葉に、彰玄と凛が自分たちの知る限りの円塔にまつわる話を口にする。
「どうして当時の王が、天文学者たちの任を解いたかも気にはなりますけど……今は、その謎は置いておきます。」
明葵が部屋の扉を開ける。
「……床に隠し扉、か……」
「……よく、こんなに重そうな石の扉を開けれたね……」
扉の先には、明葵や小鬼達が修理した天井の滑車を使い、地下室への扉が開かれた状態となっていた。
「これもまた、滑車を使った原理です。
滑車を使うことで、この重い石の扉を開くための力を分散させることが出来ます。
だから、私が特別に力持ちというわけではありませんよ。」
しみじみと呟く凛に、また力持ち疑惑を持たれたかもと明葵が先回りして答える。
「そして、この地下室を最初に見つけた時に気が付いたのですが……どうやら、鏡を使った採光方法も確立していたようです。」
「採光?」
「百聞は一見にしかずと言うことで、ご覧ください。
これは、円塔内の倉庫のような場所で見付けた鏡です。」
円塔の一階に有る窓の一つ。
その近くに有った不思議な形の窪み。
地下室への扉との位置関係でこの窓だと辺りは付けていた明葵にとっては、納得の窪みだった。
「この鏡を、窓からの光を受けるように置けば……」
太陽の光を受けて、丸い鏡が煌めく。
まるで、光線のように彰玄と凛の横を通り抜け暗かった室内を光が満たす。
「「っ?!」」
室内にいくつもの鏡が仕掛けられていたのだろう。
丸い鏡から走った光の線。
その光が壁に隠された鏡に反射し、更に別の壁の鏡へと走って行く。
そして、乱反射した光は、地下室の入口の中へと吸い込まれるように収束して行ったのだ。
「光が……溢れた?」
「え……うえぇぇっっ?!
何で光が生き物みたいに動いて地下室が……てゆーか!
この部屋まで明るくなるんだよっっ?!」
窓のない室内に溢れた光に目を丸くする彰玄。
昼間の明るさとは言わないが、十分に明るくなった室内。
そして、真っ暗だった地下室へと光が走ったことに驚きと興奮で声が上ずる凛。
「蝋燭や松明の明かりだけに頼りたくなかったのでしょうか?
それとも、別の目的もあったのか……?
少なくとも、地下室は密閉空間で換気が十分に出来ない可能性も考えられます。
だから、安易に炎を長時間は使いたくなかったのかも……。
考察を始めれば切りがありませんので、一旦は謎解きはやめておきましょう。」
「「…………」」
ふふふ……と楽しそうに微笑む明葵に、彰玄と凛は口を閉じる。
下手に質問を振れば、川の水が勢いよく流れるように話始めることが目に見えていた。
「さあ、地下室へと参りましょう。」
「……そうだな」
明葵に先導され、
「……結構狭いね……。
彰玄様は、無理をされない方が……」
「問題ない」
「…………嵌って動けないは、勘弁してくださいね」
女が一人通るのがやっとの階段。
その狭さに、凛は彰玄が挟まらないかとヒヤヒヤしてしまう。
「挟まる……?
もし挟まったら、大きな蕪みたいに頑張って引っ張りますね」
「「…………」」
至極真面目に返された明葵の言葉に、彰玄と凛は微妙な表情を浮かべてしまった。
「……明葵嬢は賢いけど……結構な天然だよね……」
「天然……?
人間に天然や養殖は有りませんよ。
強いて言うならば、みんな天然だと思いますが……?」
「……変に小賢しく傲慢に振る舞われるよりもマシということだ。」
養殖の人間って何?と首を傾げる明葵に、ため息混じりに彰玄が答えた。
「よく分かりませんけど……褒め言葉ではない気がします」
「褒めている」
「本当ですか?」
「ああ」
「……なんか含みを感じます」
「そんなことはない」
「納得がいきません」
「正直なことは美徳だ」
「……王弟殿下が言うと微妙な気持ちになりました」
「何故そうなる」
「「………………」」
無言の攻防。
「お二人とも、地下室に行くのでしょう」
「あ……はい!こちらです!」
また始まったとばかりに凛が先を促せば、明葵が思い出したように歩き出す。
そして、明葵を先頭に辿り着いた先に見えた物に、彰玄と凛は息を呑む。
「……白 明葵」
広い地下室の中で忘れ去られていた物。
大柄な彰玄の身長でも見上げてしまう巨大な青銅の塊。
部屋の中央付近に位置する胴体のような部分から飛び出した幾つもの太い配管。
まるで機械仕掛けの人形の巨大な心臓を見あげているような錯覚に陥る存在感。
「これは……何だ?」
驚愕に目を見開いた彰玄の口から零れ落ちた問い掛け。
「これは、この円塔に張り巡らせた煙道を通して、円塔全体を温めるための巨大な"炉"……この円塔の心臓と言えるかもしれません!」
まるで悪戯が成功した子供のような笑顔で、明葵は誇らしげに答えるのだった。
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明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!
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