第七話
地下室を探検してから数日。
「ふふ……ふふふ……!」
「明葵さま……」
「華乃ちゃん!
準備が整ったわ……!」
「そうですねぇ。
明葵さまが楽しそうで何よりです!」
怪しい微笑みを浮かべる明葵に、華乃も満面の笑顔を返す。
「ふふ! 今夜からは暖かく眠れるわ……!」
「夜は石造りのせいなのか、すっごく寒いですもんね……!」
身を寄せ合って眠っていた日々。
寒さに気が付いた彰玄や凛が、追加で寝具を準備してくれた。
だが、寝台を抜け出せば足元から這い上がってくる冷気。
「さぁ! 小鬼さんたち!
点火しちゃってください!」
「ぴぴっ!」「しゅー!」「うにっ!」
明葵の号令に合わせて、小鬼達がピコピコと動き出すのだった。
王都の西側へ太陽が沈みかけた頃。
執務室へと戻る彰玄と凛。
足早に廊下を歩いていれば、窓の外に見える一筋の煙。
「……煙?」
「あの方角に厨は無いはずですが……?」
ふと見上げた窓の外。
薄暗くなる前の最後の夕日。
赤く染まりかけた夕暮れの空を、一筋の煙が昇っていく。
「…………凛」
「まさか……っ……」
彰玄と凛は顔を見合わせ、走り出す。
『円塔の一階とか、外に火を放たれたら、私の丸焦げが出来上がりますよ』
彰玄と凛の脳裏に蘇るのは…………明葵の一言。
「(……っ……白 明葵……!)」
暗くなり始めた王城内。
静かな廊下に彰玄と凛の足音が響く。
息を切らせることなく円塔まで駆け抜けた二人。
「っ………?!」
「な、んで……?!」
辿り着いた円塔。
確かに、細い煙は上がっているのに…………何の変哲もない警備兵たち。
「しょっ、将軍閣下……?!」
「何か、我らに不手際でも……?!」
血相を変えて現れた彰玄と凛の様子に、円塔を警備する兵士達はただならぬ物を感じた。
「……お前達に聞く。
何か普段と違うことは起きなかったか?」
「違うこと……取り立てて、何も……」
「………………そうか……」
偽りを吐いている様子のない兵士達。
「…………」
無言で見上げた塔の天辺からは、確かに一筋の煙が立ち上っている。
「(……火災ならば…………暗くなり始めた夜の闇を照らす炎が見えるはず。
円塔の天辺よりだけ立ち上る煙も、一筋ではなく石壁の隙間より、幾つも立ち上っても可笑しくはない………)」
最後に訪れた今朝と変わった様子のない円塔。
夕日が沈み、光が消えていく夕闇を照らす炎も見えない。
一筋の煙は、まるで厨の煙突から立ち上るが如く。
「…………」
静かに円塔を眺める彰玄の背後で、兵士達に聞き取りを行う凛の声が聞こえる。
「…………」
事実を確認する必要がある。
目を細めた彰玄は、躊躇うことなく円塔へと足を踏み入れた。
「彰玄様っ?!」
慌てた凛の声音が響き、何やら兵士達へも指示を飛ばしている。
「お待ちをっ!」
その声を背に聞きながら、彰玄の歩みは止まることはない。
仄暗い円塔の階段をズンズンと登り進めていく。
「彰玄様っ! 危険ですって……!」
蝋燭の明かりすらなく進んで行く彰玄に、凛は焦る。
「(刺客とかもいないとは限らないけどっ!
それ以上に、真っ暗な階段を踏み外したり!
転んだりしたら大怪我に繋がるだろっ……!)」
せめて蝋燭を用意するまで待って欲しいのに、彰玄の歩みは止まらない。
「白 明葵!」
流石は武人というべきか。
息一つ乱れることなく、最上階へと辿り着いた彰玄。
「み゛っ?!」
有無を言わさぬ雰囲気のままに、明葵の自室の扉を開け放った。
「えっ……え、何ですかっ?!」
大きな音を立てて開いた扉に、明葵は飛び上がって驚いてしまう。
「えっ……えっと、王弟殿下……?」
「………………」
目を白黒させて驚いた様子で彰玄を見上げる明葵。
「あ、あの……何か、ありましたか?
私……何も悪いことはしていませんよっ?!」
無言の己に対し、視線を彷徨わせて答える明葵の様子に彰玄の片眉が跳ねる。
「……悪いことはしていなくても……"何か"をしたんだな?」
「えー……大したことは、していません……」
「したんだな?」
「……すこーしばかり、過去の遺物に手を加えただけですよ?」
「お前の少しは、信用ならん」
「う……こんな女が一人が出来ることなんて、たかが知れていると思います」
「一般的な貴族の女は格子の枠を一人では外さん」
「アレは、経年劣化とテコの原理を知っていれば、誰でも出来ます」
「普通は知らん」
「酷いです……極々普通の婦女子を捕まえて……」
「お前が、普通の枠に収まる女ならば苦労はしない」
「普通です。
野良犬相手でも、命の危険を感じるか弱い女です」
「腕力や武力的な意味合いではか弱くとも、お前の頭の中身はか弱くない。」
「…………王弟殿下、私への評価が辛辣すぎませんか?」
「事実を述べているにすぎん」
「「………………」」
無言。
「……あの、結局……あの煙の正体を確認しなくても宜しいのですか?」
胃の辺りを押さえた凛が、おずおずと彰玄と明葵の掛け合いに割って入った。
「……………白 明葵、円塔の天辺より煙が上がっていた」
「煙……あ!」
凛の言葉に、円塔を駆け上った理由を思い出した彰玄が咳払いをして明葵に尋ねた。
「そう!そうでした!」
一瞬だけキョトンとした明葵だったが、すぐに輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
「見付けて使えるように整備したんです!
隠された地下室と!
その地下室にあった大きな炉をっ!」
心の底から嬉しそうに。
明葵は彰玄と凛へ報告するのだった。
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明葵の発明と瑞華国の行く末、そして彰玄との関係が「続きも読みたい!」「面白い!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです!
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