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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第一章 運命の歯車と鳥籠の毒

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第二十七話



 水を変えてきます、と明葵の眠る部屋から立ち去った蘭花。


「…………」


 眠る明葵の顔を見つめ、華乃はため息を付く。


「……アンタは私以上に面倒な奴だから……少しだけよ……」


 何百年以上の付き合いでは有るものの、ものすごーく面倒だと思っている存在。


「…………」


 だが、今回だけはしょうがないと華乃は尻尾を揺らしながら蘭花の後を追った。


「…………それは、お互いさまでしょう」


 窓から入る日差しよけの天幕の影。


「…………」


 静かに現れたのは、色素が薄く背丈の大きな男。


「…………」


 寝台に眠る明葵の側に音も無く近付く。


「っ…………さ、ま……」


 形の良い、薄い唇から小さく零れ落ちる名前。


 切なげに。


 苦しげに歪んだ蛇の如き美貌の顔。


「…………っ……ん……」


 縋るように伸ばした指先が、明葵の頬に触れそうになった瞬間……


「………ぅ……びゃ、くれ……さま……?」


 薄っすらと瞼が開いた。


「……手……」


 無意識、だろうか……?


 まだ夢うつつの明葵は、ボンヤリとした表情で白蓮の手へと指を延ばした。


「……つめ、たくて……きもち、いい……」


 白蓮の手を引き寄せ、己の頬に当てる。


 熱を持った明葵の頬には、ひんやりとした白蓮の手が心地よかった。

 

「……どうか……お眠りください。

 貴女様は、私が必ずお守りしますから……」


 人の身には、過ぎた毒。


 だが、白蓮にとっては児戯にもならぬ毒。


「……人間から怪しまれない程度に、私が毒をお引き受け致しましょう。」


 切なくも、優しい微笑み。


 あゝ……誰よりも、何よりも、大切な唯一人の御方。


「……今度こそ……絶対に、お守り致します。」


 毒が薄まり、重かった体が微かに軽くなり、明葵の瞼が再び閉じていく。


「……びゃく、れん……さま、ありが……と……」


「おやすみなさい……良い、夢を」


 優しい微笑みを残して……白蓮は明葵の元を立ち去ったのだった。





 白蓮が明葵の元を訪れた頃。


「…………何なのだ……いったい……」


 皇帝の自室。


「……毒薬未遂が発覚後に姿を消した唯一人の下男。

 医務官の証言からも、毒をすり替える可能性が唯一有った存在……」


 何が起これば……あのような……


「……あの血文字が指し示した高位貴族の屋敷へ急行した時には、もう……」


 明葵の元を立ち去ったと同時に、彰玄の元へと伝えられた下男の凄惨な一件。


「……アレは……人の仕業じゃないでしょう……!」


 様子の可笑しい彰玄が、兵を率いて飛び出さなかったことが奇跡だった。


 そして、耳を疑う報告を受けた凛が彰玄のかわりに確認へ赴いた現場。


「……全身を生きたまま蛇に噛まれ、食い千切られて死ぬなど……!」


 思い出しただけでも吐き気がこみ上げてくる……!


「……先日から続く落雷、神隠し…………そして、今回の下男と高位貴族……」


 黎陽の眉間にシワが寄る。


「……全ての事件に関係する存在は……一人だけ……」


  "白 明葵"


「彼女は、何かを知っているのでは?」


 人間の人知を超えた事件の数々。


 叡智を持つ存在ならば……


「……それは、違う」


「彰玄?」


 何処か暗い瞳をした弟。


「……もし、彼女が関わっていると言うならば……」


 彼女が関わっているならば、一番最初に死体を晒すのは……


「まず、命を奪われるべきは"俺"だ……」


「っ……彰玄、何を言う!」


 彰玄の言葉を、黎陽は拒絶する。


 ただ一人の同腹の、信頼出来る弟が凄惨な死に方をする?


 冗談じゃない!!


「そのようなことは断じて認めん!」


 皇帝としてではなく、一人の姉としての叫び。


「……白夫人より、一喝された。

 俺の守り方は、独り善がりの人形遊びだそうだ。」


「は……?」


 意味が分からない。


「…………」


 思わず、凛を見るが小さく首を振る。


「……俺は……結局、彼女を傷付け、殺しかけた挙句の果てに……守られただけだった……」


 彰玄が毒に触れてしまったから、と。


 恐ろしくて堪らないはずなのに…………毒を、彰玄が傷付けた痣に塗った白 明葵。


「……守るとは、何だ……?」


 どうすれば……独り善がりではなく、彼女を守れる?


「…………」


 彰玄には……分からない。


「……分からないならば、聞けば良いだろう」


 大きな体が小さく見える。


 迷子の子供のような雰囲気を纏う彰玄。


「……姉上……?」


 不安に苛まれる弟を見たのは……いつ以来だろうか?


「間違ったことをしたならば、一人の人間として謝れ。

 …………余……私も、お前と同じような育ち方ゆえ、確かなことは言えないが……」


 迷う弟にハッキリとした答えを教えてやれずに情けない姉だと自嘲する。


「謝ってから、相手の気持ちを聞いてみてはどうだろうか……?」


「……そう、か……」


 分からないなりに、姉弟二人で出した答え。


 それが、正しいのかは分からない。


「…………礼を、言う……」


「うむ……」


 姉弟二人。


 悩みながら出した答えだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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