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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第一章 運命の歯車と鳥籠の毒

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第三十話



 彰玄の執務室。


 執務机に突っ伏すように頭を抱える男が一人。


「……彰玄様、何をやっているんですか?」


「…………」


 それは、こっちが聞きたい!


「……凛……」


「何でしょう?」


「俺は……何かが、可笑しい……」


 最初は、体調不良かと考えていた。


 だが……普段は何ともないのだ。


 それなのに……


「何故…………白 明葵が関わった時だけ……」


 明葵が傷付けられないように、囲ってしまいたい。


 明葵に彰玄の側にいて欲しい。


 明葵が彰玄以外に微笑むことが気に食わない。


「……………意味が分からん」


 頭を抱えてしまう。


 何故、身体が熱くなる?


 何故、心臓が早鐘のように打つ?


 何故……名前を呼ばれただけで心が苦しくなる?


「…………彰玄様……」


 嘘だろ、おい……。


 凛は頭を抱える。


「(……材料が出揃ってるじゃん。

 ちょー豪華な満漢全席が完成してるじゃんっ!)」


 逆に、何でそこまで出揃ってるのに分かんないんだよっっ?!


「………………彰玄様……」


 胃が痛い……。


「例えば、ですけど…………明葵嬢が、陛下の勧めで他の男と婚約が確定し、婚儀を挙げることになったらどうされますか?」


「は?」


 白 明葵が、他の男と婚儀?


「ぶっ潰す」


 絶対に許容してたまるか。


「何故?

 別に、明葵嬢は彰玄様の……婚約者でも、妻でも有りませんよ?」


「それは……そう、だが……」


 明葵が彰玄以外の男の隣に立ち、微笑む。


 何れは、その男の赤子を産み……


「…………っ」


 想像しただけで腸が煮えくり返る。


「(……すげー殺気なんですけど……)」


 ……胃が痛い……


「……他の男の妻になることが嫌なら、明葵嬢が彰玄様の妻になったとしたら?」


「…………は?」


 俺の妻……?


 王弟でありながら彰玄には、婚約者も妻もいない。


 それは、姉である黎陽が皇帝としての足場を固めるための処置でもあった。


「明葵嬢だけでなく、白一族は権力を望みませんから都合がいいのでは?」


「…………」


「明葵嬢が……頬を染めて、優しく彰玄様に"お慕いしています"と……」


「ッッ?!」


 一瞬で顔が赤く染まる。


「……彰玄様、恋煩いって知ってます?」


「なっっ?!」


 目を剥く。


「俺はっ!!

 そのようなことは断じてっ……な、い……はず……」


『彰玄様』


 耳の奥に彰玄の名を呼んだ明葵の声が蘇る。


 初めて彰玄に向けられた微笑み。


 ……胸が、熱くなる。


「…………俺は……白 明葵に焦がれて……いるのか?」


「こっちが焦れったくなるほどに、恋い焦がれていますね」


「っ……?!」


 頭突する勢いで執務机へ突っ伏す。


 凛に絶対に見えないように。


 太い腕で真っ赤に染まった顔を隠す。


 しかし、その耳や首筋の赤は隠せていない。


「っ……く……!」


 ……大の男が悶えている姿など見せて溜まるかっっ!!


「……まー……明葵嬢も、その周りも……一筋縄では行きそうにありませんし……」


 皇帝である姉の立場を脅かさない権力を求めない令嬢とその一族。


 それが、彰玄が婚約者や妻に求める唯一の条件だった。


「婚姻の条件自体は満たしてますし……良かったですね」


「………………知らん」


 理性的な彰玄には珍しい拗ねたような声音。


「ははっ……!」


 凛は主であり、幼馴染である彰玄の珍しい反応に思わず笑みを零してしまうのだった。


 



 彰玄が恋を自覚している頃。


 明葵は無言で固まった彰玄を、凛が半ば引きずるようにして退室した姿を思い出していた。


「……毒って……怖いね……」


 遅効性の効果だろうか?


 あの冷徹な王弟殿下と恐れられる彰玄が、顔を赤く染め上げて固まってしまうなど……!


 体温の上昇、脈も速くなっていた。


 心臓系統に作用し、発熱まで……やはり、複数の毒を混ぜた未知の調合だったのだと明葵は納得する。

 

「あれ……でも、私は……んん?」


 何故、明葵には遅効性の効果が出現しないのか?


