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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第一章 運命の歯車と鳥籠の毒

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第三十一話



 毒薬事件から数日。


「……帰りたいと思わなかったのか?」


 霊山を静かに窓から眺める明葵の背中へ、彰玄が問い掛ける。


「……帰りたいと言ったら、帰して下さいますか?」


 明葵の体調が完全に回復したことを典医が診断したことで、蘭花は白家の屋敷へと帰って行った。


 寂しくないと言ってしまえば、嘘になる。


 霊山を……恋しい気持ちもある。


 だけど、明葵は自分で此処にいると決めたのだ。


「…………賭けは、続いている」


 彰玄には、明葵の心がわからない。


 分からないが、それ以上に自分自身の心の変化に彰玄は戸惑う。


 まさか……自分が、女に微笑みを向けて欲しいなどと思う日が来るとは……夢にも思っていなかった。


 未だに……己が恋慕の情を抱いているなど、微塵も認めたくないが……!


「(……泣かれると、思っていたが……)」


 母と共に帰りたい、と泣くかもしれない。


 その彰玄の予想に反して、明葵は泣く様子もなく変わらぬ様子で鳥籠の中にいる。


「存じています。

 最も、今振り返れば……賭けと言うよりも、取引、もしくは契約の方が正しかったかもしれませんね。」 


 あの時。


 怯える心を抑え込み、提示した"賭け"。


 明葵にとっては、確かに命を"賭け"た言葉だった。


 しかし、賭けというには勝敗のない……どちらかと言えば、"取引"が正しかったかもしれない。


 冷静になった今。


 "賭け"を提示したあの時を振り返る。


「私が王弟殿下の役に立つ間は、一族を守る。

 ……その条件の"賭け"ではなく、"契約"と言い直した方が良いかもしれませんね。」


 彰玄から一族の命の保証を引き出すために、死ぬ覚悟だった明葵。


 アレから一ヶ月も経っていないが……少しだけ、彰玄と歩み寄れた、か?


「……白 明葵」


「はい」


「……彰玄と名前で呼ぶのでは無かったのか?」


「え……」


 目を瞬かせる。


 思考を巡らせ……そう言えば、そんなことを言ったかもしれないと思い出した。


「お呼びしましょうか、と疑問形でした。

 名前で呼ぶとは言っていません。」


「呼べ」


「お断りします。

 絶対に、面倒なことになると把握しました。」


「……性格が変わったか?」


「変わっていません。

 もともと、こんな性格です。」


「初対面の時よりも、言葉が強い」


「王弟殿下には、はっきりとお伝えした方が良いと学びました」


「それは、俺を理解したということか?

 ならば、尚更に名前で呼べ。」


「距離感を縮める必要の無い、理解の及ばない尊き方の名前を呼べるような立場ではありません。」


「…………呼べ」


「お断りします」


「…………」


 不機嫌だと眉を寄せる彰玄を見て、明葵は心の中で笑ってしまう。


 冷徹怜悧だと呼ばれる彰玄。


 しかし、明葵には近所の駄々っ子がヘソを曲げているようにしか見えなかった。


「……それに、王弟殿下は私がこのように言い返す方がお好きなのでしょう?」


「っっ?!」


 ふわりと微笑みながら告げた明葵の言葉に、彰玄の表情が一瞬だけ崩れ、耳が微かに赤く染まった。


「…………言い返さないのですか?」


 瞬時に否定されると思っていた明葵。


 しかし、無言で顔を逸らして口元を手で覆った彰玄に首を傾げる。


「王弟殿下?」


「……何でもない」


 不思議そうな明葵と初めての恋に戸惑う彰玄。


「(……言えるはずがないだろうっ……!)」


 再び、明葵と軽口のようなやり取りが出来て嬉しくて堪らないなどっ……!


 明葵は的確に彰玄の図星を突いていた。


「(……微妙に機嫌が悪いかと思ったけど……んん?

 機嫌がなおった……のかな?)」


 ふむ、と明葵は考えを巡らせる。


 今ならば……お願いごとを聞いてもらえるかしら……?


「王弟殿下、お聞きしたいことが有るのですが……」


 改まったように、明葵が彰玄を見上げて口籠る。


「……なんだ?」


 しかも、明葵は微かに頬を染め……彰玄の視線から恥じらうように瞳を伏せた。


「(……聞きたいこと……とは、何だ?)」


 恥ずかしそうに頬を染め、瞳を潤ませた女が男に聞きたいこと……?


 チラリと背後に控える凛を見る。


「…………」


 予想外の明葵の態度に、凛は邪魔をしないように既に距離を取り、背中を向けていた。


 寝台の上で丸まっている白猫が、片目を薄く開け……鼻で嗤った。


「取り敢えず……この円塔を私の好きなように改造してもいいですか?

 それに、円塔の中に有る撤去されたあとに放置されている歯車など諸々を弄ってもよろしいでしょうか?

 更に、円塔の中に有る古書の類も一通り目を通したいですし…………出来れば、設計図を書くための木の板など貰えると有難いのですが……。

 あ、木の板が無理でしたら、ちょうど良く石造りの壁ですから、そちらに書き殴っても宜しいでしょうか?

 あと、防犯対策と言いますか……万が一の緊急時に備えて脱出経路の確保などの安全対策。

 特に、一階に火を放たれる可能性を考慮した…………」


「………………好きにしろ」


 微かにでも期待してしまった自分が恨めしいと彰玄は心底思った。


「本当ですかっ?!

 ありがとうございます、王弟殿下っ!」


「……………」


 満面の笑顔で礼を言う明葵に無言を返す。


 少しだけ煤けてしまった彰玄の背後で、凛が遠い目を浮かべ、猫の姿の華乃だけが満足げに笑うのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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