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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第二章 知恵の芽吹きと絡繰の塔

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第一話



 春の曙。


 真冬の頃に比べて、日の出が早くなったとはいえ、まだまだ薄暗い。


「…………」


 それは、王城に住まう者達も同じであった。


「……夜明け、か」


 毎日ほぼ同じ頃合いに目覚める彰玄が、寝台の中でポツリと呟く。


 調度品の数々は、王弟の名に相応しく一級品が用意されているものの。


 彰玄が使用しない物や華美な飾りなど、一つもない部屋。


「…………」


 身の回りの世話をする存在を呼ぶことなく夜着を脱ぎ去り、身支度を整えた。


「彰玄様、失礼します」


 暫く自室で過ごしていれば、凛が現れる。


 そして、彰玄の一日はまた始まるのだ。




 

 自分の意志で明葵が王城内に残ると決めて数日。


 円塔を改造したいと言っていたものの。


 女一人の力で急に変わることもなく、変化することの無かった日常。



 …………そう、油断していたのである。



 普段通りに。


 円塔へと足を踏み入れた彰玄と凛。


「…………」


「……え……何、コレ?」


 昨日の夜まで無かった存在に目を見開く。


 そんな二人の背後で玄関の扉が閉まった。


「は、え……?!」


「……天球儀、か?」


 円塔の一階。


 中央部分に昨夜まではなかった丸い枠組みがあった。


 錆びていたはずの青銅製の輪が、美しい姿を取り戻して幾重にも重なり合う姿。


 古びていた天球儀が、その美しさを取り戻して吹き抜けの真下に鎮座していた。


「……一晩で仕上げたのか?」


「まだ作業の途中なんですかね……」


 天球儀の下には、作業途中も思われる部品や工具が散乱していた。


「……っ」


 転がっている部品の一つを彰玄が持ち上げようとする。


 持ち上げた部品から彰玄の手に、ズシリと伝わる重さ。


「……女一人で……持ち上げたのか……?」


「重っ!

 はぁっ?! コレっ! 結構な重さが有りますよっっ?!

 どうやって持ち上げて……作業したんだよ……?」


 謎が深まる。


「(……よく見れば……この、工具の類…………この円塔に有ったものか?

 それにしては、使い込んだ形跡は有るが……錆の一つもない……)」


 何種類もある工具の数々。


 使い込んだ形跡はあるものの、手入れをしっかりとされているのか錆の一つもない。


「………?」


 深まって行く謎に、大きな天球儀を見あげていた彰玄と凛。


 その耳にガラガラ……と小さな音が聞こえてきた。


「何の音……は……はぁっっ?!」


「何だ……アレは?」


 小さな音に誘われるように、吹き抜けを見上げれば……


「……橋と何だ……?」


「……籠、ですかね……?」


 吹き抜けを横断する三本の細い橋。


 数本の縄を編んで作ったのか?


 太い縄で釣り上げられ、上下に動く大きな籠。


「……白 明葵に聞く方が早い、か」


「そうですね。

 まぁ……嘘は付けない御仁なので、その方が早いですね」


 彰玄と凛は顔を見合わせ、頷き合う。


 凛が先陣を切るように先頭に立つ。


「(彼女の性格からしてないとは思うが……危険な改造している可能性もある。)」


 思い出すのは、霊山の麓にある白家の屋敷に帰る母・蘭花を見送った……あの日。


「(あの時、防犯対策って言ってたからなぁ……)」

 

 蛇が出るか、鬼が出るか。


 取り敢えずは、己が盾になるつもりで凛は螺旋階段を登り始めるのだった。





 円塔の最上階。


 嘗ては天文学者が空を見上げていた部屋は、明葵の自室となっている。


「……この塔の建築様式からして……恐らくは、百年以上は前のもの……のはず……!」


 窓を塞ぐ青銅製の格子。


 その枠と壁の継ぎ目を見詰め、明葵が思案する。


「よしっ!

 この格子の枠に決めたわ!」


 ガンガンガンガンッッ!と鈍い音が響く。


 明葵は、手に持っていた先端をヘラのように整えた青銅製の太い棒を格子の枠と壁の隙間に捩じ込む。


 そして、楔を打ち込む要領で、先端とは逆の方を金槌で叩いた。


「耐久性の落ちた状態なら……女一人の力でも、テコの原理を使えば……っ!」


 渾身の力を振り絞り、明葵が力を込めれば、古びた青銅製の枠からギシギシと音がし始めた。


「あと、もうちょっと……!」


 壁と枠の間がズレ始め、パラパラと砂埃が落ち始める。


 ふんっ!と更に力を込めた瞬間。


「白 明葵!

 妙な音が聞こえたがっ…………」


 音を立てて開かれた自室の扉の向こう側から焦った顔の彰玄と凛が現れる。


「……え?」


 ガコンっ!


「…………は?」

「え……ええっっ?!」


 彰玄と凛が扉を明け放った、その瞬間。


 明葵が力を込めていた青銅製の格子の枠が、音を立てて外れてしまったのだった。

 

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