 彰玄よりも毒を塗った量も、時間も多かったはずだが……?


 そう言えば……真夜中に白蓮さまが訪ねて来てくれて……。


「(そうか……私は、白蓮さまのお陰で遅効性の効果がでなかったのね……。

 ……白蓮さまに感謝しなきゃ……)」


 白蓮が毒の一部を引き受けたことを明葵は思い出す。


 そのお陰で、毒の効果の一部が出現していないのかと一人納得した。


 今度お会いした時に、白蓮の好物でも準備しておいた方が良いかもしれない。


「(……全く……気が付いてないわねぇ……)」


「(ぜーんぜん脈無しで、ザマァ見ろですね!)」


「(一応なりとも、王弟殿下って美形の部類だと思うのだけど…………あの子の好みじゃないのかしら?)」


 蘭花は彰玄の姿を思い浮かべる。


 無表情だが整った顔立ち。


 まさに、氷のような美貌というに相応しい。


 理知的な切れ長の目、形の良い薄い唇。


「(んー……ぶっちゃけ、明葵さまは美形を見慣れてますよ。

 だって、いくら人間の中で美しくても、人外の美しさには敵わないでしょうから。)」


「(確かに)」


 納得である。


「……それはそうと、明葵」


「はい、お母様」


「貴女は、この後は……どうするの?」


「え、この塔にいる予定で……あれ?」


 蘭花の問い掛けに明葵は、キョトンと返す。


「(……あれ……もしかして……此処にいる理由って…………無かったり?)」


 蘭花に問われて、改めて考えてみれば……鳥籠から逃げようと思えば、逃げられるのだ。


「(……逃げる……?)」


 霊山へ。 家族の元へ戻り、みんなで一緒に他国へ逃げる。


「(……逃げる。

 多分……此処に居るよりも、逃げる方が楽だわ)」


 高い円塔の上に一人ぼっち。


 周囲に味方なんていなかった、数日間……。


「正直に言えば、今回の一件はすごく怖かったです……。

 ……毒を盛られて、死を望まれる。

 そんなの……霊山にいた頃は無縁でしたから。」


 何時だって、明葵を暖かく包みこんでくれる家族達。


 大好きだと言ってくれる人ならざる者達。


「霊山に戻れば、私は怖い思いなんてせずに生きていけます。」


 そう、そうすれば……明葵はいつだって守ってもらえる。


 心安らかに、過ごすことが出来る。


「でも……それは、嫌だわ……」


 だけど、明葵の心がそれを拒絶する。


「だって……何にかは分からないけど、負けた気がします!」


 そう、そうなのだ。


 怖かった。


 悲しかった。


 苦しかった。


「第一、私は龍理さま達と約束したのに、まだ王弟殿下達を振り回していません!」


 それに……それにっ!


「この円塔の中にある古書の類も気になりますし……!

 折角、見付けた歯車も放置して帰るのは嫌です!

 もし、もしも……この円塔を大改造しても良いなら、もっと居心地良くして……!

 それから、王都における公衆衛生の必要性などについても議論してみたいです!

 しかもしかも! 王家御用達の職人さん達の技を見学させて貰えたりしたら……!

 百聞は一見にしかずって言いますから……」


 瞳を輝かせ、頬を上気させた恍惚とした表情の明葵が幸せそうに語り出す。


 嬉しそうに、楽しそうに。


 まるで、恋する乙女が愛する男の好きな部分を語るように…………知識欲を爆発させた。


「明葵」


 慣れた様子でため息をつき、蘭花がパチンっと明葵の額を弾く。


「み゛っ?!」


 喋り続けていた明葵の口が止まり、赤くなった額を抑える。


「いい加減になさいな。」


「あぅ……お母様、申し訳ありません……」


 やってしまった……と体を小さくする明葵に、蘭花は苦笑する。


「……貴女の気持ちはわかりました。

 危なくない範囲で好きになさい。」


 旦那様には伝えておきます、と言いながら、蘭花は苦笑する。


「……誰に似たのかしらねえ……」


 困った子だ、と思いながら、蘭花は可愛い娘のために出来ることを思案するのだった。

 

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