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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第八話



 キラキラと輝く笑顔で告げられた言葉。


「……隠された、地下室……」


「……大きな炉……」


 一瞬だけ静まり返る室内。


「「………………」」


「あれ……お二人とも?」


「「っ?!」」


 反応がない彰玄と凛に、首を傾げた明葵。


「地下室とは何の話だ……!」


「えっ……え?

 兵士達とも調べたけど、地下室なんて無かったよ?!」


 二人の想像を超えた明葵の言葉に、目を剥いて驚く。


「私も見た時は驚きましたけど、小おに……じゃなくて!

 猫の華乃ちゃんは流石だなって……!」


 小鬼と言いそうになって、慌てて言い直した明葵。


「ほう……?」


「あは、あはははは………」


「今、何か……」


 ……今、確かに何かを言い直した。


 ジッと明葵を見詰めれば、彰玄と視線を合わせようとしない。


「そっ、それよりも!」


 なんか、怪しまれてる……!


 話題を変えなきゃっ……!


「壁に触れてみてください……!」


「……壁……?」


「壁って……この部屋の壁?」


 あからさまな話題転換とは知りつつも。


 まずは、地下室や煙について聞くことにした彰玄。


「はい、触れて頂ければ……地下室の役割が分かりやすいかと。」


「壁と地下室に、何の関わりが……」


 明葵に促され、壁に触れた彰玄と凛。


 例え、室内であろうとも、石壁はひんやりと冷たい。


「…………暖かい……?」


 その考えの元に石壁へと触れてみれば、予測を裏切る結果に微かに目を見開く。


「石壁って、普通は冷たいってゆーか……こんな風にじんわりと温かいなんて……何でだ?」


 冷たいはずの石壁の温もりに、驚いた二人。


 偶然か……?と、一箇所だけではなく、左右離れた場所など複数個所を触れてみる。


「……部屋全体が……暖まっている。」


 何故だ、と不思議そうに壁を見上げる彰玄。


「火鉢だけでは石壁全体は暖まらないはずなのに……?」


 真冬の王城内でも、経験したことがない現象。


「白 明葵、何故……壁が暖かい?」


「すべての秘密は、隠されていた地下室に有ります。」


「地下室に?」


 はい、と明葵は微笑む。


「明日も、晴れるでしょう。

 天候が晴れならば、ちょうどいいかと。」


「……干魃が続き、晴れの日が多いとは言え、何故……明日が晴れだと断言できる?」


 雨はほとんど降らない。


 だが、春先の今の季節……全く曇らない訳では無い。


 ……曇るだけで、雨がふらないことは歯がゆいばかりだが。


「簡単、とは言いません。」


 明葵はふわりと微笑む。


「でも、毎日毎日……空を眺め、風を詠み、雲を見る。

 規則的とは言えないし、必ずとも言えません。

 だけど……積み重ねてきた記録が、教えてくれることもある。」


 明葵は青銅製の格子越しに、藍色に染まった空を見上げる。


 春の一番星が今日も明るく輝いている。


 春の夜空を彩る三つの星座からなる大三角は、今宵もきっと美しい。


「今日も一日、青空は澄み渡り、遠くの山々の輪郭までくっきりと見えました。

 この数日、風向きも変わることなく、大きな雲も育っていない。

 そして……今日の夕焼けも色鮮やかでした。」


 柔らかく微笑んだ明葵は、窓の外へと向けていた視線を彰玄へと向ける。


「明日、太陽が天高く昇った頃。

 そうてすね……ご予定がなければ、正午前後においで下さい。」


「その時刻に何かあるのか?」


「来てくだされば、分かります」


 そう言って、明葵は楽しそうに微笑むのだった。





 次の日。

 明葵が予測した通り、澄み渡った青空に太陽が輝く。


「華乃ちゃん、おはよう。

 昨夜はとっても温かく眠れたね」


「明葵さまぁ……この壁の温かさ、最高ですぅ……!

 朝の冷え込みも平気でしたし!

 本当に良かったですよぉ……!」


 妖猫族とはいえ、猫は猫。

 華乃は寒さに滅法弱かった。

 そのため、円塔の寒さは明葵よりも華乃の方が死活問題だったかもしれない。


「ふふ……小鬼さんたちに感謝ね。

 煙道を掃除して、壊れている部分を補修してくれたから使えるようになったんだもの。」


「ぴ?」「うにゅ?」「しゅ?」


 話題に上った小鬼たちが、明葵から貰った干し肉を齧る手を止めて首を傾げる。


「兄様たちに頼んで、珠が届けてくれた干し肉だけど……気に入ってもらえたみたいで良かった」


「しゅー!干し肉、すき!」


「ぴ!歯ごたえ、そこそこなのぉ!」


「うみぃ!鹿、おいしーの!」


 ガジガジと干し肉を齧る小鬼たちの姿と、温かさに丸まっている猫の華乃の姿に、明葵の頬が緩む。


「…………」


 そんな可愛い小鬼や猫の華乃の姿に癒されながら、明葵は正午くらいに現れる彰玄達のことを考える。


「今日は、天気が良いから……明かりも届くわね。

 説明ついでに、もう少し地下室を調べたい気持ちも有るけど……王弟殿下達が居ない時の方が良いわよね」


 明葵は苦笑する。

 知識を披露することは、まだ良い。

 しかし、流石に権力者相手に小鬼や妖猫族の華乃を紹介する勇気はまだ無いと明葵は苦笑してしまう。


「ふふふ……青銅の枠で、あんなにも驚くんだもの。

 地下室も、きっとびっくりするわね。」


「ふにゃあ?

 ビックリしすぎで目玉を落っことさないと良いですねぇ……」


「え……目の前でお目々が落っこちたら、どうしたら良いのかしら……?

 拾って嵌め込む……いや、衛生的にちょっと……」


 真剣に悩み始めた明葵に華乃が、片目を開けて見詰め、笑いを堪える。


「そうですねぇ……取り敢えず、踏まないように気を付けるのが一番かなぁ、と……」


 変な所で明葵さまは可愛いなぁ……と思う華乃に気が付くことなく。


「そうね……確かに、踏まないことが一番重要かも……!」


 真面目に頷く明葵。

 明葵と華乃を見守る小鬼たち。


 そして……少しずつ太陽が天辺へと移動し、正午を知らせる王城の鐘が鳴り響く。


「……正午、ですね」


「みゃー……」


 円塔の一階で待つ明葵と華乃の耳にも、正午の鐘の音が聞こえた。

 

「お待ちしていました、王弟殿下、夏侯さま」


「……約束の刻限だ」


 円塔の扉が開き、凛を従えた彰玄が姿を表すのだった。




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